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問題

 なんて事だ。

 ああ、神様もいっぱいいるんだなぁという感想は置いておいて、その使いだという天使ミカエルは俺に言ったのだ。


 お前を今から大人気VRMMORPG『IROMO・SAGA』のNPCに転生させると!!


 いや、中に人がいないからNPCなのに、その中の人に転生するってどういう事なのよ。

 という話なのだが。

 彼女曰く、超スーパーAIによって可能となったリアル感ばっちり、個性豊かなNPC達、だがその正体はなんと!?

 俺みたいに死んだ者を転生させただけの、生きた演者なのだという!!


 つまりプレイヤーにとっては仮想世界にすぎないイロモの世界も。

 転生者、NPC達にとっては本物の異世界。

 現実なのだ!!


 えげつねぇな……。


 えげつねぇ、えげつねぇよ神様達。

 何が悲しゅうて、村人Aや村人B役を延々やらされる生涯を送らねばならんのよ。

 オイラは嫌だよ。


『ここはポポロの村だよ!!』。

『旅の人よ、装備品はちゃんと装備しないと意味がないぜ』。


 そんな台詞を昼夜問わず言い続ける生活なんて嫌だああああああああ。


 なんてだだをこねる俺に。


「君、それいつの時代のゲームのNPCよ。そんなNPC、イロモにはいなかったでしょ」


 と、ミカエル様は冷静な突っ込みを入れてくれた。

 さらに彼女は言った。

 俺が今回転生するのは村人だなんだと糞つまらない生活をするNPC連中とは違う。特別なNPCに転生するのだと。


 特別。


 なんと甘美な響き。


 しかも、俺にぴったりのNPCだと言うではないか!!


 ぴったり。


 特別でぴったり。


 おまけに、このNPC役を頑張れば、神様たちが君のお願いを聞いてあげない事もないような気がするキャンペーン付だという。


 特別でぴったりでおまけ付。


 パーフェクトゥ……な、天使の甘い言葉に酔う俺に用意された、転生先。

 それは……。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「おお、これがギルドガーディアンか」

「見た目は酒場で雇えるのと変わらないみたいだね」

「でも値段は桁が違う……。しかもギルド専用の特別なNPC……。きっとすごく強い……」


 光より先に、音が耳から入ってきた。

 声。

 若い女の声。

 それが聞こえてきた後に。


 俺は光りをみた。

 瞳がまばゆい光を捉える。


「あっ、起きた」


 生まれ変わった俺の目の前には三人の女の子がいた。

 皆、可愛らしい、俺の前世、死ぬ直前の年頃と変わらないぐらいの女の子達が。


 というか。


――え……。


 滅茶苦茶見知った顔があるんですけど。しかも二つも。


「おっす。たっかい金だしてんだからしっかり働いてくれよ」


 なんか生意気な事言ってるこの女はとりあえず無視で、注目すべきは!!


「あ、あの、えっと一応このギルドのギルドマスターをしてますリリナです。これからよろしくお願いしますね、イージスさん」


 生まれ変わった俺の新しい名を呼ぶ、この麗しき少女こそ、俺が前世で一番愛した女(お母ちゃんを除く)。


 姫岸里利奈!!


 その人なのである!!


 イロモは現実の容姿と異なるキャラクターを作る事も可能となっていたが、赤の他人に成り済ます行為は禁止されており、その対策は完璧であった。

 そりゃそうだ。だって神様達が運営してるゲームだもの。

 副アカウントや規約違反行為に対する取り締まりも完璧。

 つまり、目の前にいる姫岸里利奈と瓜二つの容姿を持つキャラクターの中身は、姫岸里利奈、本人に違いないのである。


 しなやかな黒い髪。大きく優しい瞳。静かに佇めば、どこか愁いを帯びた美しさを体現する彼女の持つ雰囲気。

 乳だけでかいわ、尻だけでかいわ、の下品な女達とは違う、清楚な美しさ。


 いや、正直に言おう。


 時には俺も、ぷるんぷるん揺れる乳だけでかい女に目を奪われた事はある。

 時には俺も、ぷりんぷりん揺れる尻だけでかい女に目を奪われた事もある。


 だが、俺は結局帰ってくるのだ。

 天から降った雨水が川から母なる海を通り天へと再び帰るように。


 俺は彼女の美へと帰ってくるのだ。


「ああ、よろしく頼むリリナ。安心しろ、俺はお前を必ず守る。たとえどんな事があってもな」


 力強く、熱い眼差しで宣言する俺。

 最高にイカしてるぜ。

 てか、姫岸さんを初めて呼び捨てにしちゃった。前世は友達未満の関係だったからな、役得じゃわい、役得じゃわい。

 ありがとう神様。ありがとう天使。


「なんかこのNPC、ちょっときもくない? お前が守るのは姫じゃなくてギルドだっつうの」


 感謝の心を忘れぬ俺に雑音を飛ばしてくる生意気女。さきほどは見なかった事にしたが、これ以上はそうもいくまい。


「下品な女だ。ギルドマスターと違い礼儀というものを知らないらしいな、まずは名を名乗りなお嬢ちゃん」


 まぁ、知ってるんですけどね。前世の経験から。それにゲームだし、ネーム表示ぐらいあるので。


「てめぇ……、あたしはライナ、ナナムのメンバー。つまりお前の雇い主、ご主人様ってわけだ」


 ナナムは俺を呼び出したギルドの名前。


「それがわかったなら以後口の利き方に気をつけな」


 ライナ。本名は宝条雷那。容姿だけならそんじょそこらの芸能人を凌ぐ、美貌の持ち主だが、何せ性格が最悪。

 前世の小中時代を通して、俺にもっとも嫌がらせしてきた女。かつての天敵。


 こんな女が己が仕えるべき主人だなんて認められるわけがない。


「断る。礼儀も知らない尻の青いガキを、ご主人様と呼ぶほど、俺の剣は安くないんでな」

「なんだと!! イージスなんて大層な名前のわりにひょろそうな野郎が!! ぶっ殺す」


――この女なめてやがるな。


 天使様が前世とそっくり以外なら、常識の範囲内で好きな容姿のNPCにしてくれると言うから、まるで別人にするのも何だか寂しいし、前世の面影をどことなく残しつつ、死んだ年頃と同じイケメンボーイとして生まれ変わったのだが……。

 それがいけなかったか。

 どうせならムキムキマッチョの厳ついオッサンに転生して、こういう女になめられる事のないようにすれば……。


 いや、何を言っているんだ、俺は。

 宝条が俺の事をなめてようが、嫌おうが、そんな事は些細な問題。

 大切なのはギルドマスターであるリリナ。

 姫岸里利奈が俺に対してどんな感情を抱くかだ。

 厳ついオッサンでは彼女にも嫌われてしまうかもしれん。


 うわあああああああああああああああ。

 そうだよ、彼女だよ。姫岸里利奈だよ。

 転生先が彼女の所属するギルドって知ってれば、こんな中途半端イケメン?ボーイなんかにしなかったのに!!


 ああ、どうせなら過去の面影なんて消して、歌って踊れる某スーパーアイドルユニット並の超絶イケメンになっておけばよかった。

 失敗したあああ。


 くそう!! パーフェクトアイドルレベルの容姿に転生しておけば、事故を装って、彼女のおっぱい一つ揉んでしまっても。


 あら、も一ついかがですか? てな展開にもっていけたかもしれないのにいいいいいいいいいい。


 おっと、いかんいかん。

 冷静になるのだ冷静に。自分の置かれた状況を考えてみろ。

 これからは紳士的にいかなくてはいかんぞ紳士的に。

 だって俺は知ったのだから。この世には輪廻転生が確かに存在し、神々は俺達の行動をチェックしているのだと。


 雷那、お前はまだ何も知らない子供だ。

 思春期の幼い自我が暴れ、ちょっぴり悪に憧れるだけの少女だ。

 昔の俺なら、前世の俺なら、そんなお前の言動一つ、一つにいちいち腹を立てていたのかもしれない。

 だがもう、俺はあの時の俺とは違う。……何故なら。


――俺はもう世界の裏側を知ってしまったから……。


 ニヒルな気分に浸る俺の脳裏に素晴らしい詩が思い浮かぶ。



 かみさまはぼくたちのことをいつもみているんだなあ せいが。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ライナ、NPCにムキになりすぎ、かっこわるい……」


 そうそうNPCにムキになるなんて雷那はほんとに子供だなぁ。

 冷静になった俺はポムという名の三人目の少女と宝条の会話に耳を傾けながら……。


――ん? NPC?


 うぎゃあああああああああああ。またまたしまったあああああ。

 俺ってNPCじゃん。NPCじゃリリナと甘くて甘いラブロマンスに発展しねぇじゃねぇかあああああ!!

 無論、僕ちんは実は中身空っぽのNPCなんかじゃなくて煉城聖我の生まれかわりなんです。証拠に前世の記憶が残ってます。聞いてください姫岸里利奈さん!!

 なんてやろうとすれば、神様達に厳しく処罰されてしまう。転生する前に禁止事項として天使ミカエルから伝えられていた事だ。


 かつての自分を振り返れば、イロモで遊んでいた時、NPC達が自分達の真実について語る事は一度もなかった。

 これは絶対的禁止事項であり、無理に破ろうとしても、神様達の神力により、防がれてしまうのである。


 そのうえで、記憶を消されてゴミムシ行き。

 嫌に決まっている。


――どうしよう。


 そんな俺の深刻な悩みを知るわけもなしに宝条達の会話は続いている。


「それにいっぱいお金だして買ったギルドガーディアン、大切にしないと……」


 なかなか良い事を言うじゃないかポム嬢。

 見ればあなたも眼鏡が似合う、小柄なチャーミングガールではありませんか。

 聡明そうなお顔立ちも素敵。


 ギルドガーディアンは、俺が前世でイロモを遊んでいた頃にはなかった要素で、つまりはこの都度のバージョンアップで追加されたわけだ。

 運営に関わる天使ミカエルが言うにはギルドのランクによって雇える人数の上限や職種、種族が変わり、一人雇うにも高い料金を必要とするスペシャルNPCだとの事。


 そんな仲間NPCを攻撃しようとするんだから、宝条ちゃんの野蛮さには参っちゃうわ。

 それに比べて立派よポム嬢。

 冷静な判断であの野蛮ガールの動きを止めるなんて……。


 きっとあなた、将来イロモ界にポムありと呼ばれる名プレイヤーになれるわよ。がんばるのよ。


 俺が内心で大袈裟に眼鏡少女を褒めていると。


「ったく、大切にするのはいいけどさ。役に立ってもらわなきゃ困るだろ。無駄に金かけた置物にするわけにもいかないじゃんよ」

「それは確かに一理ある……」


 むむ、何やら雲行きが変わってきた。


「それじゃあさっそく、イージスさんを連れてモンスター討伐クエストをやらない? 私達のレベルじゃ、ちょっと厳しそうだった、あのクエスト」


 姫岸さんの提案に二人ものる。


「おお、あれか」

「あのクエスト……、確かに丁度いいかもしれない……」


 あのクエスト、いったい何だろう。

 俺とて前世ではイロモをそれなりにやり込んでいた、その自負がある。

 マックスレベル20とされるイロモにおいて、英雄レベルと呼ばれる10越えを果たした上級者、ラーベンの街にセイガさんありと呼ばれたほどの兵よ。

 PCのレベル、その他ステータスから討伐クエストのだいたいは予想出来るはずだ。


――レベルチェック!!


 イロモでは友好的なキャラクターのステータスは基本無条件で確認できるはずなのだが自分がNPCとあってか勝手が違うらしい。

 三人のレベルやHP、MPなどは見れるが、攻撃力など細かい数値までは見れない。

 それを知るには中立や敵対的キャラクターを調べるのと同様に魔法や技、道具を使う必要があるようだ。

 戦士タイプに生まれた俺にそのような物はない。


 だがしかし問題はない。


 俺ほどの上級者になればレベルと装備品の見た目を見れれば十分な情報となる。


 レベルはリリナが2、ライナが4、ポムが3。

 装備品の系統からしてリリナが回復役の僧侶系、ライナが前衛の戦士系、ポムが後衛の魔術師系。

 装備品自体も初心者が安易に入手出来る物でたいした性能はない。

 ところどころなかなか良い代物を身につけているが恐らくは誰かに恵んでもらった物、自分で難度の高いクエストをこなしたわけではないだろう。


 貰い物か。

 結構多いのよね、かわいいPCにほいほいアイテム貢いじゃう人。下心丸出しで恥ずかしいったらありゃしない。


――皆、元気にしてるかなぁ、アルセンダムのサヤカちゃんにパルチェちゃん、レイフゴットの歌姫シズク姉さん、それから、それから……。


 おっといかんいかん、散々アイテム貢がせておいて乳の一つも揉ませてくれんかった過去の女達を思い出している場合じゃなかった。


 まぁ、まだまだ初心者の彼女達が選ぶクエストなんてたかが知れてる。


「任せておけ、どんな魔物が相手だろうと俺は負けん」

「よし、決まりだね。ふふ、期待してますね、イージスさんの活躍」


 にこりと笑顔をこちらに向ける姫岸さん。


 我が美しきマスターリリナの、この笑顔を曇らせる奴に、男として生きていく資格はない。

 どんな魔物が待ち受けていようが、俺には関係はない。

 何せ俺は、特別ぴったりなNPCおまけ付に転生したのだから。


 でもまぁ一応自分のキャラの強さぐらい見ておくか。初心者クエストなんて余裕すぎるだろうけど。


――レベルチェック!!


 自分のレベルとステータスが表示される。

 表示された瞬間。

 表示された数字に俺は釘付けになった。



 レベル1。

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