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ゲームスタート

 クレイブの提案を承諾した俺達はシラハさんを一人残し、砦の内へと移動する。

 その時、扉を破壊された入り口の傍らにキスカが座り込んではいたものの、とくに妨害する事もなく黙って中へと通してくれた。

 猫女もクレイブの指示に不満はあるだろうが、少なくとも今は逆らうつもりはないらしい。


「シラハが負けるとは思えないけど、それでもまずは私達の力だけでもリリナちゃんを助け出せるよう全力を尽くしましょう」


 レティリアさんの言葉に元ルル・ルクルスの面々が頷く。


 シラハさんほどの男でも相手がプロのPK、しかもその中でも恐らくはかなり腕の立つ者となれば不覚をとる可能性はある。

 たとえ勝利出来たとしてもそれまでにどれほど時間がかかるか検討もつかないのだ。彼の勝利をただただ祈って待つわけにはいかないだろう。


 何より、自分達にも矜持がある。

 寄せ集めの雇われPK達を恐れて守りにまわるわけにはいかない。


「とにかく事前に決めていたポイントを一つ一つ潰していきましょう」


 救出作戦開始前に姫岸さんが囚われてるであろう部屋には当たりをつけてある。

 そのどれかに必ず彼女はいるはずだ。


 俺達は近場の目標ポイントから向かう事にし、皆で固まりながら移動を開始する。


 当初の予定では砦内突入後には、あらかじめ決められた班に分かれて、一斉に各ポイントに向かう事になっていたのだが、今の状況ではそれは単なる戦力分散の自殺行為に他ならない。


 班分けしての突入は急襲時に起こる敵側の混乱があってこそであり、今回のように敵に十分な時間を与えてしまった時点で中止せざるを得ない。

 それにシラハさんがいなければ捜索速度優先の作戦は無理がある。


 ここは少ない戦力を分散させずに集中させ、確実に一つ一つ部屋を調べていくしかないだろう。


「しかし、寄せ集めと言っても三十人も残ってるとなると一箇所に固まられてるとやっかいですね。単純に数の差で押されてしまうような」


 移動中、カイトさんが当然の懸念を口にするが、レティリアさんにはそれでも十分に勝算があるらしい。


「そうね。でも悪い事ばかりでもないわ。相手には高レベルの魔術師がいないみたいだし、いくら砦と言っても建物の中でそれだけの人数が固まってれば範囲魔法の餌食よ」

「確かに、そうなると威力のある範囲魔法が使えるレティリアさんや、レモンが重要になってきますね」


「任せてください!! ウルトラ・アルティメット・レモン・ザ・ファイアーが火を吹きますよ!!」


 カイトさんの言葉にレモンという名の女魔術師が気合十分に答える。


 砦内はひどく静かであった。

 目的の部屋を一つ、二つと調べていくがいずれも空っぽで一人としてPKと遭遇しない。

 それもそうだろう。

 敵が来るとわかってる状態で彼らPK達が選択する行動は二つ、一斉に襲い掛かかりにいくか、獲物が来るまでじっと餌のそばで待ち構えるかである。


 状況的に、後者を取るのが自然だ。


 彼らは待っている。

 姫岸さんを監禁している部屋の前で、俺達が近付いてくるのを。


 そう考えてはいても、罠や突然の不意討ちに気をつける必要はあるだろう。慎重かつ大胆に砦内を進んでいく。

 が、最初の敵は、俺達の予想外の位置で、予想外の方向からやって来た。


 砦の構造上、右手一階部を捜索し終えると入り口と繋がる十字路に戻らねばらない。

 まさしく、その戻ってきたタイミングで、敵が来るはずもない入り口側の通路から襲い掛かってきたのである。


「うっ!!」


 ほとんど悲鳴を上げる事もなくプレイヤーの一人が倒れる。

 わずか一撃、それもまったくの不意をつく形での一撃だった。


 歴戦のプレイヤーである元ルル・ルクルスの面々を相手にこんな真似が出来る者などそうそういるものではない。


 最速で標的の一人を退場させた敵は、俺達の行く手に立ちはだかり冷酷な笑みを浮かべていた。


「キスカ!! どうしてあなたがここに!!」


 敵の姿を目にして、レティリアさんが驚きの声を上げた。その思いは俺や他の者達も同じ。


「どうしてもこうしてもねぇよ、タコが。てめぇらカス共をきっちり始末するのが俺のやり方だ。こんな茶番すぐに終わらせてやる」


 ひどく不機嫌に、乱暴な口調で吐き捨てるキスカ。

 結局彼女はクレイブの提案したゲームなどに大人しく従うつもりはなかったのである。


「話が違うじゃない」

「あの糞野郎が言ったのは自分の駒とてめぇらをぶつけるって話だ。俺を駒から抜くなんて話はしてねぇ」


 抗議するレティリアさんに対して猫女は悪びれる様子もなく言い切る。


 たしかに彼女の言う通り、クレイブはその扱いを明言してはいなかった。

 だが、話の流れからして当然彼女は砦内の攻防には加わらないものだと誰もが思っていたのだ。


「それは……、いいの? 念話で今から彼らと連絡を取る事も出来るのよ。彼、きっと怒るわよ。それともクレイブに逆らうつもりなの?」


 外でのやりとりからしてキスカはクレイブに対して強く出られない、そう考えてのレティリアさんの発言だったが。


「はっ、馬鹿じゃねぇの」


 キスカは一笑した。そして……。


「いい歳したばばあが『先生に言いつけてやる!!』ってか、情けねぇ」


 強烈な一撃がレティリアさんの心を深く抉る。


「ば、ば、ば……」


 突然の暴言にフリーズしかかってるレティリアさん。

 そんな彼女を無視してキスカは言う。


「もう戦いは始まってんだよ。一度昂ったあいつが手を止めるはずがねぇだろ」


 彼女には彼女なりの計算があったのだ。

 快楽殺人者、戦闘狂、同じギルドに所属するクレイブの性質をよく知っているからこその判断。


 シラハさんとクレイブの戦いが始まってしまえば、もうそれは止まらない。

 たとえキスカが強引に俺達を狩りに来たとしても……。


「それにさぁ、てめぇら勘違いしてんだよ。俺は仕事の都合上あいつを立ててやってるだけだ。金魚の糞みたいに従うだけのカスと一緒にすんな」


 強がりの混じった猫女の言葉もレティリアさんにはほとんど届かない。

 何故なら今の彼女は大変な事になってしまっているからだ。


「お、おらに若さを分けてくれ……」


 レティリアさん、あまりのショックにキャラが壊れかけてますよ!!


 このままでは『頼れる美人お姉さんキャラ』からただの『行き遅れエルフばばあキャラ』になってしまう。

 なんとかしなくては!!


 若さは分けてあげられなくても、元気付けてあげる事は出来る。


 俺達はアイコンタクトのみで自分達がやるべき事を伝え合う。


「レティリアさん、まだまだいけるっすよ!!」

「そうですよ!! 現役バリバリっす!!」

「レティリア最高!!」

「よっ、イーゴスのクレオパトラ!!」


 受け取ってくれレティリアさん、これが俺達の元気玉です。


「あ、ありがとう皆、もう大丈夫よ」


 さすがレティリアさんだ、もう立ち直ったぜ!!


「キスカちゃん、見事な先制パンチだったわ」

「そこの寝っころがってるのが雑魚すぎなんだよ」


 二人の会話が微妙に噛み合ってないが、突っ込んではいけない。


「皆、さきにいって。この子は私がなんとかするから」

「でも……」


 レティリアさんの指示に心配そうな顔を浮かべるカイトさん。


「いいから!!」

「わかりました、いくぞ皆」


「おいおい、どこにもいけねぇよ、てめぇらまとめてここで」


 キスカが喋り終わる前に、レティリアさんが銀の剣を手に彼女目掛けて襲い掛かる。

 その素早い一撃は名うてのPKギルドの一員である猫女を弾き飛ばした。


「くっ」


 不意の攻撃をぎりぎりのところで防いだキスカであったが、屈辱的にも態勢を崩し尻餅をつく形となってしまっていた。


 キスカを見ろしながらレティリアさんは言う。


「躾のなってない子猫ちゃんはお姉さんが教育してあげる」

「ちっ、ばばあ、てめぇ調子に乗るなよ……」

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