砦強襲
ナナムのギルドハウスで作戦を立て終えた俺達は一部の低レベルPCをその場に残し、レティリアさんが出現させたゲートを通り、ドルボ山から東へと広がる森の中へと一気に移動する。
そしてそこからさらに徒歩でいくらか移動し、ついにPK達の拠点である大きな石の砦へと辿り着いた。
人目を忍んで存在するには不向きな建造物を監禁場所として使用している理由は一つしかない。
やってくるであろう襲撃者に備える為。
そして彼らが迎え撃たんとするそれは他ならぬ俺達自身である。
砦を前にしてシラハさんが言う。
「落ち着いて打ち合わせ通りにいこう。俺が門を破ったらすかさず各班は予定のポイントを目指す事」
ギルドハウスなどのプレイヤーが購入、使用出来る建造物にはいくらかの種類がある。
一つはもとよりこの世界に存在する物。
二つ目は木材、石材から自力で建築する物。
そして三つ目は『権利書』というアイテムを使用して、まるで魔法のようにその場に建物を建ててしまう物。
PK達の拠点、森の奥深くに存在する不自然なほどに立派な石の砦は、この三つ目で建てられた物だった。
砦の権利書にもいくつか種類があるが限りはある。つまりは外観から大よその内部構造は想像がつき、おのずと監禁場所として利用しているであろう部屋の候補とその位置をある程度は絞れる。
それこそがシラハさんの言う予定のポイントである。
ただし自力でさらなる改装を加える事も不可能ではない。全てが思い通りにいくほど甘くはないだろう。
「そしてこの作戦では各自からの素早い連絡が重要となる。もし中継役のレティリアとマリーの両方に問題が起きたら作戦はその時点で中止だ。いいね」
魔法の一種、思念による念話の術は、電話のないこの世界で物理的に距離の離れた人物と素早く連絡を取る数少ない手段の一つである。
常に変化する状況に対応する為、念話を扱えるプレイヤーはこの救出作戦において必須で、それがレティリアさんと、彼女と共にルル・ルクルスを抜けた種族ハルフマンの女魔術師マリーさんであった。
ハルフマンは背丈が人の半分ほどしかない種族で、その見た目は愛らしいものがあるのだが、どこか頼りなくも見えてしまう。
実際、初期ステータスやステータスの成長力は人間と比べても低く設定されており、直接的な戦闘には向かない種族である。
とは言ってもこの作戦においてマリーさんの役割は重要だ。
レティリアさんも念話を扱えるがレベル15のエルフの魔法戦士である彼女には戦力としても活躍して貰わねばならない。
つまり戦闘に破れて死亡するリスクはその分高くなるし、戦闘中に念話による意思疎通がスムーズにいかない事もあるだろう。
そうなってくると、マリーさんがその分、働く必要性が出てくる。
「大丈夫です~、私、しっかり隠れておきますから~」
両手にグーを作りながら、愛らしい仕草をするマリーさん。
今さら不安がっていても仕方がないのだ。
彼女の言葉を信じて戦うしかないだろう。
こうして最後の確認を終えた俺達はマリーさんを除き、敵の砦へと向かって駆け出した。
――さすが『スピリム』速いな、これなら……。
マリーさんが皆にかけてくれた移動速度を大幅に上昇させる魔法『スピリム』、その効果を久しぶりに体感しながら俺は森陰から砦までの間を走り抜ける。
その間、三階建ての砦から慌てて見張りのPK達がこちらに攻撃を加えてきたが、魔法の効果で速く動く対象に攻撃を当てる事は難しく、矢、火球、雷撃、氷の刃など様々な攻撃の多くは外れていく。
そして一部の動きを捉えた攻撃も、シラハさんやその他重装備の壁役のキャラクターに阻まれ、無傷とはいかないがこちらに大きな損害はでないでいた。
むしろ被害は、砦を守るPK達の方が多いくらいだった。
「レティリア、右三番の弓使いの腕がいい、奴を狙えないか?」
白を基調した大鎧と大盾を身につけたシラハさんが軽快に戦場を駆け、味方の盾となり彼らを守りながら指示を直接飛ばしていく。
「あの赤い装備の子ね。OK、任せて!!」
指示を受けたレティリアさんが何も手に持たないまま敵へと構えると、彼女の腕輪が弓へと変貌した。
魔法武器『霊樹の弓』。
入手難度の高いレアアイテムで、弓自身の魔力とPCの魔力を合わせたダメージの高い矢を生み出す、強力な武器である。
そしてレティリアさんは霊樹の弓を使ったその一射目で、見事目標のPKを射抜いて見せた。
――すごいな、この距離からいきなり当てるなんて。古参の『ルル・ルクルス』のメンバーだっただけはある……。
射抜かれ砦から落下するPKを眺めながら超上級プレイヤーの上手さに感心していると。
「あら、一発目で当たっちゃった。今日は調子いいかも」
なんとも呑気な発言がご本人から発せられる。
どうやら彼女にとってもスーパーショットだったようだ。
それでも、この一射がまぐれ込みだとしても、彼女らが頼りになるPCである事は疑いようがない。
俺の眼前の光景がそれを証明していた。
砦の上という有利な高所をとっているはずのPK達が次々とレティリアさんを含めた元ルル・ルクルスのメンバー達の弓、魔法攻撃によってやられていく。
レベル10程度のPKだけでは彼女らに対抗出来ていなかったのだ。
それは何もシラハさんやレティリアさんのように元ルル・ルクルスのメンバー達全員が高レベルキャラクターであるからというわけではない。
二人の他にレベル15を超えるPCなどこのメンバー内にはいなかったし、レベル11以上が二人ほどいたが、他はPK達と同じレベル10だ。
数では圧倒的にPK側のが多いこの状況において、これだけの差が出ていたのは彼らが雇われの寄せ集めに対して、こちらは元ルル・ルクルスのメンバー達という集まりで、統率され、連携巧みに戦っていたからだろう。
無論、その連携の基盤に、シラハさん達高レベルPCがいる事は否定出来ないが……。
正直、この状況下ではレベル5の戦士キャラの俺に出番はない。
俺に出来る事があるとすれば、砦内に突入した後になるだろう。
「よし、砦の扉を今からぶち破る!! 一気に中へ突入するぞ!!」
敵の攻撃を凌ぎきり砦の入り口、鉄の扉の前に辿りつくなりシラハさんが叫ぶ。
そして彼は。
「はああああ、ふん!!」
力強く構えながら溜め、放った巨大な槍『巨人殺しの聖槍』での一撃によっていとも簡単に鉄の扉を粉砕してしまう。
なんという破壊力。
トップレベルのPCの必殺の一撃にここまでの威力があるとは。
俺も前世では英雄レベルに入った上級者だったとは言っても、さすがに歴然とした差を感じざるを得ない。
だが今は、その圧倒的力の差が頼もしい限りであった。
――これなら間違いなく姫岸さんを救える。
優位に戦いを進める中、俺がそう思った矢先。
「うわっ!!」
「ぐああ!!」
扉の破られた砦内に先頭を切って突入しようとした元ルル・ルクルスのメンバー達二人が、入り口前でいきなり悲鳴をあげて倒れてしまう。
何かが二人を切り裂いたのだ。
違う、何かではない。
何者かだ。
「ったく、どいつもこいつも役に立たねぇ屑ばっかじゃねぇか」
それは黒い鎧に身を包んだメス猫の亜人だった。




