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EVOLUTION  作者: チューベー
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第26話

私はレイニード=ルネ=サファイア。

元ミッドルト帝国少将。

名門と呼ばれるレイニード家の第2子として産まれ、幼い頃から軍隊に囲まれた環境で育

ち、国に仕える為の英才教育を叩き込まれてきた。16歳の時、一族の慣例に習い帝国士

官学校に入学。首席で卒業後、帝都総司令部に勤務。そのまま国家にその身を捧げて生き

る事に何の疑問を抱くことは無かった。


今私に銃口を向けている男。

ムサシ=ハナノカワ。

つい数か月前までは帝都ランブルクで警察隊隊員として何気ない平穏な生活を送ってい

た男。仕事はそこそこに済ませ。夜は手当たり次第に町の女性を口説いて回ることが日課だった。

そもそも彼と私の人生は決して交わるはずのないもの。

それが『零式』という1つのキーの出現により狂わされる・・・

彼も私も目の前にあった現実を捨て、過酷な戦いに身を投じる事となったのだ。


今をさかのぼる事2年前。

私が少将に昇進して間もない時。

元帥の座に付く御爺様に連れられ、初めて『総統陛下』に謁見する機会が与えられた。

巨大軍事国家ミッドルト帝国の最高権力者にしてこの国の全てを統べる者。

直接謁見が許されるのは軍部においても上層部と呼ばれる極めて限られた人間だけであった。

この国の軍人として陛下に直接お会いできること。これ程までに名誉なことは無い。

私はあらん限りの忠誠心を示したいと考え、失礼のないようにと何日も前から準備をして

その日に備えた。異性に心を許すこともなく、ただただ生涯を国家への忠誠の為にと考

えていた私にとってこんなにも心が昂ぶる事など初めての事であった。


待ち望んでいたその日が来た。

足を踏み入れた事のなかった帝都総司令部最上階フロア。

厳重過ぎる程の警備、何重もの扉を通った先に『総統陛下』は私を出迎えてくださった。


でも、そこには私が心から崇拝する軍の統治者の姿は無かった。

私が目にしたのは真っ黒に塗られたフロア全体の殺風景な風景と、その中央に立てられた

まるで墓標のような黒い箱。そこには「100」のナンバリングが施され、その文字が赤く光

り浮き上がって見えた。

御爺様はその光景だけを私に確認させると、私を連れてその場を無言で去った。

私は何度も説明を求めたけれど、御爺様はただただ沈黙を守り続けた。


自宅の屋敷に戻り、地下の書斎に入ってようやく御爺様は口を開いた。


「サファイア・・・あれがこの国の真実なのだ。

 『総統陛下』という存在は只のまやかしに過ぎん。」


私はしばらくの間言葉を失った・・・。







「おいおいおい!何だ?何の話だよ!こりゃ!?」


「・・・伝える事が多過ぎる場合、順序をつけて話さないと伝わらないものよ。

 それとムサシ、人が話している時に話の腰を折るものじゃないわ」


「うっ・・・・悪かったよ、続けてくれ」







「良いか?サファイア、ミッドルト帝国を動かしているのはたった一人の独裁者などではない。

巨大化し過ぎた軍隊という組織がそれぞれの意思を持ち、他国への侵略を正義と錯覚し、思い思いに行動しているだけに過ぎないのだ。

 そしてその始まりが先ほどお前が目にした最上階の光景なのだ」


私には理解が出来なかった。

信じていたものが一瞬にして崩壊し、それは怒りをも通り越え虚無感として私の中に

広がっていった。


「先程お前が目にした黒い物体。

 あれこそがミッドルト帝国最高機密事項『百式』じゃ」


「『百式』・・・?御爺様、何をおっしゃっているのです!?私には何の事なのか解りません!!」


『百式』・・・

それは太古の昔、世界を滅ぼした超級兵器の名称。

太古の文明が産んだ兵器「完全自律進化型戦闘兵器」の究極形態。

そのプロトタイプとして製造されたのが彼女に宿った『零式』。







「・・・確か前にもDrシュバルツから同じような話を聞いた。

 しかし、世界を滅ぼしただと!?」


「気が遠くなるほど遠い昔の話・・・

 世界には多くの国々が存在し、現在よりもはるかに進んだ高度な文明が栄えていた。

各国が軍事力を持ち、絶対的な破壊力を持つ最終兵器を保有し、

抑止力を働かせることで世界のバランスは保たれていた。

しかし、最終兵器の力をさらに上回る兵器が開発されたことで世界のバランスは崩 

れ、戦火は世界中に広がった。その兵器こそが『百式』・・・」


「って事は何だ!?ミッドルト帝国はそんなすげぇ代物を持ってるってのかよ!?」


「保有している・・・とは少し意味が違う。守っていると言った方が正しいわ」






「『完全自律進化型戦闘兵器』は装備者の意思に従い、その形状、破壊力を次第に高めながら最終形態まで進化していく。

初期の段階ではエネルギー効率が悪い為、断続的な覚醒と進化を繰り返す。次第に自己でのエネルギー精製力が高まると活動時間を拡大していき、

最後には装備者の意思に従い果てしなく破壊を繰り返す悪魔の兵器と化す。

現在ミッドルト帝国帝都総司令部に存在する『百式』は既に装備者の意思により進化の段階に入っているわ」


「装備者?いったい誰が?」


「『百式』を体に宿し、最終形態までの進化を進めている人物、それこそがミッドルト帝国最高権力者『総統陛下』なのよ!!」


「どう言うことなんだ?さっき総統は存在しないって!」


「既に『百式』を宿した総統はヒトとしての活動を行っていない。

 特別に作らせた専用の格納庫、ブラックボックスの中で長い眠りにつき『百式』の進化を進めているのよ。

眠りにつく前、帝国軍全軍に発した最後の命令、『世界全土を我が支配下とせよ』の言葉を残して・・・」


「じゃあ、ミッドルト帝国はその最後の命令をただひたすら遂行するために全世界に向けて戦いを挑んでいるという事なのか!?

今は存在しているかどうかも分からない人間1人の命令の為に!?」


「先程も言った通り、巨大化し過ぎた組織は、一度大局が決まればそのまま雪崩のように止まらずにその流れはただ拡大していくだけ。

もはや帝国軍内に全世界侵攻を間違えだと考える人間などいないのよ」


「・・・とんでもねぇ話だな、信じらんねぇ。

 だがよ、その『百式』が総統の身体で今もなお進化を続けているのは分かった。

 『零式』は一体どういう経緯でエリスに宿ったんだ!?」






総統が身体に『百式』を宿し眠りについている。

その力は絶対的支配力を実現し、いずれ世界を滅ぼすことになる。

その事実を御爺様が私に教えた事には目的があった。


大局を失い、もはや暴走状態にあるミッドルト帝国を止める方法はただ一つ。

それは総統の眠りを止める事。『百式』の存在を消滅させる事。それだけ。


太古の文明により生み出された『零式』と『百式』。

プロトタイプの『零式』をベースとして幾種類もの試作品が製造され、研究を重ねること

で生まれた究極形態『百式』。

兵器としての力では『百式』が優るものの、『零式』にはある特殊機能が備えられている。

それが「アンチプログラム」。

同種の兵器に対して抹殺能力を秘めた機能。






「つまり『零式』が『百式』を止める唯一の存在だって事か!!?」


「ええ、そうよ。そこで御爺様のコネクションにより軍部内に裏組織が結成された。

 『零式』を起動させ、『百式』を消滅させるための組織」


 組織の活動はまず『零式』の装備者を探すことから始まった。

 「完全自律進化型戦闘兵器」は誰でも装備できるわけではない。

 どういう原理になっているのか、我々の科学技術では究明することはできなかったけれど、

装備適合者を探すための簡単な試験方法は何とか見つけ出すことが出来た。

 遺伝子に適性があるかどうか、血液検査による判別方法。

 軍部内はもちろん、全市民に向けても行われたけれど、それでも適合者は見つからなかった。

さらに対象を広げるために戦地の捕虜にまで検査は及び、そして、その結果一人の少女が選ばれた。






「それがエリス!!!?」


「そうよ、ミッドルト帝国が侵攻したドレスデン地区の小さな町で兵士の慰みとして捕えられていた捕虜の中から選らばれたのが彼女よ」


「何てこった・・・」






すぐに『零式』の移植手術は行われ成功。

但し、零式の進化には時間がかかる。

隠蔽の為、彼女を帝都市民に紛れ込ませることが考えられ、マインドコントロールまで行った。

そこで捏造されたのが第七地区のケーキ屋で働く「エリス=ローズ」と呼ばれる人物。







「冗談じゃねぇ!!お前ら帝国軍は何てこと考えてんだ!!!」


「何を言われても反論の余地もないわ・・・」






そして生まれた『ジョーカー』という名の反逆者。

我々は大きなミスを犯した事に気付いた。

『零式』はあくまで兵器。装備者の意思に従いその力を放つ兵器である事。

彼女にはマインドコントロールを施したものの、帝国軍に故郷を奪われ、目の前で親兄弟を殺され、

兵士に弄ばれた恨みを消すことはできなかった。彼女は帝国軍への恨みの意思を『零式』に発現してしまった。






「・・・まぁ、自業自得ってことだな。

 どんなに優秀な人間が集まったところで、アンタ達は人の心は分かっちゃいない」


「ええ、そのとおりよムサシ。

 我々に欠落していたのはまさにそこだった・・・。

 そんな折、あなたが現れた。

 あなたはエリス=ローズの心を変化させる力を持っている」


「ちょっと待て!!

 俺にエリスを利用しろってのかよ!?」


「もはや植物状態となってしまった彼女に対して意思のコントロールは不可能。

 覚醒したところで手当たり次第に帝国軍を攻撃するだけ。

 それでは『百式』が目覚めるまでに間に合わない!!

 世界を救うにはあなたが頼りなのよ、ムサシ!!」


「・・・・・」


ムサシは話の途中、降ろしかけたライトニングスピアの銃口を再び私に向けた。

やはり、私に人の心を理解する事はできないのか・・・


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