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EVOLUTION  作者: チューベー
25/30

第25話


帝都総司令部 中央通信司令部宛


帝国海軍第一艦隊

シュナルダク軍港内 夜間襲撃事件報告


東部時間2300時

湾内に停泊中の我艦隊中、巡洋艦レイニードル左弦後方にて爆発有。

同艦装甲に中破口発生ののち弾庫に誘爆。

同型艦パーミッド、ルブランス支援の下、即時消火活動に入り2420時までに鎮火。

浸水処置を行うも傾斜・沈降激しく2430時総員退艦命令を下令。

本件は事故による発生の可能性は少ないと判断し、敵勢力の破壊工作と断定。

直ちに、全力で索敵を行うも敵勢力の発見には至らず。

翌日、参謀会議にて同艦の一時落伍を決定。

即時ドック収容・修復作業を開始。

尚、本件発生後も作戦計画に支障無と判断し、当初の作戦は続行するものとする。


同事件による人員被害は以下の通り。


死者:6名

負傷者:29名

(当時は当直の兵のみの乗艦の為、将校の死傷被害は無)


また事件発生同時刻、湾内に隣接する民間港付近にてテロリスト追撃の任務に就いていた

第4方面16軍103大隊、指揮官トルーマン=エルムスタ大尉が傷害被害を受け、

随行の下士官2名が射殺される別事件も発生。我艦隊への襲撃と同一犯である事は不明であるが、

敵戦力の領土侵入を許した事に変わりはなく、今後の警戒態勢・索敵機能の見直しを合議。

尚、上記の殺傷事件に関しては追撃隊より別途報告があるものとする。


発 帝国海軍第1艦隊

  司令官 ツィードファン=ハイドリッヒ


==================================================


「ハイドリッヒ司令、お疲れ様です」


「うむ、直に本国から通達の使者が来るだろう。4、5日の謹慎と言ったところか…」


「しかし、新設の海軍です。予測不能の事態は当然の事では?」


「そんな事は本部も分かっている。組織というのは誰かが責任を取らねばならんのだよ」


「はっ。それでは司令だけでなく私共も」


「馬鹿者、この大事な時に無駄に人員を割いてどうする?

 私が営倉に入っている間、今回の反省を生かして警備体制の見直しを進めるのが君らの仕事だ。分かったらさっさと取り掛かれ!」


「はっ!失礼しました!」











メルデン海

シュナルダク軍港沖約60海里地点

北方連合国軍所属 高速巡洋艦「TS-33」


「艦長!10時の方向潜望鏡確認!!距離約4000!!」


「よし、来たか!?念のためだが主砲、副砲照準定め!」


「浮上してくれば間違えなく彼らだ、頼むぞ!」





同時刻・同地点

北方連合国軍所属 特殊潜航艇内


「浮上完了!!」


黒ずくめ達が急ぎ足で艦の後方にあるハッチへ向かう。

手際よくハッチを開放すると素早く3名が甲板へと飛び出した。


「右弦側異常なし!!」


「左弦側異常なし!!」


「全周良し!!母艦へ直ちに信号発信!!」


発光信号用のライトが、夜も明けて間もない海上にチカチカと光る。


「荷物ノ調達二成功。早急ナル収容ヲ要請スル」




ひと仕事終え、黒づくめ達が1名を甲板に残して降りてきた。

艦内の皆、沈黙が続いた緊張状態から解放されて表情が緩む。

艦内の簡素なコックピットに備え付けられていたバッテリーの残量計の目盛りは、

赤字で示されたゼロを指している。艦はこの時点でもはや自力での航行は不可能であった。



午後に近づき太陽の傾きが大きくなった頃、ムサシ達の乗る小さな特殊潜航艇は、

全長40メートル程の小型の船舶に装備されたクレーンによって収容が完了。後部甲板に確りと固定された後、乗員は1名を残して降艦。皆が甲板に集合していた。


「お前たち、ご苦労だった」


黒づくめのリーダー格が労いの言葉を発すると、その他のメンバーは指先を真っ直ぐに伸ばした手の平の甲をリーダーに向け、顔の横で止めて見せ、敬礼で応えた。

海の波も穏やかで空いっぱいの青空が広がり、一同ひと時の安堵感で満たされた甲板上であったがそこには不似合いな弾丸の装填音が割って入る。


「よう、やっと喋れるようになったんだ、わけを聞こうか?」


ムサシが構えた右腕の銃はローブに身を包むサファイアに向けられて動かない。


「ムサシ殿!!お待ちください!!早まってはいけません!!

 そのお方、元ミッドルト帝国軍サファイア少将は亡命をした身、もはやあなたの敵ではありません!!」


「は?」


「そういう事よ、ムサシ元巡査長・・・」


サファイアが頭を覆っていたローブのフードを降ろすと、海風が彼女の銀髪の長い髪をな

びかせた。


「そういう事って・・・どういうことだよ!!」


「ムサシ、私は国を捨て、北方連合国に亡命したの」


「・・・どういう事?」


あっけにとられ過ぎたのか、意識もせずにムサシは右腕を降ろし、間抜け面を浮かべていた。


「ふぅ、流石に私も疲れたわ。詳しい話は少し休憩してからでどうかしら?

 それに主役は私じゃなくて『彼女』。早く降ろしてあげないとね」


サファイアはそう言い放つと勝手に船室へと消えていった。


「勝手なことばっかり言いやがって。んな事より、エリスは!?」


「心配無用だムサシ=ハナノカワ」


すっかり存在を忘れていたDrシュバルツがムサシの背後から突然声を発する。


「!!、何だ!?いたのかよアンタ」


「随分失敬な奴だ。誰がここまで手引きしてやったと思っている。

 零式・・・貴様にはエリスと言った方がいいのか?『彼女』はまだあの中だ」


頑強な拘束部品に固定された特殊潜航艇に、随分大げさな重機が数機歩み寄る。

巡洋艦の乗組員も大勢やってきたところで作業開始。大胆にも、どデカイ電動ノコギリとバーナーで潜航艇を丸ごと真っ二つにし始めた。


「おい!!Dr!!大丈夫かよ!?」


「仕方あるまい、『彼女』専用収容カプセルを積み込める潜水艦がなかったのだ。

 カプセルに合わせて潜航艇を作った代物で、使い捨て式なのだ」


ムサシがハラハラしながら見ていた作業も、ものの10分ほどで完了。

蓋を開けるように切断された船体の上部が剥がされ、

潜航艇が海から吊り上げられた時のようにクレーンによって収容カプセルが船体から吊り上げられた。


「なるほど、俺達の目の前にあったデカイ棺桶がそうか」


程なくして収容カプセルは船室に収容されていった。





ミッドルト帝国

帝都中央司令部 諜報司令室


受話器越しにエルムスタ大尉の力のない声が微かに聞こえる。


「閣下…。エルムスタです」


「エルムスタ、何だ?この報告書は?

光のシールドが現れ弾丸が弾かれた…そう書いてあるが?」


「閣下!!そのような言動、信じていただく事は難しい事は分かっています!!

 但し、私は見たのです!!光り輝く壁が奴に向けて放った弾丸を弾き飛ばし・・・!!」


「エルムスタ、もういい・・・

お前の報告、にわかに信じがたいが、現場検証の別報告にも目を通した。

不自然に潰れた弾丸が多数発見。だが命中した対象物が見つからなかったそうだな、

鑑識班の言ではどんなに強固に鍛えられた鋼の防弾盾に撃ち込んだとしてもあのようにはならないそうだ。

エルムスタ、これ以上の電話回線での報告は無しだ。無論口外も許さん」


「はっ!!閣下、この度の失態はどんな事をしてでも挽回します!

何卒もう一度私に機会を!!」


「エルムスタ、お前らしくもないな。

 今回の件、Drシュバルツ、あの小娘・・・何か我々の知らない範囲の事が絡んでいる。

 貴様に再度追撃任務を命じる。必ず真相を探り出しこの私に伝えろ!!」


「はっ!ありがとうございます!!クルトン中将閣下」


受話器を置いたクルトン。

彼の高性能な頭脳の中では確証はないものの、散らばっていた1つ1つのパズルのピース

がゆっくりであるが着実につながりつつあった。そしてその決定打となる知らせが入る。


「クルトン中将閣下、急ぎ失礼します!!」


「何事だ?」


「こちらをご覧ください」


1枚の命令書を睨むクルトンの表情に不敵な笑みが浮かぶ。


「やはり、あの女狐。ただでは死なぬか・・・」







北方連合軍所属 高速巡洋艦「TS-33」

船底部格納庫内


「あら?てっきり兵舎室でぐっすり熟睡中かと思えばここにいたのね」


「おちょくるなよサファイア。寝てなんかいられるか!」


格納庫に置かれた機材に足を掛け、腹筋を鍛えていたムサシは汗だくで答えた。


「まるで別人ね、「ブルーシー」で一緒に食事した優男とは顔つきが全然違うわ」


「おかげさんで少しは男らしくなれたぜ」


サファイアを前にまだ気を許せないムサシ。

彼女が登場するや否やトレーニングを終え、外してあった右腕の銃の元へ歩み寄り、

直ぐに装着した。


「無理もないわ・・・ウォード巡査長の事は本当に申し訳なかったわ・・・」


「・・・・。

 複雑な心境だがアンタに怒りをぶつけても仕方なさそうだ。

だが、アンタには説明する義務がある。

 教えてもらおうか?今回の事、そして零式の事・・・」


「いいわ」


サファイアは格納庫中央に厳重に固定された収容カプセルに近づくと、そっと手置いた。


「今にも動き出しそうなくらい自然に眠っているわ。もう中は見たの?」


「・・・そりゃあ、これ見よがしに窓がついてりゃ誰だって見るだろ」


収容カプセル上部にはわずかだが中の様子が見えるように丸い窓がついている。

内部は緑色に光り、その中にエリスは静かに眠っている。

ペイネン区のラボの中でのように口元には呼吸用のマスクが当てられ、各種センサーが全

身に張り巡らされまるで人間らしい扱いではない。


「彼女は大丈夫なんだろうな?」


「意識がない事以外は問題ないわ。

 この収容カプセルは生命維持機能も備えた特注品。

あなたが警察隊で働いても一生分の給料で賄えない程の資金が充てられているわ」


「アンタ、ふざけてんのか!?」


ムサシはサファイアに背を向け、

エルムスタを殴りつけた事で軽く腫れていた左拳で容赦なく壁を殴りつけた。


「これは失礼・・・。

 次に軽はずみな事を口にすればその拳は間違えなく私に飛んでくるわね」


「訳もわからず相棒を殺され、反逆者にされた挙句、命からがらここまで来た。

 途中で何人も死んだよ。皆いい奴だった・・・。

 俺には後戻りはできねぇんだ。エリスを守る、それだけが俺に残された道なんだ!!」


しばしの沈黙の後、サファイアはムサシに近づき、愛用の小型拳銃「ライトニングスピア」

をリロードした。背を向けていたムサシはその音に敏感に反応し咄嗟に振り向く。

振り向いた先にはサファイアが真剣な表情で立ち塞がり、ライトニングスピアの銃身を持

ってグリップをムサシに向けかざしていた。


「ムサシ・・・あなたのヤワな左手でこれ以上拳を打ち込めば骨が砕けてしまう。

これを握って。今から私の知り得る情報を全て話すわ、

それでもあなたが私を許せないというのならトリガーを引くといい。その代り、

今から話す真実を受け止めることが出来たなら、あなたは本当に後戻りできなくなる。覚悟はいい・・・?」


全速で海を渡る「TS-33」のエンジン音と波切音が重なる格納庫内。

ムサシとサファイアは一瞬も視線を逸らさずに対峙していた。

二人の間にかざされたライトニングスピアのグリップを握ると、ムサシは深く息を漏らし

た後に答えた。


「いいぜ・・・教えてくれ」


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