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EVOLUTION  作者: チューベー
18/30

第18話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

宛 中央司令部諜報部

グレンヴェル=L=クルトン少将閣下


・ムサシ=ハナノカワ追撃任務報告

本日0836時、ペイルワールを完全包囲の後

IRF狙撃班がムサシ本人を発見。

全軍を市街に突入させ1445時まで捜索を継続するも

発見ならず。

同時刻、市民の通報によりターゲット逃走の情報を入手。

単独で再度帝都方面へ向かった模様。

現在捜索隊を増員し全力を挙げて捜索中。


           発 総司令部帝都第4方面16軍

             指揮官シュタイン=バンカー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…………フン、ここまで使えない男だったとは、

 カイザーの修理も遅れて…気に食わないな……」


「クルトン少将…」


「悪いが今は話しかけないでくれるかね?

 少し休むが次は良い報せを持ってきてくれ」


「はっ!!」



















薄暗い部屋に不気味な青白い光が浮かぶ。

光源は部屋の中央に設置された円柱型の巨大なガラスのカプセル。

中は透明な液体で満たされ、撹拌されているせいで小さな気泡が小刻みに揺れながら舞う。透明な液体はカプセルの下部に設けられたライトで不気味に青白く染められ、

カプセル内で屈折して漏れたわずかな光がかろうじて部屋の構造を確認できるほどに部屋全体をぼんやりと照らしている。


そのカプセルには1人の女が…

口元には酸素マスクがあてられ、透き通るような白い肌の顔を半分覆われている。

細身の身体は青白い光に照らされうっすらと幻想的な輝きを放つ。

女に意識はないようでピクリとも動かない。


青白い光とは対称的に赤、緑、黄色の小さな粒のような光も部屋のあちこちに散らばり、

目を良く凝らさないとそれが部屋中に敷き詰められた精密機器の制御盤のランプとは気づかない。


静かで時間の流れが止まったようなその空間に男が2人。


「………大佐、査問会の録音テープは聴かせてもらったよ。

 全部聞き終わるのに半日費やしたがね」


「長すぎだ、何度同じことを聞かれたか…

 俺が持っている情報など、こいつとの一戦から得た戦闘記録だけだというのに  な」


「軍人では初めての生存者…確かIRFにも1人生き残りがいたらしいな、

 所詮軍人の観点からの報告だ、テープはあなたの分だけで十分だった」


薄暗い部屋に響く落ち着きのあるサバサバとした口調の声と、太く重みのある低い声。

栄光の凱旋帰還から一変して重要参考人として査問会に招集されたフォレスト大佐。

一度はその命を奪われかけた強敵を前に未だにその疑問を口にせずにはいられない。


「博士、本当にこの小娘がジョーカーなのか?」


「フッ、信じられないのも無理はない。

 だがその事実が現にこんなへんぴな場所にこれだけの資材と部隊を動かした…」


「俺をはるかに上回る戦闘能力。

 博士、こいつは強化兵士の俺とは明らかに違う!一体何だ!?」


「フォレスト大佐、立場をわきまえてもらえないか?あなたの任務はこの娘の護衛 のはずだ」


フォレストを尻目に博士と呼ばれた男は無表情でゆっくりと部屋を後にする。


「クッ、俺はこんな小娘に殺されかけたのか?……」


























あの日の夜、俺達はしばしの休息をとった。

というよりバイクのガソリンが尽きて、それでもなお歩き続けたものだから皆疲れ果てて当然の展開なんだがな。

交代で仮眠を取り、晩飯にはその辺にいた蛇を捕まえて焼いて食ったんだが、

うまくはない…

初めて食ったがパサパサした食感でのどを通りにくかったな。

そして極め付けがドルフのスパルタ教育、

このままでは足手まといになると俺に筋トレを強要してきたのだ。

俺自身も必要なことだとは考えていたが……ハンパじゃねぇ。

おかげで今は全身筋肉痛。

早朝、歩きでペイネン区を目指したジャッジメン一行の最後尾をヨタヨタと歩いている。


「ムサシ、俺のようになりたかったら毎日昨日と同じメニューをこなすんだ」


ドルフのようなムキムキの筋肉馬鹿にはなりたくはないが、この苦痛も全く苦にはならない。俺は今殺しをするために生きている。クルトンの息の根を止めるまでに死ぬわけにはいかねぇ…そのためだったら何でもやってやる…。



太陽が真上に差し掛かった頃、

俺達は草原にたたずむ背の高い岩の足元にいた。


「着いたわ、ここから先が目的のペイネン区。

 今のところ軍の姿が見えないわね…」


確かに、プルートの情報どおりならこの辺りには最近不自然にも多くの軍が配備されているはずなのだが、変わったことと言えばこれまでペイルワールから進んできた道のりに比べて緑が増えてきたってとこか?

ペイネン区は帝都方面から流れてくる河川の影響でこれまでの荒野とはうって変り、地面には草木が生えた湿地帯に近い雰囲気の場所である。

さらにここから先を見渡せば背の高い木々に囲まれ、、緑が生い茂る深い森が視界に入る。

ペイネン区はその区域の半分以上を深い森に占められた地区なのだそうだ。

帝都では手に入らない木材などもここから供給されるらしい。

そんなペイネン区に帝国軍の部隊が展開した前例はない。

ブルートの読み通り何かあるに違いないだろうな。


「ああ、おそらく軍はこの先の森の中にいるはずだ」


「そうなるとこれまでみたいに7人全員で行動するのは見つかりやすくて危険ね。

 欲しいのはまず情報だし、ここは2チームに別れて情報収集よ!」


ネイルの判断によりそれが決まった。

このメンツだから正直誰と一緒だろうが俺はどうでもいいんだけどね。

だが実を言うと、俺は他のメンバーは知らない事実を入隊2日目にして知ってしまった。


 昨日バイクに分乗して走っていた時のことである。

メンバー7人に対してバイクは4台。

俺はこの機会に一度も口を聞いていない最年少のネルとコミュニケーションを取ろうと、同乗を提案した。

まともな返事もせずにバイクに乗り込んだネルだったが、俺との組み合わせが決まった瞬間から様子がおかしい…顔を真っ赤にしてうつむいてやがる。

走り出してから話しかけても返事もしてくれない。

仕方ないから俺の直感をそのまま質問にしてぶつけてみたんだ。


「なぁ、ネル。喋りたくない時ってのは誰にでもよくある。よくあるんだが一つ聞 いてもいいか?失礼だったら謝るから……なんて言うのかな、その……

 お前、女だろ?」


ネルは顔を真っ赤にしたまましばらく黙り続けていたがようやくその口を開いてくれた。


「……………な、何で分かったの?」


「直感さ」


若さのせいで女らしさを隠すことができたんだろうな、髪も短く切っているから機械オタクで鈍感なメンバー達は気づかなかったのだろう、俺にすれば簡単な事だ。

残念なのは、若すぎるっていう点だな、俺の射程圏外だ…。

この顔立ちであればあと4~5年でいい女になるだろう。


「……ムサシさん、他のメンバーには黙ってて…」


「ムサシでいいぜ。しかし何だって男のフリを?」


「ジャッジメンの実動部隊は男じゃないと入れなかったから…」


何か深いわけがあるんだろう、これ以上の質問は止めておいた。

まったく…オカマがいるかと思えばオナベまで…

バラエティに富んだメンツだぜ。


俺が1人で回想している間に編成は決まったようだ。

ボロボロの地図を全員で囲みながらブリーフィングが始まった。


「よし、A班はあたし、プルート、ムサシ。

 B班はドルフ、テルプト、フリック、ネル、以上。

 A班はこの先の森の西側から、B班は東から侵入。

 第一の目的は情報収集よ、戦闘はやむおえない場合を除いて避ける事。

 何か情報を得次第無線で連絡。ランデブーポイントはC8エリア188度、4時 間後よ」


「了解!リーダー!!」


皆それぞれの装備を再点検。

俺も今までの格好はあまりにも戦場に不向きだが何の準備もなしに出てきてしまったんだ仕方ない。

途中蹴散らした盗賊共からのぶん捕り品で武装をかためる他なかった。

上下には何ヶ所もほつれ、洗っても取れなさそうな汚れのついた迷彩服を。

腰には革製のバックパック、ブーツもサイズの合ったものが運よく手に入り、かろうじて

ジャッジメンのメンツと肩を並べられる姿となっていた。

ちなみにジャッジメンの戦闘服は皆、上下オリーブ色で厚手のオリジナル軍服。

こいつらの事だから全部オーダーメイドだろうな、それぞれの身体にしっかりとフィットしていてなんだかカッコいい…。

黒の革製ブーツと俺と同じくバックパックにマガジンを詰め、腰にはナイフ、見慣れない筒型の手榴弾、水筒。

一応プロらしい格好である。

俺達のこの姿なら周囲の草木に紛れれば目立たないだろう、しかし相手はプロ中のプロ。見つからずに森に近づくことさえ難しそうだ。


「A班、行くよ!!」


ネイルを先頭にブルートと俺は反対方向へ進むB班に無言で別れを告げ、腰の高さまで生える草に身を隠すように屈んで前進を開始。

こうしている間にも森に潜んでいるであろう帝国兵にはすでに発見され、YT-400のスコープで狙いをつけられているのではないか?そう考えるととてもじゃないが生きた心地はしない。

しかしその心配は前進を開始して間もなく消え去る。

なんせ俺達A班の全員胸から上しか姿を晒していない。

湿地帯のドブ川に見事に隠れきったのだ。

気持ちわりぃ…、声に出したかったがここは我慢。

着込んだ迷彩服の汚れなんか全く気にする必要もなかったな。

ドブ川を音を立てないようにゆっくりと進むと俺達は想像していたよりもはるかにスムーズに森へと到着した。


「ここまでは完璧ね」


「ああ、だがここからが本番だ」


ブルートの言うとおり、この先どれくらいの規模の部隊がどのように配置されているかなんて情報は全く掴めていない。

ドブ川から上がった俺達の汚れっぷりは見事に周囲の野生感溢れる森の風景と俺達を調和させている。うーん、ここは森というよりもジャングルと言った方が正しいかもな。

さらにしばらく前進を続けていた時、先頭のネイルが足を止め俺達に“止まれ”の合図を見せた。続いて手を広げ上下に動かし“屈め”と……

ここで俺達はこの森の中を警戒する帝国兵に初めて出くわすこととなる。

俺達3人の距離はそれぞれ5メートル間隔で離れていて、相手から見て丁度全員が小さな丘を影に屈んでいる格好となり、上手く隠れている。

好都合な事に俺の位置からは木の隙間から相手の姿がよく見える。

帝都で見かける軍服とは全く異なる野戦服を身に纏った姿を確認すると不思議と安心できた。相手がIRFでないことが分かったからだ。

ゆっくりと周囲を見渡しながら歩く帝国兵の足音がかすかに聞こえるがその歩調に変化はなく、またゆっくりと遠くに消えていった。


「ふぅ……」


溜息をついた俺だが立ち上がろうと近くの木に左手をついた時に気づいた。

かすかだが俺は震えている…

そうだ、前に医者のジィさんの所で帝国兵を2人殺したのと昨日盗賊共と戦った事、それ以外に実戦経験なんてないんだよ。怖いのか?ビビってんのか?

うるせぇ!!そんなわけねぇだろ!!これは昨日のスパルタ教育の影響だバカ!!

なんて自分の中で一生懸命な葛藤を済ませ何とか平常心を保った。


3人ともが再び立ち上がった時だ、

静かな森に遠くの方からであろう、銃声が響いた!!

残念な事にこの銃声はペイルワール製の銃による物ではない。

続いて2発、3発……4発、きりがない。

加えて違う種類の銃声が響くのを耳にした瞬間にA班3人の顔が固まった。


「まさか、あいつらが…?」


ここまで常に冷静だったネイルも動揺を隠しきれていない。

たまらず無線機を手に取る。

無線機は各班に1機ずつでB班の通信担当はフリックだ。


「B班!!どうしたの!?」


「ザーーーーー

 あかん!見つ…かっても…うた!!

 敵…は4~5名程。こっ…ちで何……とかす…るさかい、

 こ…の隙に先…に進みな……はれ!! ザーーーー」


この無線による会話の間にも双方の銃声は鳴り止まない。


「ああ、覚悟はしていた事だ、先を急ぎましょう隊長!」


「ブルートの言う通りだ、ここはB班に陽動を任せて俺達は進もう。

 帝国兵が応援を呼んだらこっちは手薄になるはずだ」


非情な判断ではあるがネイルもそれを受け入れた。

だが今すぐにでもB班のもとへ駆けつけたい気持ちを押し殺しての決断だ、悔しさで歯を食いしばり、今までに見せなかったもどかしい表情が表れているのが俺の位置からでも分る。

姿勢を低くしたままとにかくB班の交戦地点から距離を取ろうと森を駆け抜ける俺達。

湿地帯のため地面の草が湿って滑りやすい、何度もよろめきながらも何とか前の2人について行く。

周囲が木と草だらけでどこに帝国兵がいるかも見分けがつかない中での恐怖心もハンパではない。

少しづつだが銃声が遠くなる、

途中、手榴弾の爆発音が聞こえ、その振動が森の木々を揺らす。


「はぁ、はぁ、はぁ、おい、銃声が止まったぞ!」


「無駄な詮索やめて!B班とはランデブーポイントで2時間後に落ち合うの!!」


足を止めたA班の3人。

それもそのはず、目の前には幅20メートル程の川が俺達の行方を阻むように流れている。

深さも俺の身長程ってとこか、多少濁っているものの底が見える。

流れもそんなに速くもなく泳いで渡ろうと思えば難しいことではないが、問題は俺達の想定していたルートと違うという点だ。


「ああ、地図と違うな。

 こんなにも早く川に着くはずがない。

 おそらく途中で方位を見誤ったんだろう」


「随分冷静だなブルート、コンパスを持ってるのはお前だろ?」


「ちょっとムサシ止めなさい!そんな事よりルートを修正しないと」


森の中を早足で進んだせいでわずか2時間で疲労がたまってしまった。特に俺はまだまだ戦士と呼ぶには程遠い、肩で息しながら今にも倒れこみたい気分だ。

………いや、待てよ。

よく考えたら何だって帝国軍はこの森を警戒しているんだ?

仮にエリス…零式がこの森で発見されたのなら帝都に連れて行けばいいじゃねぇか。

また軍部要人を殺されるから人目につかないこの地に隔離したのか?

いや、零式がそんな危険な存在であるなら発見次第その場で殺せば済む話だ。


俺の思考が必死に回答を導き出そうとフル回転していた時だ、川の下流からわずかだがエンジン音が…。


「2人とも隠れて!!」


それぞれ距離をとって茂みに、木の陰に身を隠す。

エンジン音が近づいてくる。

深い緑色をしたゴムボートだ!乗っているのは2人の帝国兵。

1人はボートに中腰になって双眼鏡で周辺を警戒しているようだ。

もう一人は後方でボートの舵取りを担当している。

ボートのスピードは遅く、じわじわと俺達との距離を詰めていく。


「異常なし。

 おい、西側では正体不明の侵入者が見つかったそうだ

 基地からも1個小隊が増派されたらしい。

 もしかしたら例の反逆者ムサシかもな」


「しかし敵勢力は複数だと無線で聞いたぞ?

 我らミッドルト帝国軍に反乱を企てている地下組織ってのはただの噂話ではなか ったのかもな」


「ふん、いつも暇を持て余している帝都の駐留軍が流した作り話だろう?

 そんなもの実在したとしても我が軍の力を持ってすれば1日もかからず駆逐でき るだろうよ…………おい、ちょっと小便だ、その辺に着けてくれ」


ボート上の2人の会話が聞こえて間もなく、運悪くボートは俺達の隠れている側に接岸してきた。出来過ぎなくらい運悪く、俺が隠れる茂みとブルートが隠れる木の間にボートは停まり、下品にも股間のチャックを下ろしながら1人が降りてきた。

何も気づかず俺とブルートに背を向けて兵士は奥の草むらに向かう。

おいおい!止せよそっちにはネイルが隠れてんだよ!!


「!! 

 おい!!動くな!!」


降りてきた兵士は銃を構え奥の草むらに銃口を向けた。

バカ野郎見つかっちまったなネイル!!

だが我らがリーダーはただ者ではなかった…


「あら、兵隊さん…

 物騒なもの向けてないで話を聞いてよ」


追い込まれたネイルは堂々と草むらから姿を現した……ゆっくり上着を脱ぎながら。


「こら!!女!!

 動くなと言っただろうが!!」


「どうした!?」


もう一人も降りてきた。


「兵隊さん達、銃を降ろして。

 誰も見てないんだから、下の銃を使ってよ…

 どうせ死ぬならこの世の思い出に激しいのが欲しいの……」


危機的状況なのに一瞬吹き出しそうになっちまった!

面白い事に2人の兵士は本当に構えた銃を降ろし、ニヤケ面を浮かべだした。


「ハハッ!!面白い女だ、

 最近ご無沙汰だからな。

 お望み通りにしてやろうじゃねぇか!」


してやったりとネイルは得意げな顔を浮かべ一瞬のアイコンタクトで俺とブルートに合図。

俺もブルートも少しあきれ顔しながらゆっくりと兵士の背後から近づく。

ブルートは銃を逆さにして、俺は鋼鉄の右腕を振りかぶり、

心の中で「せーの」とつぶやくと、黒のヘルメットの上から思いっきりキツイ一撃を叩きこんだ!!


「………ホント良かったな…相手がIRFじゃなくてよ…」


ちょっと小馬鹿にしたけど俺も過去に騙されてるんだよね……。

気絶した2人の兵士から軍服・装備品奪い取り、縛りつけ、茂みに隠すと俺達は意気揚々とゴムボートを奪い取った。


「お前、ストリッパーにでもなった方がいんじゃねぇか?」


「うるさい!!言っとくけど好きでやってるんじゃないからね!!」


「ああ、これも立派な一つの武器さ」


ボートに乗り込んだ俺は気づいた。

積んであった地図には、今まで俺達が見ていたボロい地図では何もないはずの場所に赤で大きな印がつけられている。この川をボートが来た下流に下って行った所だ。

それにさっきの兵士の会話…基地があるって言ってたよな。


「なぁネイルこれを見てくれ…ここだ、さっき言ってた基地じゃねぇか?」


「ペイネン区に軍の基地があるなんて聞いたことないわ」


「ああ、こんな森のド真ん中に…軍事的戦略という観点から見ても存在する意味などない」


これはどう考えても怪しいな。

あるはずのない物が存在するってことには理由がある。


「なぁ、ネイル」


「だめよムサシ。

 今の任務は情報収集。

 侵入を考えるならランデブーポイントで集合して戦力を少しでも固めてから、そ れも夜間の方が都合がいいわ」


「………しかしよB班は…」


3人の間の空気が凍る。

言っちゃいけないことだったかもしれないけど事実だ。

ランデブーポイントに行った所で何人が集まるか…もしかしたら誰も。

それに時間を空けたら警戒がさらに強まるんじゃねぇか?


「ムサシ!リーダーは私よ!!

 提案は却下。私達はランデブーポイントがある上流に向かうわ」


「ネイル!!考え直せ!!お前は基地への侵入よりもB班の連中の事を優先してる だろ!!」


「違う!!私はより確実な戦略を言ってるだけ!!」


口論が激化した時、この場で最も冷静だったブルートがその重い口をゆっくりと開く。


「ああ、…………………」


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