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EVOLUTION  作者: チューベー
15/30

第15話

『反帝国軍組織ジャッジメン』

メンバーはクライン……じゃなかった、ネイルをリーダーにした5名が実動部隊で、

その他武器や装備なんかのバックアップ面はペイルワール全体で行ってるって話だ。

表向きはミッドルト帝国に媚び売って精密部品の製造を請け負う町工場だが

その裏では反帝国体制を敷いて周辺諸国へ武器を横流ししてるそうだ。

部品製造業で儲けてるから資金源にも困ることはない、

だから無償で武器を流すらしい…すげぇな!

上客の帝国軍を上手く手玉にとってるわけだ。


―と、まぁネイルからざっと聞いた話はこんなとこだ。

いるもんだねぇこんな地下組織、何にせよ好都合過ぎるくらい好都合!


「ん?武器を横流しするだけだろ?

 あんたら実動部隊ってのは何をするんだ?」


「痛いとこ突くわね…

 私たちは戦闘部隊を名乗ってるけど実際のとこは輸送の護衛が仕事よ。

 たかが5人で戦っても相手は巨大軍事国家。勝てるわけないわ。

 だけど5人でも帝国を潰す方法はあるのよ」


「?」


「鈍いんちゃうかムサシはん?

 この帝国を指一本で動かしとるんはどこのどなたかいな?」


口を挟んできたのは5人の中で一番チビのフリック。

喋り方に特徴があるから一発で覚えたぜ。


「そう、総統がいなくなれば帝国は総崩れ。

 私たちはこのチャンスをずっと待ってたのよ」


「総統を暗殺するのか!!?」


願ってもない復讐の機会。

驚いたつもりだったが口が何となくニヤついちまった。


「で、どんな計画なんだ?」


しかし期待する俺を裏切るようにメンバー全員がうつむいてしばし沈黙が続く…。


「何だよ?」


「残念だけどまだ目処は立ってないわ」


おいおいおい!そりゃねぇだろ!反帝国組織じゃねぇのかよ!


「オホン!まぁ全く無計画ってわけじゃないんだけどね」


自分達をフォローするためにそう言ってネイルが差し出したのは一冊の小説本。

自慢じゃないが俺がこの世で一番嫌いなことは読書だ。

何が好きで文字ばっかりの分厚い本を何時間もかけて読まなきゃいけないんだ?

渡された本も手には取ったものの表紙を開く気にもならない。

タイトルは……


「『革命の灯』?

 なんか聞いた事があるタイトルだな」


「ムサシはん、まさかその本知らへんのか?

 去年めちゃめちゃ流行った小説ですやん!」


えーと…そうだっけ?そういえばなんか署の連中も騒いでたような気がするな。

突き刺さるメンバー全員の侮蔑の目が俺に表紙を開かせた。

ん!?


「『ジョーカー』!!!」


驚かされたのは1ページ目に描かれた挿絵。

全身を覆う黒マントに不気味な白仮面。

それはつい最近帝都の地下水道で遭遇した『ジョーカー』の姿そのものだった。


「小説はともかくさすがにそれくらいは知っていて当然ね。

 たった一人で軍部要人を暗殺し続けてるテロリスト『ジョーカー』

 彼の存在こそが私達の希望よ」


「えーと…済まないが誰かこの小説の内容を簡単に説明してくれないか?」


一同にため息をつかれてなんだか恥ずかしい心境だったが

メンバーは丁寧に教えてくれた。


『革命の灯』は去年発表された長編小説で、

舞台は全世界を我が物にしようと企む絶対的巨大軍事帝国。

主人公はそれを阻止しようと決起した反乱軍のリーダーで、

帝国軍との壮絶な戦いと、その間に生まれる仲間との友情と愛情が主人公をとりまく

壮大なストーリー設定が毎話読者の涙を誘うんだとか…。

『ジョーカー』は作中で主人公のピンチを何度も救う謎のヒーロー的存在。

その神秘的な存在と実力から主人公よりも『ジョーカー』の方が圧倒的に読者に人気があるそうだ。

大ヒットを記録しかけたのだが小説内で悪役となっている

帝国軍が現実のミッドルト帝国に類似しているという理由から

作者は逮捕され、発表から1ヵ月あまりで軍からの回収命令で全て焼却処分となったらしい。

うん、そういえばそんなことあったな。


そしてその後帝都ランブルグに本物の『ジョーカー』が現れた。

だから本人が名乗ってもいないのに『ジョーカー』と呼ばれるようになったわけだ。

マジで知らなかったぜ。


「彼に関する手掛かりは軍ですら知らない。

 だから仲間になって欲しくても手の打ちようがないの」


なるほど、ジャッジメン活動開始のためには奴の存在が必要不可欠か……

―――――ってなに呑気な事言ってんだよ!!ほんと俺って奴は!!

『ジョーカー』じゃなくてこれはエリスの事だ!!

そうだよ俺は『ジョーカー』の正体を知ってるんだ!!


「大丈夫かいな?ムサシはん?

なんや完全に上の空って顔してますけど」


「あ?…ああ、オーケーオーケー。

 そうかそうか、内容はよく分かったよ。サンキュー」


なんかすげぇ厄介だ…。

今日は頭使い過ぎて疲れちまったな。

ひとまず冷静になろう、


ジャッジメンは帝国軍への反乱のために『ジョーカー』を探している。

俺はエリスの無事を確かめて彼女が元の何でもない普通の生活に戻れるように

してやらなくちゃならない。


………そして『ジョーカー』とエリスは同一人物。


………


………


あ~~~~~~~~~~~~~!!!!


うぜぇ!!!


なんでこんな事になっちまったんだ!!


「どうしたのよムサシ?難しい顔しちゃって」


ちっ、仕方ねぇ。

どうせこのままじゃらちが開かねぇし、

とにかく今はエリスを探し出すことが先決だ!


「なぁ、みんな。

こんな事言うと都合が良過ぎて信じてくれないかもしれないけどよ、

俺,実は『ジョーカー』の正体知ってんだな……」



 そりゃ最初は誰も信じてくれないわな。

門番だったガテン系のおっちゃんなんていきなり怒り出して

今にも飛びかかってきそうな勢いだったもんな。

しょうがねぇじゃねぇかよ、ホントなんだから。

頼むから落ち着いて聞いてくれよ…


「まぁ、いいから聞けって!

 だったら何で俺はテロリスト扱いさたうえに右腕まで失ってると思う?」


そう、これが一番の証拠だ。

警官2名で反逆行為なんて有り得ないもんな。

新聞記事を鵜呑みにする連中なんてよっぽど愛国心が強い奴ぐらいだ。


「そういえば聞いてなかったわね。

 ムサシ、私達は仲間よ。例の反乱事件について聞かせてくれないかしら?」


ちんたらしている場合じゃないしな。

メンバーをエリス探しに巻き込むにせよ、今後行動を共にするにせよ

信用を得るために相手の事を知るってのは必要なことだ。

狭いアジトで俺はあの日の出来事をメンバーに話した。


レストラン「ブルーシー」でのサファイア少将とのやり取りから

フォレスト大佐の凱旋帰還の日の騒ぎの事。

地下水道で『ジョーカー』と遭遇した事。

クルトン少将にはめられて相棒ウォードが殺された事。

そして帝都からここペイルワールに来た経緯。


…自分で語ってみると整理がつくもんだ。

自分の今置かれている立場を嫌と言う程に理解出来た気がする。


我ながらひどい目に逢ったんだな俺は…

この後俺の事を疑いの目で見る者はいなかった。


「ムサシ……あなたは復讐のためだけにこの先生きていくつもりなの?」


「……悪いかよ」


「そんなことないわ…私も同じだから」


「へ?」


ネイルは悲しそうな顔を見せてアジトの更に奥へ続く扉を開け、

立ち止まってまた俺を見た。


「ムサシ、ついて来て」


まさかここにきてまた押し倒されることはないだろうな?

けどそんな意味有り気に言われると断れない。


「ちょっとちょっと!ネイルはん!まさかあんた…アレを!」


「?」


「フリック、いいのよ。彼もどの道片腕では何も出来ないでしょ?」


何なんだよ気になるな、おい!

少し警戒しながら俺はネイルに続いて奥の部屋に入った。





「何だ?物置か?」


そこはアジトの半分もない狭いスペースで

照明は電球1つだけのお粗末な造りの小部屋だった。

突き当りの棚には特に何も入っていない。

唯一あった横長の木箱をネイルは取り出し蓋を開けた。


「ムサシ、そのリボルバーよりあなた向きの銃をあげるわ」


そう言って厚手の包装紙に丁寧に包まれたそれを大切そうに取り出すと、

現われたのは鈍い銀色を発した寸胴の銃身。


「珍しい銃だな。

 これもペイルワール特製か?」


「ええ…私の兄貴の遺作よ…」







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

帝都総司令部発緊急通達


本日1540時

ポートルフ河川沿いの民家で付近捜索中の兵士2名が射殺体で発見された。

地点はC2エリア133度。

現場に残された指紋から犯人は現在捜索中のムサシ=ハナノカワと断定。

我が軍のエアードバイクを奪い現場から逃走した模様。

当人の生存を確認したことにより現在の遺体捜索作業を中止、

代わって各隊にはテロリストの追撃を命ずる。

発見次第射殺せよ。


                                 以上

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――







「こちら04小隊、応答せよ」


「こちら本部、聞こえている」


「たった今強奪されたエアードバイクを発見した。

 ナンバーも間違えない。これより位置を打診する」


「了解。

 各隊にも連絡し包囲網を絞らせる。

 何としてでも奴を狩り出せ!!」


「了解。

 04小隊これより周辺の捜索を開始する。以上」





















 随分時間が経った。もう夜なんだろうな。

息苦しいアジトにずっといたせいで時間の感覚が狂っちまった。

俺はベッドで仰向けになって、ネイルの準備が終わるのをボケーッとしながら

タバコをふかして待っていた。

普段吸い慣れた「ブラックジャック」が恋しい…。

もらいタバコで文句言うのは贅沢だが、こいつは俺の口には合わねぇな。

包帯を解かれた右腕を照明にかざしてみる、

真新しい手当の跡が痛々しくて長い間見ていられない。

だがそれも今日までだ。


「いいわ、いつでもOKよ」


そう言って用意した手術道具を枕元に置いて、ネイルは俺の右腕のそばの椅子に

腰を下ろした。

だったらタバコは消さねぇとな、左手側に置いた缶詰の空き缶にタバコを押しつけて

肺に残った煙を吐き出し、俺は視線を天井からネイルへ移す。


「なら頼むぜ、全てあんたに任せるよ」


「ええ。

 もう完全に麻酔が効いてるはずだけど、もし痛みがあったら言って。

 ほんとは全身麻酔でやりたいところだけどここは病院じゃないの、我慢してね」


こうして手術が始まった。





「なぁネイル、お前の兄貴はなんだってそんな物作ったんだ?」


「戦場へ戻るためよ。

 私と兄貴は2年前徴兵されて戦地へ送られた。

 ほら、ちょうど徴兵制の対象が広げられた時よ」


「お前、軍人だったのか?」


カチャカチャと音を立てて手術は進む。

麻酔のおかげで何の痛みもないし、何より会話すると気も紛れて助かるぜ。


「ええ、大した訓練も受けさせられずに戦場に連れていかれた。

 だから一緒に入隊した連中は次々に死んでいったわ。

 兄貴も元々運動神経は良くない方だったからすぐに腕を砲撃でやられたの」

 あなたと同じ右腕をね」


「んで使い物にならなくなったせいでペイルワールに戻されたと?」


「そう、でも兄貴は責任感が人一倍強くて、

戦場で戦っている仲間がいるのに自分だけ帰ってきたこと悔んだ、

 そこでコイツを作ったってわけ」


「器用なもんだ。

 こういつを片手で作ったのかよ」


「これくらい当たり前よ。

私達兄弟は町一番の時計職人とまで言われてたんだから。

ほんとは兵器や車の部品製造なんてしたくないわ、

戦争さえなければ今頃私達の作った時計でこの町は今より栄えてるはずだったの」


この銃が時計職人であったネイルの兄貴の最後の作品になった。

こいつを作り終えたのと同時に腕の傷が元で病死したんだそうだ。

そして兄貴を失ったことへの恨みがネイルにジャッジメン結成を決意させたというわけだ。


「兄貴が死んで私は絶対に生きて帰らないといけなくなった」


「何でだ?」


「兄貴との約束を守るため。

 2人で世界一の時計職人になってペイルワールをもっと有名にする。

 そう約束したの。だから私は偽装工作をしたわ、

 戦場でこっそり敵兵の首なし死体に私の軍服を着せて私が死んだように見せかけた。

 前線から誰にも見つからずにここまで帰るのには苦労したけどね」


なるほど、それで女装して「ネイル」になりすましてるわけだ。

こうやってアジトにいる時も、町中で仲間といる時も変装を解かないところをみると

かなり徹底的なものだ。

こいつの決意の現れなんだろうな。


「だからいい?間違ってもクラインの名で呼ばないでちょうだい」


「ああ、分かったよリーダー」


「よし、手術は順調よ。

 今からこのジョイントをあなたの右腕に埋め込むから。

 着脱式だからメンテナンスもやりやすいわ、詳しいやり方はすべて終わってから

 説明してあげる

 そうそう、まだこの銃のスペックを説明してなかったわね、

 全長は450mm

 重量4kg+装弾時は5kg近いかしら。

 装弾はマガジン式の弾数は25発

 大口径の10mmライフル弾を使用するわ。

 反動をできるだけ抑えるために弾薬の爆発を後方へも逃がすように工夫してあるの

 だから撃ち方には少しコツがいるわね。

 それから……

 ちょっとムサシ、ちゃんと聞いてるの?」


ネイルのうんちくを前に俺はいつの間にか寝てしまった。

というよりなんだか疲れちまった。

薄れる意識の中で俺はエリスの事を考えた。

無事かどうかも分からないがとにかく探すしかない。

あの時ジャクソンに顔を見られているんだ、もし無事に生きていたとしても

奴らに見つかればただでは済まない。

そして何よりジョーカー…いや零式の謎もはっきりさせなけりゃならない。




















「けっ!!寝ても覚めても女のことかよ。お前さんには呆れるぜ」


「は?ウォード!!?」


「何そんなにびびってやがる。

 早く起きろよ、また遅刻しちまうぞ!!」


「ウォード!何で!?」


「うるせぇな。早くしろって。

 あとよぉ、うちの女房知らねぇか?見当たらねぇんだよな」


「え?リーンの事か?」


「そうだよあいつしかいねぇだろうが!

 おーい、リーン!どこだー?リーン!リーン!」


「ウォード……」


「あっ!そうか、そうだったな」


「なんだ?」


「リーンはもういないんだ。

 お前さんに殺されちまったんだったな」


「!!」


「ムサシ、リーンを返せよ!!

 なんでお前だけ普通に生き延びてやがんだよ!!」


「ウォード!よせよ!違うんだ!!」


「ムサシ、俺はお前を絶対に許さねぇ……」


「よせウォード!!撃つなぁあああ!!!!!」






















「うわぁぁぁあああああああ!!!!…………あ?」


「大丈夫、ムサシ?随分うなされてたみたいよ」


「あ?ああ……………夢かよ」


汗だくで首もとがぬるぬるして気持ちわりぃ。

のどもカラカラだ。

ひとまず夢で良かった……。


「お!おお!!」


数秒ぼやっとしていたが、一番に目に飛び込んできた新しい右腕の存在が

俺の寝ぼけを吹き飛ばした。


「驚いた?これであなたも戦えるわ」


ネイルがアジトの奥に大切に保管していた兄貴の遺作。

それはペイルワール一の職人の手によって作られた世界に2つとない

鈍い銀色を放つ寸胴なボディの義手型マシンガン。

今まさに新しい俺の右腕となった。


「こいつはすげぇや!」


「感想は?」


「………………………………………重い」


どうやら俺はこの新しい相棒と共に戦うためには

このきゃしゃな体をどうにかしないといけないようだ。



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