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EVOLUTION  作者: チューベー
13/30

第13話

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






4年後……………









雷雲が立ち込める上空

雷鳴が轟き、小雨がゆっくりと石畳の地面に落ちる。

ミッドルト帝国の中枢、帝都ランブルグの外郭ゲート。

真紅に塗られた鋼鉄の門、以前はその横にある監視所にはしかめ面した兵士たちが

厳重に警備していたが、今は人の気配すらない。

監視所どころではない、帝都ランブルグには兵士も工場労働者も市民も誰一人いない。

掃除をする人間のいない町は随分汚れて、殺伐とした雰囲気が漂っている。


4年前、ただの警察隊員だった頃とは見違えるように筋肉のついた身体で

鋼鉄の門を前に立ち、ムサシはタバコに火をつける。


「フーーーッ」


煙草の煙が向かい風でムサシの後方へ流される。

その煙が向かった先にはムサシと志を共にする5人がいた。


「やっとここまで来たな、ムサシ」


「ああ、悪いな…すっかり巻き込んじまって」


再び煙を吸い込むムサシ、その眼差しは前だけを向いている。


「今さらそれはないんじゃない?

 私達は自分が行きたいからここへ来たのよ」


「フーーーッ………

 だな、すまんすまん」


少し笑いながら体ごと振り返ったムサシはすぐに表情を引き締め、

そしてエリスを見つめた。


「エリス、大丈夫か?」


「えぇ、平気。

 私がダメになったらもうアイツを止めることができない…

 私は負けないわ」


これを聞いてその場のメンバーは優しく微笑み、

尊敬以上の気持をエリスに抱いた。

もうこの6人の決意は崩れることはない。



再びゲートに向かうムサシ、

雨が勢いを増しタバコの火が弱まる。


「フーーッ…………」


タバコを指で弾くと、濡れた地面に落ちて火は完全に消えた。




「行くぜ!!!」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





再び4年前……………





荒野に舞う砂ぼこり。

一台のバイクが渓谷の間を縫うように全速で駆け抜けていく。


「くそっ!!片腕だけでの運転はきついな」


俺はただ先を急いだ。

急ぐほかなかった。

もう後戻りなんてできないからな………。

しばらく眠り続けてたんだ、身体にまだ違和感が残って気持ちが悪い。


とまぁいろいろ不満があるが、俺にしては珍しくテキパキ動いてる方だな。

何がそうさせているかは良く分かる。


復讐心……………今の俺を占めているほとんどだ。


さらにアクセルを絞り込みながら俺はつい3時間ほど前の出来事を思い出していた。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






3時間前






「…………ん?」



「…………あれ?」



「ああ…………………朝かよ………」



俺はようやく目を覚ました。

後から聞いた話じゃ2週間は動かなかったらしい。

目覚めた時はとにかく腹が減ってたな。


んでその後思ったよ。


「……………どこだ?ここ?」


ボロくて狭い小屋の中に、小奇麗に整理された家具。

あまり大きくないが隅に置かれたベッド、その上で俺は寝ていた。

不気味なことにベットのそばの小さなテーブルの上には

メスやらハサミやら医療機器が無造作に置いてある。

しばらくボーっとしてたが

タバコを探そうとしたら気づいた。


「うおっ!!!」


右腕がない!!

肘は包帯で分厚く巻かれて、その先がない!!

それが分かったとたんに痛みが伝わってきやがった!!


「………………痛っつ!!!」


そして次第に記憶が甦ってきた…


第6地区地下水道…


テラ…


大広間…


ジャクソン…


クルトン少将…


…………………


…………………


…………………ウォード。




あれは夢だったんじゃねぇかと思考が逃げに回ったが、

右腕の現実が俺にそれをさせなかった。


「ウォード……」


相棒は死んだ、いや俺のせいだ…俺が殺したようなもんだ。

どうしようもない罪悪感と恐怖に襲われ、体が固まっちまった。





「おっ!!」





突然の声にびびってテーブルに足をぶつけて

メスを何本か床に落としちまった。

俺を呼んだ声の主はそれを見てなんとも不機嫌そうな顔してたな。


「死んだかと思ったぞい。なんじゃつまらんのう」


何だこのじじい?

あ、分かったここはあの世だ。

んでこの汚らしいジィさんはあの世の門番で俺を天国に連れてく案内係だ。


「何ボケっとしとんじゃ!!命の恩人にはまず礼をせんか!これじゃから

 最近の若者は…」


「命の恩人?」


「はぁ…、表の川に流されとったお前さんを引っ張り上げて

 腕の手当てまでしてやったんじゃ。感謝せい!」


「ってことは俺まだ生きてんのか?」


俺の元々の性格のせいか、なんかこういうシーンではジィさんの横に

せめてカワイイ看護師なんかいてくれたらな、なんてちょっと思ってしまったが、

何にせよようやくここがこの世だってことが分かった。


「生きててくれて残念じゃったよ……ムサシ」


なんで俺の名前知ってんだ!?

あんなことがあってすぐだったもんだから身構えちまった。

そしたら怯える俺の顔を見てジィさんはテーブルの上の新聞を指差した。


ん?

あ、俺?俺載ってんじゃん!!

なになに?


「反逆者!!!?」


と銘打たれた一面の見出しの下には俺とウォードの写真がでかでかと載ってる。

反乱思想にはとにかく厳しい軍は特にこういった記事は大袈裟に扱うんだよな。

目の前に広がる文面が多すぎて読む気にもなれやしねぇ、

反逆者として扱われてることが分かっただけで新聞を投げ捨ててベッドに腰を落とした。


「死んでてくれりゃ結構な金になったんじゃがな…」


「金?」


「あぁ、その場で身柄確保できなかったお前さんを軍は躍起になって探しておる。

 死体でも構わんから見つけた者には協力金が出るんだと、新聞にも書いとるだろうが!」


何というか…俺の人生終わったな。

もうどこにも行けねじゃねぇかよ…………ん?


「おい、じぃさん。何で軍に通報しねぇんだよ?

 生きたままの方が高いんじゃねぇのか?」


「へっ、これでもワシは医者じゃ。 人を見殺しにはできんよ。」


なんだ、いいジィさんじゃねぇかよ。

とにかく生き残ったんだな俺は…………。


…………


…………


…………


…………


「何じゃ?どうした?」


「え?あ、いや何か大事なこと忘れてる気が…」


…………


…………


「!!!!」


俺としたことが最悪だぜ!!


「おい!ジィさん!!俺と一緒に女の子が流されていなかったか!!?」


「いや、お前さんだけだったぞい。

 軍に盾突いといて次は女か……ヒッヒッヒッヒッ!

 見かけによらず図太いんじゃのう!」


うるせーな。

んな事よりエリスのことが心配だ!!


「おい!ジィさん!ここは……」


「ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ!!」


何だ?バイクか?

寝起きの状態でこの爆音はきついな。


「ムサシ!隠れろ!! 軍の見回りじゃ!!」


「あ?ああ」


どこに隠れりゃいいのか迷いきょろきょろする俺に、ジィさんはベッドの下を指さして助けてくれた。ついでに古めかしいリボルバーを俺に放り投げてきた。

俺は慣れない左手でそいつを受け取り、ベッドの下に身を隠した。



程なくして軍人であろう男の声が聞こえてきた。

1人……………いや2人か。


「おい!ジジィ!!何か見つかったか?」


けっ!相変わらず完全に人を見下した喋り方だな、おい。


「うんにゃ、何にも変わったことはありませんぜ」


「ふん!念のため家の中を調べさせてもらう」


マジかよ!!


「……えぇ、何にも出てきませんぜ」


探すにしちゃあ随分手荒だな、ガチャガチャとまるで強盗だぜ。

しかしまずいな…ベッドの下なんていかにもって感じじゃねぇか?

調べないわけないよな。


…と目の前にさっき投げ捨てた新聞が落ちてることに気づく。

写真と見出ししか見なかったが、俺の今の位置からは文字しか見えない。

読んでる場合じゃないのは分かったが、ある文字が目に留まり、

俺は凝視した。




ジェームス=リーン……………ウォードの奥さんの名だ。




他の文面を読むのがあまりにも恐くてたまらないが、おれの目はゆっくりと

その周辺へと視野を広げた。






==================================================


中央司令部は今回の反乱行為に関して組織的かつ計画的な犯行と断定。

同2名に深く関わった人物の捕縛、ならびに尋問を即時執り行なった。

同日1500時これらの中で国家の反乱の思想を持っている疑いがある者を国家反逆罪の罪で処刑処分とした。(当該者は以下のとおり)


<該当1名>

ジェームズ=リーン ……………………………… 銃殺刑 (罪状 国家反逆罪)


                                   以上


==================================================




俺の中で何かが切れる音がした。

同時に聞き覚えのある俺自身の声が聞こえた。


「こんな国、俺が………ぶっ壊して…………やる・・・・・・・・・・」


気がついた時には俺はベッドの下から這い出てその場につっ立ってた。

ちょうど兵士は2人とも俺に背を向けて部屋を荒らしてる最中だ。


リボルバーの撃鉄を起こす音に1人が気づいて俺の方へ振り向いたが、

……………もう遅ぇよ。



「ドンッ!!!」



突然の出来事にもう1人が慌ててライフルをリロードしたが、

……………お前もだ。



元々警官だったんだ、銃は常日頃から持ち歩いてたし訓練で何回も撃ってる。

だけど殺しは初めてだよ。

そういうのもめんどくさくて軍に入らなかったんだが……………

お前らが悪い。


「悪いなジィさん。部屋を汚しちまって」


「…………………………

ヒッヒッヒッヒッ!こんな優男が反乱なんて嘘っぱちだと思ってたが

これがお前の本性かい?おもしれぇや!気に入ったぞい、ムサシ!!」


本性ってわけじゃないだろうけど、初めてだぜ、ここまで真剣に物事を考えたのはよ。


「ジィさん………

 俺はすぐに出るぜ。軍への言い訳なら適当に俺の名を使いな。

 それとあるだけの弾をくれ」


「ヒッヒッヒッヒッ!

 まぁそう焦るなムサシ。弾はくれてやる。

 けどお前さんこれからも片腕で戦うつもりかい?」


いちいちうるさい野郎だな。

人の決意を揺るがすようなこと言ってんじゃねぇよ!!


「そんな顔するでない!

 いい事を教えてやろう。ここから東に渓谷を抜けて50キロ行ったあたりに

 ペイルワールっちゅう小さな町がある。そこでクラインって男を訪ねてみな。

 お前さんの力になってくれるぞい」


「何ともうさんくせぇ展開だな……」


「やかましい!命の恩人の言うことくらい信じるもんじゃぞい!!」






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





再び3時間後……………




3時間ぶっ飛ばし続けてんのにまだ見えてこねぇ。

やっぱり騙されたのか?


「っと!!!」


目の前の道が途切れてるのに気づいて急ブレーキ!!

サイドターンをかけてギリギリのところで車体は止まった。


「危ねぇな!!」


頭の上を馬鹿でかい鷲が飛び去って、

それを眼で追った先にあったよペイルワール!!


「あるのはいいけどこれどうやって下ればいいんだ?」


彼方に小さく見えるペイルワールの街は鋭く切り立った崖の下。

はぁ、ため息しかでねぇ…。


「これで何にも無かったら恨むぜジィさん」


再びアクセルをふかし、

俺は仕方なく他の道を探した。


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