悪魔と天使の輪舞曲
太陽の日差しが心地よく注ぎ神聖な印象を持つ神殿があるここは"天界"と呼ばれるところ。創造と破壊の女神シャルトラ・ドラフィリアが三番目に創世した世界である。
天界には一番に創った人間界の清濁の混沌さもなく、二番目に創った魔界の負の力もない。創造の女神としての正の力だけで創りあげられている。
「いやー!」
そんな場所に女性の嫌がる声が響きわたった。何が起きたのか慌てるものもいれば訳知り顔で知らんぷりする天使もいる。
「俺は魔界に帰んなきゃ駄目なんだよ!だから離せ!」
「またここに来るっていうまで離さないー!!」
そこには金髪碧眼のこれぞ天使という女とガラの悪そうな男がいた。女は、硝子細工を彷彿とさせる繊細で優美な姿をしており非常に美しい。対する男は、朱色の髪をみつあみにしており垂れ目の灰色の瞳に怒りを宿していた。その顔立ちは、整っており気だるげな雰囲気がなんとも色っぽい。
そして状況的に言えば美女が、逃げる男に追いすがっている。ただ彼らの言葉から状況を理解すると魔界に帰ろうとしている男を美女が無理やりひき止めていた。もちろん魔界に帰ると言っている男は、当然悪魔なので天界にいることすらおかしい。
「だから!俺は悪魔でお前は天使なの!悪魔の俺が魔界に帰るのは当然だろうが!!」
「だって!アスが魔界に帰ったら絶対女の人とイチャイチャするもん」
「俺は、そーいう悪魔なの!あぁぁぁ、もう!そこでニヤニヤしてる奴らも説得してくれよ!」
最初に天使のイルシェに会ったのは、イルシェが目も開いていない赤ん坊の時のこと。一時期子持ちがモテるという話が出て暇だったので、子どもを育てることにした。たまたま人間界で捨てられていた赤ん坊がいたので拾う。話が的中し女が寄ってきた。どうやら子どもがいることで気弱な悪魔が俺は大丈夫だと判断したらしい。気弱な悪魔たちは、いままで周りにいた強気な悪魔と違うタイプで非常に良かった。
そう、あのときまでは…
あるときから俺の周りには悪魔も人間もいなくなっていた。原因を突き止めると養い子のイルシェ。イルシェは、実は天使でしかも輝くばかりの美貌までもっている。天使を育てるってアホだと言った奴出てこい!拾った時は、髪がなかったし生えても焦げ茶。人間界で拾ったのだから人間だと思っていた。だが歳を重ねるにつれて焦げ茶の髪は薄くなり金髪になり、16歳になったら天使としての力に目覚めた。
そんな奴がいるのだから周りの女がいなくなるのも頷ける。なので一人前になったから巣立ちしろと天界に置いていった。あの時は、悪夢としか言いようがない。天使としての力、神通力を惜しみなく発揮し俺の魔界へ帰る通路を完全に絶った。その後すぐにそれに気がついた主天使長が現れイルシェは、主天使長預かりになった。
「だからそのまま天使として生活すりゃいいのに」
月一のペースで魔界の屋敷に訪れてくる。用事があって天界に行くと監禁されかけた。今回もイルシェの目を盗んで逃走した結果である。
「アスがいないなんてツマンナイ!」
「俺は、女とイチャイチャしたいの!」
「イルシェとイチャつけばいいでしょー!」
神通力で強化した腕を俺から離さない。どうやらイルシェは、神通力が通常の天使より多いらしく力が強い。下手に動くと俺の骨が折れる。俺も弱い悪魔ではないが戦闘に特化した悪魔ではないのでどうしてもイルシェの方が強い。
「お前との絡みは、俺が望んでる絡みじゃねー!」
「いったいなんの騒ぎですか」
俺が渾身の叫びをしたあとに現れたのは、黒髪に茶色の瞳の気が強く真面目そうな女。しかし明るい色を好む天使にしては暗すぎる全身真っ黒な服を着ている。その容姿と服装にアスは、ある人物を思いだし現状を打破出来そうだと内心歓声をあげた。
「新しく戦天使長になったクロカさんですか」
「はい、そうです。ところでこの状況はなんですか?」
俺は、戦天使長に状況を説明した。もちろんイルシェを引き離す方法も駆使しながらだ。
「わかりました。イルシェさんは、一時的に私が預かりましょう」
「非常に助かります」
俺が脱力していうと戦天使長は、微笑みその表情に似合わない強烈な拳骨をイルシェに食らわせた。その様は、女だてらに戦天使長になるだけはある。恐いものなしのイルシェも痛かったらしく腕が離れた。その隙に俺は、魔界への門を開き半分足を踏み入れる。
「私が責任持って教育します」
「はーなーしーてー!アスー!アスーー!!」
イルシェを脇に抱え平然とする戦天使長に内心拍手を送り俺は、魔界に戻ったのだった。
ところ変わりここは、神殿の奥深くにある大きな部屋。そこには戦天使長と虹色の輝きをもつ髪の美女が優雅にお茶を飲んでいた。美女の方は、なにか嬉しいことがあったのか嬉しさが顔から滲みでている。
「ふふっ、悪魔に恋慕する天使……美味しい美味しいわ!相反するからこそ引き立つカップリング。これは影ながら応援しなくちゃだめね!」
「女神様、応援はしてもいいですが手助けをしないでくださいよ?相手の悪魔は、大悪魔の中で2番目の立場にあるんですから」
美女は、この世界を創造した女神シャルトラ・ドラフィリアであった。
「わかってるわよ♪」
戦天使長は、本当にこの神はわかっているのだろうかと思い。あの朱色の髪の気の毒な悪魔を思いだし溜め息を吐くのだった。この女神は、非常に気まぐれで楽しいことに目がないのだから。
アス……もといアスタロトは、久々に悪魔として楽しんだあと自分の屋敷に戻ると呆然とした。
「なんでお前がここにいるんだ…?」
「今度から死天使になりましたイルシェです。担当
は魔界になりました。よろしくお願いします!」
イルシェが死天使の制服である黒いローブに身を包み満面の笑みで笑いかけてきた。
「これで一緒にいられるね。アス♪」
「あのクソ戦天使長ぉぉぉぉ!」
大悪魔アスタロトの怒声が魔界中に響き渡ったのは言うまでもない。ついでに言えばこの状況をつくった原因は、最高神であるシャルトラ・ドラフィリアが面白がってのことである。戦天使長にそんな権限などない。そんなことを知らずアスタロトは、戦天使長に呪詛を吐くのだった。