side私③
世界から切り離されてしまった空間は、阿鼻叫喚で埋め尽くされていた。
叫び怒る人、救いを求める人、ひたすらに泣き続ける人。
だけど私は、そのどれにも当てはまらなかった。
少し汚れてしまった万年筆を胸に抱く。
それはこの危機的状況を打ち破るにはあまりにも非力だが、確かに私を絶望から救っていた。
目を閉じれば、嘘が苦手な年下の幼馴染の笑顔が脳裏に浮かぶ。
君はいつだって、私が笑えば一緒になって笑っていた。まるで自分のことのように。
ずっと昔、初めて君に出会った時には、こんな感情を抱くとは思ってもいなかった。
それも考えてみれば当たり前。君はまだ言葉を発さず、私だって幼稚園で陽気に歌を歌っているような状態だったのだから。
当時の私は、弟のような存在ができた事よりも、自分がお姉さんになれた事に喜んでいた。周りから可愛がられるばかりだった私が、誰かを可愛がることができるのだ。
少しだけ、大人に近づけた気がした。
君と関わりながら重ねる年は、知ろうともしなかった君の魅力を自然と教えていった。
そして、君が中学生になった頃、私の心が変化を始める。それは、学ラン姿の君を素直に格好いいと思ってしまうほどに。
しかし私は高校生で、片や中学生。必然的に顔を合わせる機会は減っていった。
最初は、そのことが理由で会う度に少し気まずい雰囲気になるのだと思っていた。原因は、お互い恋をしているからなのだとすぐに気が付いたが。
入学当初は私よりも小さかった背が、いつしか見下ろされるほど頼もしくなっていた。けれど、表情に出やすいところや野菜が苦手なところ、純粋さは子供の頃から何一つ変わらず、私は思わず笑ってしまった。
そんな君だが、実は密かにモテていたことを私は知ってる。
優しくて努力家で真面目な好青年は、ただし他人の気持ちには鈍感で、向けられている好意に気付いてすらいなかった。
他の誰にも目もくれず、真っ直ぐ私の元のにやって来てくれることが、どれだけ嬉しかったか君は知ってる?
君のことだから、知るわけないか。
思わず頬が緩んだ。




