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side私①

 ごろごろごろごろ、ごろごろごろごろと。

 

 万年筆が転がっていく。

 

 手を伸ばす余裕さえなかった。

 機体が上下左右あらゆる方向へ傾く。

 体が自由に動かせない。

 シートベルトがとても窮屈で、どんどん締め上げられていくような錯覚に陥る。

 

 怖い。

 

 私の力が、私の存在が、とてもちっぽけなものだったと実感させられる。

 

 ここで死ぬのだろうか。

 

 ここで私は死んでしまうのだろうか。

 

 故郷にも帰れず、大切な人の顔さえ見れず、地に足つくこともなく虚空に消えていくのだろうか。

 

 その考えが頭に浮かんでしまうと、息すらもまともに吸えなくなってしまう。涙が溢れて、今にも大声で「助けて!」と泣き叫んでしまいそうだ。

 

 大空に浮かぶ機体の中は既に混乱で埋め尽くされていた。

 多種多様な言語が叫ばれ、そしてそれが更なる混乱を呼ぶ。自分の知らない言葉を聞くことで、改めて自分が余所者であることを実感してしまうのだ。

 

 帰りたい、帰りたい、と心が喚く。

 

 

 瞳から雫が零れ落ちそうになった瞬間、先程転がっていってしまったはずの万年筆が足元に戻って来ている事に気がついた。

 

 体の自由はきかないけれど、必死に腕を伸ばす。

 指の先端まで神経を行き渡らせ、やっとの思いでそれをつかんだ。

 少し傷がついてしまったが、壊れてはいない。傷ついた箇所をなぞるように優しく撫でると、大切に大切に胸へ抱え込んだ。

 

 そうすることで、不安を煽っていたたくさんの音は意識の外側へといってしまう。

 恐怖で染まっていた心が晴れていく。

 

 思い出すのは1年前の私の誕生日。

 玄関先で交わしたあの会話。

 私と、君と、桜の花だけが知っている、あの話。

 

 

 私は目を閉じた。



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