side僕②
季節は巡って今日、大学の合格発表がされた。
努力の甲斐あって、君と同じ学校に通えるようになった。落ちた場合のことなど全く考えていなかったので、内心とてもホッとしている。
そしてすっかり日が沈んだ今、高校3年に進級した際の決意を果たそうと、携帯電話を握り締めていた。
道路わきで携帯電話を見つめる姿は、他人から見ればさぞ不審だったことだろう。
しかし、そんなところまで気が回るわけがなかった。呼吸すら、意識していないと忘れてしまいそうなのだから。
震える指先で電話帳から目的の名前を探す。
大学試験よりも不安で、動揺して、緊張してるって言ったら怒られてしまうだろうか。
でも、今にも爆発しそうな心臓を、どうやったって抑えることができないのだ。……不可抗力なんだ。
何度もミスしながら、やっとの思いで大好きな人を選んだ。
あとは“発信”のボタンを押すだけ。
なのに、あと数ミリというところで間違っていないか名前を確認してしまう。
一体これを何回繰り返しただろうか。テストの見直しより綿密に厳密に。
僕は一体何と言ったのだろう。
声は上擦っていなかっただろうか。
裏返ってはいなかっただろうか。
震えてはいなかっただろうか。
伝えなければならない最低限の一言は、繰り返し何度も何度も練習していたのできっと伝えられたはずだ。
ひとまずの目的を達成し、その場に崩れ落ちそうになる膝に力を入れて耐えると、安堵が全身を包み込んだ。
本番は一週間後、君が海外旅行から帰ってくる日だ。
それまでは、気を抜いてはいけない。そう、わかっている。
だけど、少しだけ。少しだけこの嬉しさをかみしめていてもいいだろうか。




