8th.新たなる敵(Two persons and three persons )
「……あれ」
晶水マルコは混乱していた。
ここは生徒会室、一学生であるマルコにはあまり縁もゆかりもない場所だ。
つい先ほど起きたあまり煮物非常事態に思考がマヒして呆然としている間に連れてこられたのはわかる。
問題はなぜ連れてこられたかということである。
「あ、あのぉ…なんで私連れてこられたんでしょうか?」
おずおずと手を挙げて目の前で鼻歌を歌いながら書類に目を通す少女に質問を投げかける。
少女はマルコの意識が戻ってきたことを確認すると申し訳なさそうに頭をかいてまずは謝罪の言葉をマルコに送った。
「あぁ、申し訳ありませんえ。こっちもいそいどったさかい、理由も言わんで連れてきてもうて…関係者内でも神賀戸さんはなんや校庭でバトっとるしヘンデルさんはなんや私用みたいやしでなぁ?」
少女の言葉に、マルコは軽い違和感を覚えた。
少女、燕糸踊壺。彼女は青銅欄第三小学校の最年少生徒会長である。
そんな少女とそのメンツがかみ合わない違和感、そしてマルコはその共通点を間違えた。
「あ、あの…学園祭でしたら準備中なんです。神賀戸君と太一君がちょっと喧嘩しちゃって、ジュリアちゃんも読んでどうにか止めようと…」
マルコがそこまで行ったところで、踊壺は手を出して間違いを指摘する。
「あぁいや、学園祭の準備も確かに大事な話やけども私が話したいんはその事やないんですえ」
踊壺の否定に、マルコは首をかしげて再び呼ばれようとしていた人物の共通項を洗い出す。
ジュリア、神賀戸、マルコ…実行委員……あれ?そうじゃない………
この三人を本当につなぐ絆、それは……
「そう、この町をさりげない危機から救った正義の魔法使いと魔術師さん…まずは代表としてマルコさんに、私からお礼を言わせてもらいますえ♪」
ニコ、とマルコに笑みを向ける踊壺。
髪が白いとまつ毛も白いんだなぁ、とずれた思考の後にマルコは頭の中で間違ったスイッチを正しい方向へとぱちんと戻したかのように急にはっきりとその言葉の意味をつなげ合わせた。
「え、ええええええっ!!?」
マルコは驚愕の声を上げてパイプいすを倒して立ち上がる。
「な、なんで生徒会長がそのことを知ってるんですか!?」
「寧ろ生徒会長ですえ?生徒の問題は知ってて当然やよ」
当たり前のことのように言い返すが、それでも違和感は絶対にぬぐいきれない。
子供でも分かる、魔術の世界は危ないし表の世界にはかかわらせてはいけないものだ。
だからこそ神賀戸のような魔術師の強力な組織がそれを隠ぺいしているんだろうしその秘密主義は平和を願うなら絶対に守るべきものだと思う。
偶然魔法使いに選ばれた自分やジュリアならいざ知らず、普通の生徒会長が知ってていいはずがない。
「まぁ、私は普通の生徒会長やないしなぁ……」
踊壺はそういうと内ポケットから銀色のクモの紋章を象ったバッヂを出して見せた。
「私は妖怪、広義でいえば幻想種いう魔法使いの天使さんらと同じ魔法や魔術の法則によって生まれた不思議な生き物や」
「よう……かい……?」
踊壺の言葉にマルコは唖然とする、しかしすぐ言葉に詰まった。
マルコを見る踊壺の目は、いつの間にかそれまでの綺麗な紫色のそれとは違うものになっていたからだ。
いや本質的には変わらない、丸く紫水晶のようなきれいな瞳だ。しかしその内から見える光は決して光の反射だけによるものではない。
まるで見る者の意識を侵食していくような、深く、深く、超常的な『魅』力を放っていた。
「………っ!!」
パキン、と、ガラスのような固いものが砕け散るような音がマルコと頭の中で響いた。
マルコは即座に視線をそらす。
「ありゃ、流石魔法使いさんやなぁ?」
素直に驚いた様子の洋子を相手に、マルコはあわてて目元を抑えてちらちらと覗きながら文句を言った。
「い、いきなり何するんですかぁ!!」
「にゃっはっは、いうよりも見るが安やろ?私たちはその出自から、生まれつき妖術いう能力を持っとる……まぁ魔法や魔術と違って、これは単純に肉体の機能やな?」
もうやらへんから安心しぃと言って、顔の前で手をひらひらさせる踊壺だが、マルコにはいまいち信用できなくなってしまった。
「……私は危険な『ある妖怪』を相手にごたごたと闘ってきたんよ。その妖怪を、ついに私のホームグラウンドであるこの学校に追い詰めたんやけど……急にこの町に魔術によるおかしなノイズが走るようになってもうてなぁ、私はその妖怪を見失ってまうしその妖怪を追ってきた薔薇十字騎士団の人にとっても邪魔になってもうたさかい、最近魔法で活躍しとったマルコさんに協力を仰ぎたいいう事になったんよなぁ」
「魔術……!?」
魔術、その言葉にマルコは嫌な予感を感じて冷や汗を垂らす。
確かに悪い魔術師は、あの時倒したはずだったのに………
「残念やけど、マルコさん」
机の上で腕を組んだ踊壺は、真剣な瞳でマルコをみている。
その予感が間違いであってほしいと切に願いながら、マルコは踊壺の言葉に耳を傾けた。
「この街を包む魔術による異常は、まだ消えてませんえ」
果たして、マルコの予想はあっけなく裏切られた。
そして、その瞬間に気が付いた……生徒会室のドアの隙間から霧が噴出してきている。
「非…観測空間!?」
非観測空間、それは魔術師や魔法使いが一般人に感知されず戦闘を行うために展開する結界。
当事者たちを除くあらゆる人間から観測されない、あらゆる事象が起こりうる空間が展開され今生徒会室は非現実の世界に飲み込まれた。
そして、窓が突如として一斉に開かれる。
『ギギッ、ギッ、ギギギ……』
『エンシ……エンシのヌケガラ!!!!』
窓の外が真っ黒な何かで黒く塗りつぶされ、その真っ黒から同色の小柄な人型が這い出てくる。
マルコの目にも明らかに、それは彼女たちの敵だった。
マルコは急いでドラウプニルを腕輪のサイズにまで戻し、カバンの中から眠っているエリヤを取り出した。
「んぁ?もう打ち合わせすんだのぉ?……へ、幻想種!?」
「寝ぼけてないでエリヤ!!」
とりあえずエリヤを肩に立たせて、霧の吹き出すドアに構えたマルコはスゥと息を吸って覚悟を決めた。
再び魔法を用いて、魔術を操る敵と戦う覚悟を。
「まだ終わってないなら……終わらせないと!!」
そんなマルコの勇ましい顔を見て、この明らかな異常事態の中平然と立っていた踊壺は興味深そうに口元に笑みを浮かべた。
◆
「にゃるほどぉ、あれ友達になってって意味だったんだね?」
「あうぅ…ご、ごめんなさいの」
エトナは真っ赤な顔を縦に振ってジュリアにひたすら謝る。
ジュリアはそんなエトナの純粋な反応に好感を覚えつつもとりあえずいいよと謝るのをやめさせた。
エトナは落ち込みながら、口を開いた。
「わたし…人と話すのがまだうまく出来ないの、ずっとここから遠いところにいたから……」
「……!そう、なんだ。私と一緒だね?」
手を握るジュリアにエトナはびくっと身を縮こませるが、薄く目を開いてジュリアの笑顔を見ると安心したように顔をほころばせた。
「あの……改めまして、私……エトナ・ラヴェイって言いますなの。今日引っ越してきたばっかりで、同じ時期に転校してきたヘンデルさんなら友達になれるかなって思って……」
しどろもどろだが、必死に伝えようとするエトナの真摯な姿はジュリアにとって新鮮だった。
今までジュリアが関わってきた人間が本人も含めて誰もかれも何かしらの形で『完成』してしまっている人間ばかりだからなのかもしれない。
だから、ジュリアの答えは最初から決まっていた。
「よろしければ、私と……お友達になってほしいの。」
「……喜んで!!」
二人が手を差し伸べあい、握手を交わそうとしたその時だった。
「おっと、そうはいきませんよ?」
エトナは気づかなかった、伸ばした手に何の前触れもなく迫る水滴……しかし、ジュリアは気づいた。
わずかな瞬間の差だったかもしれないが、ジュリアはそれに対する対応も迅速だった。
とっさにエトナの手を掴み、彼女を巻き込んで横に倒れこんだ。
「……っ」
「ふわ!?」
エトナが間の抜けた驚きの声を上げるや否や、エトナの腕への着弾を妨げられた水滴はそのわずかな量から眩いばかりの光を放った。
「わぁうっ……」
「目くらまし…!?そんなもの、私に効くかぁ!!」
ジュリアは変身しないでもそれ以上の威光を発して水滴を包む。
そして以降は黒く重厚な掌サイズの匣と化して水滴を閉じ込めた。
「魔法……!?」
エトナがつぶやき、何故とジュリアがエトナを見る前に……エトナの頭上に巨大で禍々しい赤い鉤爪が襲いかかった。
ガギィン!!!!と、金属同士が軋みあう音が響く。
銀色のカーテナ……エノクが飛来し、襲いかかる鉤爪からエトナの身を守っていた。
『ジュリ、これは一体どういうことだ?』
自分も何がなんだかわからないと答えたかったが、そんな暇はないようだ。
「へぇぇ、報告通り魔法に覚醒してるんだ?」
鉤爪の主は、白い髪をなびかせながら好戦的な笑顔を作る。
そして武器に反して身軽な動きでパリィすると、大きく後ろに跳んで間合いを開けた。
「でも、だからこそ貴女には『そっち』についてほしくないんですよね?」
それはジュリアにとって、どこかで見たような顔……。
そしてジュリアは思い出した。
彼女は薔薇十字騎士団の一員で、ジュリアより先輩の『魔法使い』の一人。
手元に呼び寄せたエノクの塚を手に、ジュリアは背後に庇ったエトナを見る。
「ヘンデル……さん」
「……っ」
呆然とするエトナの前で、初めての日常における友達を前にして超常の力を用いることに……今までその世界で生きてきたジュリアは、生まれて初めて躊躇した。
しかし、だからこそジュリアは相手に向きなおって息を整えた。
そして、瞑想する。
(大切なことを知らなかったからこそ、私はこの町で罪を背負った)
(教団の外に出た自分は、もっと真正面から外の世界と向き合うべきだった)
(マルコのように超常と出会った少女も、その力と正面から向き合ったからみんなを助けられたんだ)
(それは、私にも下院にも出来なかった……とても凄いこと、だから!!)
◇
「主よ、憐れみたまえ!!」
「この魂に憐れみを!!」
二人の魔法少女は、奇しくも違う場所でまったく同時に魔法の言葉を唱えた。
マルコの衣服が風に流され大気に溶けるように消えていく、そしてドラウプニルの輝きから環状の帯が表れてマルコの素肌を覆った。
同時にジュリアの衣服も眩い威光と化して消滅し、彼女の背後からまた激しい威光が発せられる。
続いてドラウプニルの環がマルコの胸と腰を覆い締めるとそれは姿を変え若草色の衣服とスカートを形成した。
続いてもう一つの環がその上から胸を締めると皮のような素材の鎧へと変化し、襟元からセーラー服のような襟と半透明の羽衣が伸びる。
ジュリアの威光は雷雲のように黒くなるとその身を包みレオタードのような衣服へと変化する。
そして腰回りに発した威光が白いアーマーを形成すると、ジュリアの胸元から十字に枝分かれした眩い威光が輝きだす。
その輝きはベルトのような帯と化してジュリアの身を包むと、その胸元には薔薇十字騎士団の紋章を象った留め具がはめ込まれ、腰をまくベルトからスカートが伸びた。
最後に、環がいくつも絡まって若草色の大きな帽子を形成しマルコはそれを頭にかぶる。
威光の雷雲が黒い外套を形成しジュリアがそれを羽織ると、外套は黒い翼と化して久しい感覚を思い出すように2,3度羽ばたいて黒い羽根をまき散らしながら外套に戻った。
そして、変身の間回転しながらそれぞれの主の周りを旋回していた金と銀の剣が主の手に戻り…
パシンと互いの手に収まった。
「王の財宝よ、流れる円環の渦よ、再顕現せし『王国』の魔法を示せ。私は『王国』の魔法使い!
フェオ・ユル・ウル・アンスール!!」
「私はここに新たな則を唱える者、新たな理を添える者、故に私は望む…この手に奇跡を、闇を払う魔法を!!私は威光の魔法使い!
カノ・ソウィル・ラグズ・アンスール!!」」
魔法の言葉を唱え終わり、魔力の光を振り払って姿を現した王国の魔法使いと威光の魔法使いは再びこの地に顕現した。
◆
「薔薇十字騎士団指定幻想種討伐騎士…蜘蛛美・由良ぁぁ!!」
ジュリアは威光でいくつもの刀を生成すると、相手……由良にめがけて投射した。
「はっ、まだまだ単純な攻撃ですね!!」
由良はひらりひらりと舞うようにその刀をよけていくと、その一本を手に取って口ずさんだ。
「『鉄を火にくべ、水の質を増せ』」
そしてそれをふりまわすと、刀は水銀のように溶けて複数の銀色に輝く水滴となる。
しかし、それがかすった木の枝がすっぱりと切断されて地に落ちる。
水滴と化してもそれは『刀』、その質を失っていないのだ。
「『風の舞を受けて吹き掻かれ』!!」
由良の言葉とともに、刀の水滴は一斉に方向を変えて空気中を風に舞う木の葉のように旋回しジュリアに襲い掛かった。
「ブレードフォート!!」
ジュリアの全身から発された威光が、自身とエトナを包む剣のやぐらを形成する。
しかし、水滴は剣の隙間からも降り注ぎジュリアの肩をかすった。
「……っ!!リバース!!」
ジュリアは剣も水滴も元の威光に戻して消滅させる。
その隙に由良は鉤爪を振りかぶってジュリアの眼前に接敵していた。
「エノク!!」
『委細承知!!』
ジュリアはエノクによってその鉤爪を受け止める、しかし先と明らかに違う構えだ。
「魔を絶て最後の剣!!!!」
受け止めるためではなく、断ち切るための剣閃。
あらゆる魔を絶つすべての聖剣の原点、それがエリヤとエノクである。
そして、それが効果を発するものといえば…それは魔術。
危うく間違えるところだった、通常魔法使いは武器に頼る……武器こそ魔法使いの魔法の具現だからだ。
おまけに呪文まで使われてはそっちのほうが魔術と疑いもするだろう。
しかし、先に由良はエノクから大きく引いた。
それは、あの派手な鉤爪こそが魔術の産物だからだ。
「やっぱり、その鉤爪は魔術で動いて……さっきの水滴が、由良の魔法!!」
「へぇ、一発で見抜きましたか。もしもの為の魔法使い対策でしたが、さすがに下院が選んだ子は優秀ですね?」
ジュリアは冷や汗を垂らす。
相手は魔法使い、そして使っていた武器は魔術、魔法もまだその『結果』しか見えていない。
つまり、相手はまだ魔法使いとしての本気すら見せていない、自分が最初から魔法を思い切り使って戦っているにもかかわらず。
「魔法に勝てるのは魔法だけ……それが下院の持論でしたね?しかし…経験の差ですね」
薔薇十字騎士団指定幻想種討伐騎士……通常、薔薇十字騎士団は現実社会の裏で暗躍する魔術師とそれに起因する災厄を特定し駆除する役目と、魔法や魔術という現象そして技術を補完し記録する役目がある。
ジュリアの所属するのは後者の部署、そして神賀戸が所属するのは前者の部署だ。
なら、由良が所属するのは前者ということになる…しかし由良が狩るのは魔術師そのものではなく幻想種なのだ。
幻想種は魔法によって作られた『現象』によって生まれる。人の意志によらず、現象そのものの具現として現れる。
つまり由良の戦闘経験は、ジュリアに比べて圧倒的に多いのだ。
「……勝利を確認するのはまだ早い、私がもう本気だと思ってるの?」
由良はジュリアの強がりに、失笑で答える。
「本気でなくても、ネタが割れたマジックは下手な魔術より対応しやすいですよ?……あきらめて、その子を渡しなさい」
ズン……と、由良の纏う殺気が、急激に濃くなった。
「……っ、なんで……どうして!!なんでエトナが、貴女みたいな魔法使いに狙われなきゃいけないの!!」
ジュリアの問いに、由良はため息をついて答えた。
「……はぁ、そんなの……決まっているじゃないですか」
「我が身に情を」
ジュリアの背後から、魔法の言葉が聞こえてきた。
そして、ジュリアの横を通り過ぎて…白い袖口のない袖が伸びる。
ベルトに縛られたそれはまるで囚人の拘束具のそれだが、先端からジギンとそれを突き破って爪が伸びる……由良へと向けて。
由良は、ぞっとするような冷たい視線をジュリアに……否、ジュリアの後ろのエトナに向けて言った。
「彼女が……正確には、彼女たちが。私達の敵だからですよ」
「……どういう事なの?ねぇ、エトナ……っ!!」
ゆっくりと振り返りながら、ジュリアはエトナに問いかけた。
◆
黒い人型……子鬼は見た目に見合った素早い動きで壁や天井を駆けながら踊壺に襲い掛かる。
しかし、その鋭い爪は踊壺に届く前に黄金の環に阻まれ、その空洞から放たれた風の弾丸に弾き返された。
「っせええぇぇぇえええい!!!!」
そして、マルコは黄金の剣と化したエリヤを振りかぶってフルスイングで子鬼に振った。
刃のついていない部分で。
『ぎゃごぶぇぇぇあ!?』
奇妙な悲鳴を上げながら子鬼の一体は壁にバウンドして床にたたきつけられた。
「や、やりすぎたかな……」
冷や汗を垂らしたマルコ、流石に生き物を物理的に切断することに抵抗を感じての峰打ちフルスイングだった。
『いや……余計痛そうじゃない?』
エリヤが突っ込みを返すと、踊壺はのんきに手をふってマルコに助言する。
「あれは『影法師』、その辺の大魔力に怨念で作った核を与えて形を持たせた生命のないロボットみたいなもんやよ?遠慮なく叩き斬っても問題ないですえ~♪」
「あ、そうなんだ……?」
『……っていうか、そっちの子も幻想種じゃない?どういう事なの?』
こっちが訊きたいよぉとマルコは心の中で突っ込んだ。
子鬼たちは体制を整えると今度は爪を伸ばしてマルコに襲い掛かるが……
「大魔力で編んだなら……ドレイン!!」
マルコは子鬼と自身の間に門のような大きな輪を作る、伸びた爪ごとその門をくぐった子鬼達は即座に黒い魔力の塊となって蒸発した。
「幽世に送って霊結合を解いたんか……流石魔法使いはルール無用やなぁ?」
マルコは踊壺に向き直ると、ドラウプニルを嵌めた右手を向ける。
「踊壺さん、これは一体何なんですか?今の学校で一体何が起こってるんですか!!」
何も知らないマルコに、踊壺は笑みを浮かべる。
そしてその口を開く……その前に、黒に塗りつぶされた窓の向こうから『同じ声』が聞こえた。
「くっかっかっか……それには妾自ら応えようかのう?」
ぐばぁ!!と、粘液上のそれが真円を描くように開き、その向こうから窓の淵に足を下す朱い髪の少女がマルコにその朱い双眸を向けた。
マルコは一目で理解する、朱い少女の和服を更に派手にしたような衣服にどこか神聖な雰囲気……そして、肌に感じる圧倒的な魔力から……彼女もまた、魔法使いであることを。
踊壺もまた目を細めて、敵意を込めて彼女を見る。
「我が名は……ヘルシャ・ファルベロート!!勝利の魔法使いにして青銅欄第三小学校の生徒会長候補!!」
「そして、真の字名を朱天童子!!妾こそ汝らの 敵 じゃよ……魔法使い!!」
声高らかに名乗りを上げる朱い少女、ヘルシャ。
彼女はマルコにとって意外すぎるほど素直に、そして率直に魔法少女たちに対して宣戦布告した。
日常では、友人と、仲の悪い喧嘩友達
非日常では、互いにしのぎを削りあう完全な敵対関係
鏡合わせにすらならない、奇妙な関係。
違和感の中の、さらなる違和感に気づくジュリア。
しかし手がかりは未だに見えない。
次回.奇妙な隣人関係(Strange neighbor relationship)