弐話―①
「・・・・・・馬鹿」
伊織、と有巣は双子だった。
暴力的な伊織に対して、有巣は何を考えているか分からない、そんな二人だった。
髪の色以外はそっくりで、鎌の色はよく見れば伊織の方が若干白いような感じだった。どうも、死神の色についてのランク付けはその死神が持っている鎌の色らしい。そして、鎌は生まれた時体から取り出すのだと。大きければ大きいほど力があり、体に浮かぶタトゥーもまた力によって浮かび上がったものらしい。まず、このタトゥーと思っていた模様はどうもタトゥーではなく鎌を取り出すときに浮かび上がったものでそれが多ければ多いほど力が強いんだとか。
まあしかし、そんな生き物もいるんだなと僕は驚いた。
彼女らはとても人間によく似ている。
そうそう、死神は心臓はないんだとか。
心臓の代わりになるものが、鎌、らしい。
「ばーか、馬鹿」
「馬鹿とはなんだ、馬鹿」
「うるせーよ、馬と鹿の馬鹿」
さっきから、馬鹿馬鹿とうるさい。
どうしてこの喧嘩が始まったかは知らないが、電車を降りてからはずっとこの二人は馬鹿馬鹿と言い合っている。喧嘩、というよりただの姉妹のじゃれあいのように僕は見える。
黒と白のじゃれあい。
とても絵になる。
「有巣、ここに来るのはじめてなんだよね」
「ただのお嬢様なだけ、黒いお姫様」
「馬鹿、そんなこと言うなぁっ。私は、伊織が羨ましい。だからっ」
黒い短い髪が揺れる。
服は同じなのにやっぱりこの二人は別人だなと思った。さっきまでは黒髪の有巣が白髪の伊織に成り済ましていたというのに。やっぱり、髪なのか・・・・・・。
「さっきから、頭ばっか見て何やってる?」
伊織が赤い目で僕を見上げていた。有巣もまた伊織の後ろで僕を見上げている。
「・・・・・・別に、いや」
ふーん、と伊織が鼻を鳴らす。そして、再び二人だけの世界に戻って行った。
二人の背中に折りたたまれて鎌を入れてある黒い鞄が目に付く。それはとても不格好で何度かは目についていたが、二人の背中を見ていると目に付くのがそれだけだった。
はあ、と溜息をつきながら僕はあくびをした。
毎年、こんな春先は家で漫画でも読んでいるのが普通だ。苦痛だった補習も終わり、四月からは晴れての高二だ。特にやることもなくのんびりと過ごしたいというのに・・・・・・。そんな矢先に吸血鬼となってしまったんだから・・・・・・。
「白兄ぃの家はあそこか?」
伊織が指差した先には僕の家があった。
「ああ、そうだ」
玄関の前にはまだ、薄らとだが血痕が残っていた。
そして、家には人が居る様子はない。
当り前か、血文字が玄関にある家誰も住みたくない。
しかし、何か不自然だ。
警察が、いない。
というか、この場所に誰もいない、僕達以外。
「兄ちゃん、兄ちゃんだー」
聞きなれた声が聞こえた。そして、その声を発した少年が僕に駆け寄って来る。
少年、は僕の弟だ。
名前を白夜という。
「久しぶりだな、白夜」
「心配したよ、兄ちゃん。だって、急に姿消しちゃうんだもん」
無邪気な目が僕を見上げる。
「なあ、親父とかどうした?」
「お父さんなら、家の中にいるよ」
おかしい
「なあ、白兄ぃの弟よ」
ん、と白夜が伊織に顔を向ける。
「君は、大丈夫なのか?」
「・・・・・・大丈夫?オレは、普通だよ」
嘘をついている様子はない。
「白兄ぃ、血文字が消えている」
ああ、と僕は吐く。やっぱり、おかしい。
「兄ちゃん、立ち話はよくないから家の中で話そ」
小さな手が僕の手を掴む。しかし、僕はその手を振り払った。
「いや、いい。母ちゃん、呼んできてくれ」
疑問、が浮かんでいた。
「うん、分かった」
そう言って白夜は家の中に入って行った。
若干、年齢がかみ合わないような気がしてきた・・・・・・
今回から、弐話です。
原作の主人公、弟くんが登場しました。
とだけ書いて、
読んでくれたみなさん、ありがとうございました。