壱話―⑤
白玉白夜、それは僕の弟の名前だ。まだ、九歳で僕と六ぐらい離れている。歳の離れた兄弟だけれど、とても仲がよかった。
彼、白夜はオバケが大好きだった。というよりも、人間以外の生き物に興味を持っていた。もちろん、虫とか大好きだ。しかし、一番のお気に入りは存在しているのかどうか分からないオバケだった。オバケといっても、伝説に出てきそうな怪物みたいなものばかりだった。
そんな弟には友達が少なかった。
ただでさえ、家に閉じこもってオバケ図鑑とかを読んでいるものだから余計、友達ができなかったのかもしれない。幼稚園に通っていた時から、いつも本を読み一人でいることが多かったらしいし、口数も少なかった。
小学校に入ってもまた、友達は少なかったようだった。
しかし、オバケの本を読んでいる時の白夜はいつも嬉しそうだった。
ある日、僕は白夜を連れて遊園地のお化け屋敷に行ったことがあった。その時の弟の反応はとても可愛らしいものだったのを今でも覚えている。興奮して目を輝かせ、キャッキャッと騒いでいる様は目下に浮かび上がってくるほどだ。
「お兄さんの弟は、死神好き?」
「ああ、多分な」
「じゃあ、きっとその本気に入るね」
黒い表紙が目に留まる。まあ、たしかに喜ぶだろう。しかし、白夜は五歳の時に絵本から卒業していた。それでか、五歳ぐらいの時はすでに図鑑を読むぐらい識字率が高く、小学生高学年用の本くらいなら読めていた。頭も確かに良い。小学生の今も、弟はすでに僕が読む物と変わらないようなものを読んでいる。識字率は僕より上かも知れない。そんな弟だからこそ、絵本を馬鹿にしてしまうかもしれなかった。
それから、会話が続かないまま僕たち以外誰もいない電車はゆっくりとしたスピードで線路の上を走っていた。走る、という表現はあまり適切ではないように思えるぐらいゆっくりとだったが。
再び、会話が途切れたせいもあってか静かになる。
次の駅でもまた、誰も乗客はいなかった。
隣を急行が物凄いスピードで抜かしていった。その反動か、電車が揺れる。
昼間の温かい日差しが窓から降り注がれていた。
とすん、と僕の肩に硬いものがぶつかった。ぶつかったものを見てみると、それは伊織の白い、小さな頭だった。どうも寝ているらしい。かわいい寝顔が見える。しかし、赤いタトゥーはそんな少女の可愛らしさを台無しにしていた。本当に、今にも動き出しそうな・・・・・・と思えてきた。
鼻歌、が聞こえる。
ああ、自分だと気づく。
ここ最近、こんなに心境が安定したことがなかったからか自然と鼻歌が漏れていた。
この時がいつまでも続けばいいのに、と思った。柔らかい日差しにつつまれて少女と二人、体を寄せ合ってのんびりと普通列車の中で・・・・・・絵になりそうだ。
ふと、僕たちを誰かが見ているような気がした。
殺気に近いモノだった。
この電車の中には僕たちしかいない、はず・・・・・・なのに。
ふと、殺気を放っている所を見た。
そこには、伊織とそっくりな少女がつかまり棒につかまって僕たちを睨んでいた。赤い殺気の籠った目で・・・・・・。
「お前、誰?」
その、少女が始めに僕に発した言葉がこれだった。
少女、は伊織にそっくりだった。着ている服から姿形まで、すべて。ただ、血だらけという部分を除いて。
「んあ、いおり・・・・・・?」
先ほどまで、僕の肩に頭を乗せていた伊織が起き上った。そして、彼女とそっくりの少女を見る。そして、
「伊織!?何で昇ってきたのっ」
伊織がその少女に向かって、いおり、と呼んだ・・・・・・?
「んあー、暇になったから、有巣の行った先≪人間≫に聞いて教えてもらった。にしても、このあんちゃん誰よ?」
あんちゃん、それはどうも僕のようだ。というよりも、有巣って・・・・・・誰。
「伊織の新しい≪うさぎ≫」
「あー、えっと」
「吸血鬼、名前は白玉白」
「なんだか馬鹿みたいな名前だな」
勝手に僕の自己紹介が僕を前にして行われていた。そして、今の状況が飲み込めない僕の前に二人の白い少女が並び立った。
「私、有巣」
いきなり、何を言い出すかと思えば今まで僕が伊織と呼んでいた彼女が自分は有巣ですよと宣言した。
状況は読めない、というか、余計意味が分からなくなってきている。
「ボクが噂の伊織」
本当にこの二人は何なんだと脳がパニックを起こす。意味が分からない。状況が飲み込めない。
イミフメイ、リカイフノウ。
意味不明、理解不能。
この四字熟語が僕の頭の中で暴れだしてしまった。
「頭が状況についていっていない、だろ?」
自分は伊織だと宣言した後に現れた少女が僕に言い放つ。そして、ニシシと犬歯をむき出して笑った。
「まず、お前が伊織と思っていたボクの姉について説明しようか」
再び、伊織と名乗った方が僕に言う。彼女の隣で僕が先ほどまで伊織と思っていた有巣と名乗る少女がいた。しかし、先ほどとは印象が全然違った。
まず、髪が真っ黒かつ短かった。
変化はそれだけだった。しかし、髪の色だけで印象は変わるものだ。そして、有巣と名乗る少女は白く長い長髪を手に持っていた。どうも、カツラ、ズラのようだ。彼女は、白い髪のカツラをつけていたらしい。
「どうして、こんなことを?」
思わず、僕はその黒髪の少女に尋ねた。
「有巣、いや、私はただ、地上に出てみたかっただけだから。それだけ」
何某かの事情聴取のようだ。その言い訳みたいに僕は聞こえた。
「有巣は、ときどきよくわからないことやるから。聞いても意味ない」
そっと伊織が僕に耳打ちした。わずかに血のにおいが鼻にこびりつく。
はあ、と僕は有巣を見た。そして、伊織を見た。二人とも、顔はそっくりなのに纏っている雰囲気が全然違った。髪色のせい、とでも言い表わせるが、そのほかにも言える。まるで、腹黒い人間と清廉潔白なうさぎのような感じがした。
「で、有巣。今、どこに行く途中だったんだ。ずっとこのノロ電車に乗っているとか言うわけでもないだろ?」
まあね、と有巣は言いながら僕の隣のさっき座っていたところに再び座った。
「先は、長いから。伊織も座った」
ぽんぽん、と有巣は席を叩く。このやり取りを見ているとまるで、姉妹だった。
何か変なことになってきた気が・・・・・・。
すいません、分かりづらくて。
伊織と思っていたのが、有巣という本物の伊織の双子の姉という・・・・・・。
本編でも、今、この告白を書いている途中です。
本当にここはややこしい。
書いている自分ですら分かりにくいですから・・・・・・。
ばんばん、注意してください。心して受けます。
最後に、読んでくれたみなさんありがとうございます。