壱話―②
「死神・・・・・・?」
はい、と頷きながら伊織と名乗った少女は答えた。
「白い下級の死神です」
そして、大きな赤い目が何かを求めているように僕を見上げていた。
「何か?」
思わず、僕は少女、伊織に尋ねる。伊織はまじまじと僕を見ていた。そして、桜色の唇を動かした。
「お兄さん、私の≪うさぎ≫にならない?」
「≪うさぎ≫?」
えっと、と伊織は呟きながら手に持っていた鎌を背中にある黒いケースに仕舞い込んだ。どうも、鎌は折りたたみ式みたいだ。
「私のボディーガードみたいなものです。うん、ペア、パートナーみたいな感じの・・・・・・」
伊織の細くて小さい人差し指が桜色の唇にあたる。細い眉と眉の間には皺ができ、何某かを考えているようだった。もしかしたら、この少女はもう少し歳が大きいのではないかと疑われるほどに。
「お兄さんの居場所、与えてあげるから」
居場所、かと声に出す。たしかに、今の僕には帰る場所はない。自殺するためにここに来た。生活に必要なものはすべて置いてきてしまった。しかし、今となっては自殺はしようとする気にはなれない。どちらかというと、生きたい。人間ではなくなってしまった僕にはたしかに、居場所はない。唯一の居場所となる家には自分から入れないようにしてしまった。
「でも、一つ条件がある」
赤い目が意地悪っぽく光った。
「お兄さんの家に行こう。最後の最後のお別れを言いに」
「僕は、戻る気はない」
「弟さんの誕生日なんでしょ、もうすぐ」
ああ、と頷きそうになって動きが止まる。ナンデシッテイル?
「知ってるよ、だって死神だもん」
「関係ないだろ」
まあね、と伊織は呟いた。
春にしては冷たい風が体に吹き付けてきた。
「その、弟さんのプレゼント」
いつのまにか、伊織の両手には黒表紙の手作り絵本があった。題名は書かれていない、絵本。
「絵本か。あいつ、もう読まねーよ」
「気に入るよ、絶対」
強引に差し出される絵本を僕は受け取った。中身を見ると、美しい、しかし、醜い絵が描かれていた。鎌を持ち戦う姿が多く、中には伊織のような白い死神などが描かれていた。
「じゃあ、貰っとくよ」
「そろそろ、だね」
赤い目が再び僕を見上げた。ああ、そうだなと呟く。
この駅は電車が止まる時刻になっても人が現れる様子はない。
ここには僕と伊織しかいない。
それは、このモノガタリの出発点でもあり、分岐点でもある。
この出会いは、もしかしたら本物ではなかったかもしれない。
それは、後にならないと分からない。
――少女、伊織は何者か?
本当に、少女は伊織なのか?
それは、この時点では分からない。
だって、
伊織はまだ、一人しか出てきていないんだから。
さて、変な終わり方をしてしまいました。
しかし、壱話はこれで完結ではありません。壱話だけでもまだまだ続きます。
本当に、伊織は五歳なのかという疑問が自分にもあります。まあ、死神だから許されると思っていただいて結構です。
最後に、長くなりましたが読んでくれた人、ありがとうございました。
毎日投稿が目標ですっ!