弐話―②
「兄ちゃん、呼んできたよ」
多分、だいぶ待ったと思う。僕がそう感じただけかもしれないが、だいぶ待った。
伊織と有巣は勝手に遊んでいてくれたのであまり心配はなかったが、僕がこの家を出てからだいぶ変わった、と思った。景色じゃない、雰囲気が、だ。この場所を纏っている空気が違ったと表現するべきか。しかし、弟白夜は前と同じで何も変わらなかった。
こうして、僕は白夜が家の中から連れてきて〝母〟と呼んだ人物を見た。しかし、それは僕が知っている母ではなかった。まず、人間ではなかった。
「《ナニカ》だな」
振り向くと伊織が鎌を構えて僕を、いや、僕の前にいるなにかを睨んでいた。赤い目がまるで猛獣みたいだ。猛獣がエサを狩るときのような目。
しかし、僕の母ではないなにかはぼうっと僕を濁った目で見ているだけだった。
「おい、白夜。コイツ、母ちゃんじゃねーだろ」
そのなにかと平然と手を繋いでいる弟に僕は尋ねる。もしかしたら、弟はこの現状に気づいていない、またはグルかもしれないからだ。しかし、弟はいつも通りの無邪気な目で僕を見上げ、お母さんだよ、と言った。僕はその無邪気な目が怖かった。ここまで純粋に答えられると自分が間違っているみたいで、とても、とても怖かった。しかし僕の目の前にいるのは人間ではなく、顔がカエルに似ている二メートルはありそうなバケモノだった。
「白兄ぃ、このチビをどかしてくれないか」
戦う気満々の伊織を背に僕は溜息をつく。たしかに、僕には戦う術はない。ただ、血を欲してしまう人間なんだから。
「チビじゃねーよ、かわいい弟だ」
僕はそう言って弟の腕を掴んだ。そして・・・・・・と行きたかったが、白夜は動かなかった。
「兄ちゃん、痛いよ」
そう言った弟をたしなめようと白夜を説得しようとした時、そのカエルのバケモノが大きな口を開いた。そして、野太い声で言葉を発する。
「白君、どうして怖がるの。お母さんだよ?」
声も姿も違うのに、口調は母、そっくりだった。
ただ、姿がカエルのせいで僕の意識は絶賛警戒中だ。
「貴様、《ナニカ》じゃないのか?」
伊織がカエルを見上げて言う。
「左様、私どもは任務中です。この姿ではお見苦しいでしょう・・・・・・」
そう言いながらカエルはだんだんと姿を人間の女性に戻していった。そして、目の前には僕の、母がいた。
「母ちゃん、そうして?」
それは・・・・・・とカエルから母になった彼女は口ごもる。
「ここ、吸血鬼の保護施設だよ・・・・・・伊織」
ずっと伊織の後ろに隠れていた有巣がひょこっと顔を覗かせて呟く。そして、彼女が指差した先にはコウモリの羽のようなマークが描かれていた。
「死神が数年前に作ったとされている伝説のパートナー育成所の吸血鬼バージョンだよ」
「・・・・・・はい」
彼女がそう言ったとたん、家の周りが映画に出てきそうな城へと変化した。
「支配人、了承すれば入口開く、か」
有巣が面白そうに吐く。
「どうぞ」
そして、僕たちはこの城に足を踏み入れた。
弟の白夜は、というものの、彼は僕の背中でいつの間にか寝息を立てて寝ていた。伊織はそんな白夜の様子を愛でるように眺めていた。
世界がグレードアップしてしまいました・・・・・・どーしよ
原稿はすでに有巣が狂ってしまいましたが、ここではまだ狂いません。というか、この話では狂わせるつもりはありませんが・・・・・・
さて、読んでくれたみなさんありがとうございます。
おかしいな、とか思った所はじゃんじゃん文句つけてください。徐々に訂正していきます。表現が分かりにくいなどでも・・・・・・