革命の嵐 その一
ジンはラファエルを部屋の居間にあるイスへ座らせ、ラファエルの目の前にパズルをもってきて、じっと見つめろ、と命じた。
「それだけでいいのか?」
ラファエルは片方の眉だけ動かす。
「無論だ。ではいくぞ」
ジンはラテン語のような呪文をぶつぶつ唱え、そうすることによって、ラファエルはだんだん意識を失っていった。
意識を遠ざけることで、ジンはラファエルの記憶を前世まで戻すことができる。
ラファエルが戻った時間は、十八世紀のパリにすむマリユスの時代だった。
マリユス=テオドール。
それが、少し前のラファエルだった。
マリユスは、モンマルトルの絵描き。
パリ大学に通いながら、絵筆をさばく。
地元ではちょっとした有名人で、若いのに達者、女性を描かせたら一流と言われるほどであった。
マリユスの崇拝していた人物は、ルソーだったが、そのルソーも国を追われ、逃亡生活を強いられていると聞いたマリユスは胸を痛めていた。
――なんとか、ルソー先生を助けたい・・・・・・。
願い、かのものの無事を案じることでマリユスは日々送りつつあった。
町ではパリ市民が反乱を起こし、ルイ十六世はじめとする王党派をぶちのめそうと、ラ=ファイエット候、ミラボー伯などと一緒になって革命の嵐が巻き起こっていた。
マリユスもばらまかれるパンフレットを目にし、刺激を受けた。
シエイエスらがばらまいて回る、『革命とは何か』の広告は、アンシャンレジームと言われた当時の不公平な階級制度に不満を持つものの、爆発した怒りが原動力でもあった。
(ちなみに、反革命派だったロベス=ピエールは、最初こそもてはやされたが、のち、サン=ジュストとともに処刑されてしまう)。
ラ=ファイエットは騎士道精神旺盛で、新大陸の英雄、などと言われた男である。
アメリカの独立に力を注いだ結果であった。
くわえて、ミラボー伯爵は本能丸出しであり、国王に銃剣を突きつけて脅迫したことで有名。
これで国民の心に火がつかないはずなど、ありえなかった。
マリユスは、親のつけてくれた名前にちなんで、戦神マルスのお守りを彫った。
マリユスの語源は戦神のマルス。
だから――マリユスは木彫りのお守りを彫り、大事そうに懐へ入れた。
「マルスよ、どうか、お慈悲を!」
※シエイエス、ラ=ファイエット(シエイエスともにフイヤン派)、
ミラボー、ロベスピエール、(山岳派)サンジュスト(山岳派)・・
フランス革命の華と言われる代表的な人たち。
ところで、簡単に説明すると、ラ=ファイエットは制限君主制というのを提案し、実行に移した。
(制限君主もしくは立憲君主制度は、対義語が絶対王政)
絶対王政はルイ十四世時代にリシュリューらが唱えていた制度のこと(だったように想う)。
まあ、
「朕は国家」
で、プロイセンのフリードリヒ大王は
「朕は国家のシモベ」
といった、ってことくらいを知っていたら、ある程度いいと思う。
この時代は複雑だし、資料が少ないため、あまりわからなかったせいもあって、理解度が低い可能性アリです;
間違ってたらご容赦^^;
アンシャンレジーム・・
宗教職(聖職者)の階級が王族より上といったいい加減な法律。
給料も貴族の倍は出すと言った、法外な職務であり、職務怠慢も生じた。
農民は家畜以下の扱いをされていたために、怒りをこらえきれず、民衆は王党派に抗議したのである。
いよいよ始まった革命までの秒読み。
マリユスは革命の嵐に巻き込まれていきます。
ユゴーのマリユスとは別人ですが、生きた時代はほぼ同じでした(汗。