飢え過ぎ謙信
深夜のコンビニに現れたのは、凄まじい執念を燃やす戦国武将の怨霊——ではなく、ただ腹を減らした**「飢え過ぎ謙信」**!?
幽霊ゆえに実食が叶わない謙信と、巻き込まれたバイト高校生・健太。ホットスナックの香りと空腹が織りなす、ドタバタ深夜コメディが開幕!
越後流の天下無双の武将・上杉謙信——ではなく、「飢え過ぎ謙信」は、空腹の限界を迎えるたびに現世へ幽霊として化けて出る、凄まじい執念の怨霊である。
「怨〜め〜し〜や〜……」
丑三つ刻。深夜のコンビニ「セブン・イレブン」の自動ドアが静かに開いた。
バイトの高校生・健太が顔を上げると、そこには頭に白い三角巾をつけ、ぼろぼろの甲冑を纏った幽霊が立っていた。しかしその顔は恐ろしいというより、極限までやつれ果てている。
「な、なんですか……!?」
「我は……飢え過ぎ謙信……。毘沙門天の化身にして、空腹の亡者……」
謙信はフラフラとレジに近づくと、ドスの効いた声で呟いた。
「……からあげクンを……いや、ここはセブン……ななチキを差し出せ……!」
「怨念の理由がただの腹ペコ!?」
思わず突っ込んだ健太だったが、謙信の足元を見ると、なんと浮いている。本物の幽霊だ。
「成仏したくば……あのジューシーな肉の油脂を……我の胃袋(※霊体)に……!」
「いや、幽霊ってご飯食べられるんですか?」
「食えぬ! だからこそ……『におい』を嗅ぐのだ!!」
謙信はそう叫ぶと、ホットスナックのケースに顔を限界まで近づけ、ハアハアと荒い息を吐きながらにおいを吸引し始めた。
「うむ……! このスパイスの香り……まさに川中島の戦いにおける武田軍の奇襲のごとき衝撃……! ぐぬぬ、白飯が欲しい……! 塩だ、塩を吸わせろ……!」
「『敵に塩を送る』みたいに言わないでください!」
謙信はレジ横のおにぎりコーナーに移動し、今度は「塩むすび」の袋の上から猛烈ににおいを嗅ぎまくる。その姿は、幽霊としての威厳など微塵もない。
「はぁ……はぁ……においだけでは……満たされぬ……! 健太よ、我の代わりにそれを喰らい、味を実況せよ! 脳内再生で成仏してやる!」
「えぇ……」
健太は仕方がなく、自腹で『ななチキ』と『塩むすび』を購入し、謙信の目の前で一口食べた。
「……衣がサクサクで、肉汁がじゅわっと出てきます。塩むすびはお米が立ってて最高です」
「ぬおおおおおッ!! 素晴らしい! 素晴らしいぞ健太ぁぁぁ!!」
謙信は涙を流しながら叫び、そのまま光となって昇天し始めた。
「かたじけない……! 満足した……我はついに……成仏……」
「よかった、成仏してくれたか……」
安堵した健太が胸をなでおろした、その1分後。
再び自動ドアが開き、光の粒子が集まって謙信が再降臨した。
「……あ、やっぱり無理だったわ。食ってないからお腹は減ったままだわ」
「消化器官がないからエンドレスじゃねえか!!」
こうして、コンビニの深夜シフトには「ななチキの食レポ」という奇妙な業務が一つ増えることとなったのだった。
【了】
最後までお読みいただきありがとうございます!
「上杉謙信=塩」という安直な発想から生まれた、深夜のバカバカしいショートコメディでした。お腹を空かせた夜のお供にクスッと楽しんでいただけたなら幸いです。
もし気に入っていただけたら、評価やブクマで健太に「ななチキ」を奢ってあげてください!




