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呪われたけど、生きています。~勇者として召喚されたけど、扱いは終わってました~  作者: 八倍数 梅雨
一章:勇者とか、やりたくない

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4話:再会

「あっ! 七瀬! よかったぁぁぁぁぁ!」


 ノックしたフライヤさんに続いて部屋に入ると、私の姿を確認するなり大良が飛び込んできた。私と同じ薄青のワンピース。そのまま胸に顔をうずめて、抱き着いてくる。


「大良、無事でよかったよ、ほんとに」

「そっちこそだよ。ほんとごめんね、墓参り行こうなんて言い出しちゃったのは私だし……」


 瞳を潤ませながら、彼女は謝ってくる。おおよそ、私が誘ったせいで事故に遭わせた、なんて思っているのだろう。

 変なところで申し訳なさを感じているらしい。私だって大羽さんの墓参りに行きたかったのだから、気にしないでいいのに。


 「気にしてないって。しょうがないよ。事故だし、ある種運命みたいなもんだって」

 「七瀬はそう言ってくれるだろうけどさぁ、でも……ってあれ?」


 潤んだ瞳で、ふと気がついたかのようにこちらの顔を見つめてくる。急にどうしたのだろう。

 というか、私も気になっていることがあった。


「七瀬、顔になんか模様ついてるよ」

「大良もだけど」

「え、嘘!?」


 ぺたぺたと自分の顔を触りだす大良。わたわたした動作がかわいらしい。


 左の頬。数字のゼロ、みたいな模様の中に、コロン()のようなマークが入っている。落書き、とかそういうのではないのだろう。袖をもって、大良の頬を拭いてみるけど、全然取れない。


「ゼロ、みたいな模様が左の頬にある」

「あ、七瀬のも同じ模様かも」


 私にも同じ模様が刻まれているらしい。この部屋に鏡はないようなので確認はできない。


 けれど、赤く、皮膚に沈着したようなその模様は、いったいどういうことなのだろうか。


「説明が遅れて申し訳ありません。お二人にまとめてご説明しようと思っておりまして。それは、勇者の刻印でございます」


 すると、そばで控えていたフライヤさんが、口を開いた。

 曰く、転移したときに人神マキナが勇者の証として、この印を転移者に刻むらしい。この刻印が加護となり、力となり、勇者を強くするのだとか。

 全然意識してなかったけど、異世界なのに言葉が通じて話せるのも、そのおかげだとか。


 そう言われたら、そうなのかと私は受け入れるしかできない。そういうものなのかと無理やり納得させる。けど、顔に印が残るっていうのはちょっといやだった。


「えぇ~~ほっぺなのいやだなぁ。七瀬の綺麗な顔が台無しじゃんね」

「大良だっていやでしょ」

「うーん、でもほら、なんかかっこよくない? 我の力、ここに顕現(けんげん)せよ!! なんて」

「おーい、ふざけない」

「いてっ」


 なんだか魔王みたいに手を掲げてポーズを取る大良。ぺしっと彼女の頭を叩く。あまりに呑気すぎる。

 でもそういう私も、だいぶ気持ち的には落ち着いている。こんな状況でも大良がいてくれるっていうのが大きい。

 異常な状況なのだけれど、彼女がいるから安心できる。


「では、お二人が目覚めましたこと、報告してまいりますので私は一度失礼いたします。また戻りますので、それまでこの部屋はご自由にお使いください」


 私たちが一通り再会を喜びあったあと、フライヤさんはそう言って部屋を出ていった。


 自由にと言われたので、残された私たちは、部屋にあった丸机のサイドに置かれた椅子に腰かける。大良はくうっと伸びをして、ふうと息をついた。


「大良、体は大丈夫? 痛くない?」

「んー? 大丈夫だよ。全然ばっちし! あんなに血ぃ出しちゃったのにね」


 事故のことを振り返るように、大良は言う。彼女も意識はあったらしい。あれだけ血を流していて、命が消えるような、そんな心細さを私はあの時つないだ右手から感じていて。

 けれど、結局こうして助かった。ちょっとおかしな形だけど、一命をとりとめることができた。


「でも、もうお姉ちゃんの墓参り、いけないね。父さんにも母さんにも、会えなくなっちゃった」

「……そう、だね」


 私の家庭は、家族仲があまりいいほうではない。だからそんなに悲しいとも思えない。逆に、大良の家庭はとても順風満帆で、彼女は姉の大羽さんはもちろん、両親とも仲良く暮らしていた。大好きな人と離れ離れになってしまった現状がつらいのだろう。その気持ちは、彼女の寂しそうな表情からぐっと伝わってくる。


「元の世界に、帰れるといいね。てか、私も帰りたい。友達に会いたいし、大羽さんの墓参りも今回限りなのはね」

「そうだよね、あとでフライヤさんに戻れるか聞いてみようよ! というか、勝手に呼んどいて勇者ってなんなのって話だし!!」

「はは、それなー」


 そんな愚痴とか、内容のない話をしながら、時間は過ぎていく。


「さっき見たけど……改めてやっぱすごいね……ほんとにゲームみたい」


 開けた窓から町の様子を眺める。大きく広がる人々の居住地。石壁の向こうには緑の地平線と山々が広がっている。ほんとうに、ゲームみたいだ。

 でも、この世界に住む人なりの営みがきっとあって、私たちは勇者として、世界を救わなければならないらしい。紛れもない現実だけど、やっぱり、ゲームみたいだ。


 だからといって、私たちにそんな重圧が背負えるのだろうか。背負う義理も正直ない、というのは分かっているのだけど。


「七瀬、顔こわばってるよ」


 表情に出ていたらしい。大良が心配そうに私をみている。


「勇者なんてテキトーにやって、冒険しちゃう?」


 と思ったら、にひひ、といたずらっぽい笑みを浮かべて、そんなことを言ってきた。彼女は奔放で、呑気だけど、でも前向きに励ましてくれる。

 窓から風が入ってきた。大良のポニーテールが揺らめく。


「うわっぷ! 髪の毛口に入ったよもー」

「……そうだね、帰れませんってなったらテキトーに冒険しちゃおっか」

「そうそう! さっき運命って七瀬が言ってくれたみたいに、気楽に気楽に! あでも、冒険するなら戦闘とか学ばないとかな。あ、体も鍛えないと!!」


 てんやわんやと、大良は先の物事を考え始めた様子だ。そのハイテンションの楽しそうな姿に、私も勇気づけられる。


「じゃあ七瀬、異世界の旅、れっつごーってことで、ほら」


 大良は左手をわきわきさせながら前に出す。これはあれだ、私たちのルーティン? そんな感じの行動をしようという意思表示だ。

 私は右手を大良の左手に持っていく。そして指を一本一本絡ませて、ぎゅっと握りしめた。彼女もぎゅっと握りしめ返してくれる。


「不安だけど、七瀬となら大丈夫だよ」

「私も、大良となら大丈夫」


 優しく、彼女を見つめる。大良の優しい言葉が、安心できる。


 正面に向き直り、でも手を握りしめたまま、腕を上に伸ばしていく。伸ばし切ったところで、大良が声をあげた。


「よーし、七瀬と大良の異世界冒険譚!! れっつごー!」


 腕を思い切り下げながら、お互い指を離す。不安はあるけど、大良とならなんとかやっていける気がした。

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