4話:再会
「あっ! 七瀬! よかったぁぁぁぁぁ!」
ノックしたフライヤさんに続いて部屋に入ると、私の姿を確認するなり大良が飛び込んできた。私と同じ薄青のワンピース。そのまま胸に顔をうずめて、抱き着いてくる。
「大良、無事でよかったよ、ほんとに」
「そっちこそだよ。ほんとごめんね、墓参り行こうなんて言い出しちゃったのは私だし……」
瞳を潤ませながら、彼女は謝ってくる。おおよそ、私が誘ったせいで事故に遭わせた、なんて思っているのだろう。
変なところで申し訳なさを感じているらしい。私だって大羽さんの墓参りに行きたかったのだから、気にしないでいいのに。
「気にしてないって。しょうがないよ。事故だし、ある種運命みたいなもんだって」
「七瀬はそう言ってくれるだろうけどさぁ、でも……ってあれ?」
潤んだ瞳で、ふと気がついたかのようにこちらの顔を見つめてくる。急にどうしたのだろう。
というか、私も気になっていることがあった。
「七瀬、顔になんか模様ついてるよ」
「大良もだけど」
「え、嘘!?」
ぺたぺたと自分の顔を触りだす大良。わたわたした動作がかわいらしい。
左の頬。数字のゼロ、みたいな模様の中に、コロンのようなマークが入っている。落書き、とかそういうのではないのだろう。袖をもって、大良の頬を拭いてみるけど、全然取れない。
「ゼロ、みたいな模様が左の頬にある」
「あ、七瀬のも同じ模様かも」
私にも同じ模様が刻まれているらしい。この部屋に鏡はないようなので確認はできない。
けれど、赤く、皮膚に沈着したようなその模様は、いったいどういうことなのだろうか。
「説明が遅れて申し訳ありません。お二人にまとめてご説明しようと思っておりまして。それは、勇者の刻印でございます」
すると、そばで控えていたフライヤさんが、口を開いた。
曰く、転移したときに人神マキナが勇者の証として、この印を転移者に刻むらしい。この刻印が加護となり、力となり、勇者を強くするのだとか。
全然意識してなかったけど、異世界なのに言葉が通じて話せるのも、そのおかげだとか。
そう言われたら、そうなのかと私は受け入れるしかできない。そういうものなのかと無理やり納得させる。けど、顔に印が残るっていうのはちょっといやだった。
「えぇ~~ほっぺなのいやだなぁ。七瀬の綺麗な顔が台無しじゃんね」
「大良だっていやでしょ」
「うーん、でもほら、なんかかっこよくない? 我の力、ここに顕現せよ!! なんて」
「おーい、ふざけない」
「いてっ」
なんだか魔王みたいに手を掲げてポーズを取る大良。ぺしっと彼女の頭を叩く。あまりに呑気すぎる。
でもそういう私も、だいぶ気持ち的には落ち着いている。こんな状況でも大良がいてくれるっていうのが大きい。
異常な状況なのだけれど、彼女がいるから安心できる。
「では、お二人が目覚めましたこと、報告してまいりますので私は一度失礼いたします。また戻りますので、それまでこの部屋はご自由にお使いください」
私たちが一通り再会を喜びあったあと、フライヤさんはそう言って部屋を出ていった。
自由にと言われたので、残された私たちは、部屋にあった丸机のサイドに置かれた椅子に腰かける。大良はくうっと伸びをして、ふうと息をついた。
「大良、体は大丈夫? 痛くない?」
「んー? 大丈夫だよ。全然ばっちし! あんなに血ぃ出しちゃったのにね」
事故のことを振り返るように、大良は言う。彼女も意識はあったらしい。あれだけ血を流していて、命が消えるような、そんな心細さを私はあの時つないだ右手から感じていて。
けれど、結局こうして助かった。ちょっとおかしな形だけど、一命をとりとめることができた。
「でも、もうお姉ちゃんの墓参り、いけないね。父さんにも母さんにも、会えなくなっちゃった」
「……そう、だね」
私の家庭は、家族仲があまりいいほうではない。だからそんなに悲しいとも思えない。逆に、大良の家庭はとても順風満帆で、彼女は姉の大羽さんはもちろん、両親とも仲良く暮らしていた。大好きな人と離れ離れになってしまった現状がつらいのだろう。その気持ちは、彼女の寂しそうな表情からぐっと伝わってくる。
「元の世界に、帰れるといいね。てか、私も帰りたい。友達に会いたいし、大羽さんの墓参りも今回限りなのはね」
「そうだよね、あとでフライヤさんに戻れるか聞いてみようよ! というか、勝手に呼んどいて勇者ってなんなのって話だし!!」
「はは、それなー」
そんな愚痴とか、内容のない話をしながら、時間は過ぎていく。
「さっき見たけど……改めてやっぱすごいね……ほんとにゲームみたい」
開けた窓から町の様子を眺める。大きく広がる人々の居住地。石壁の向こうには緑の地平線と山々が広がっている。ほんとうに、ゲームみたいだ。
でも、この世界に住む人なりの営みがきっとあって、私たちは勇者として、世界を救わなければならないらしい。紛れもない現実だけど、やっぱり、ゲームみたいだ。
だからといって、私たちにそんな重圧が背負えるのだろうか。背負う義理も正直ない、というのは分かっているのだけど。
「七瀬、顔こわばってるよ」
表情に出ていたらしい。大良が心配そうに私をみている。
「勇者なんてテキトーにやって、冒険しちゃう?」
と思ったら、にひひ、といたずらっぽい笑みを浮かべて、そんなことを言ってきた。彼女は奔放で、呑気だけど、でも前向きに励ましてくれる。
窓から風が入ってきた。大良のポニーテールが揺らめく。
「うわっぷ! 髪の毛口に入ったよもー」
「……そうだね、帰れませんってなったらテキトーに冒険しちゃおっか」
「そうそう! さっき運命って七瀬が言ってくれたみたいに、気楽に気楽に! あでも、冒険するなら戦闘とか学ばないとかな。あ、体も鍛えないと!!」
てんやわんやと、大良は先の物事を考え始めた様子だ。そのハイテンションの楽しそうな姿に、私も勇気づけられる。
「じゃあ七瀬、異世界の旅、れっつごーってことで、ほら」
大良は左手をわきわきさせながら前に出す。これはあれだ、私たちのルーティン? そんな感じの行動をしようという意思表示だ。
私は右手を大良の左手に持っていく。そして指を一本一本絡ませて、ぎゅっと握りしめた。彼女もぎゅっと握りしめ返してくれる。
「不安だけど、七瀬となら大丈夫だよ」
「私も、大良となら大丈夫」
優しく、彼女を見つめる。大良の優しい言葉が、安心できる。
正面に向き直り、でも手を握りしめたまま、腕を上に伸ばしていく。伸ばし切ったところで、大良が声をあげた。
「よーし、七瀬と大良の異世界冒険譚!! れっつごー!」
腕を思い切り下げながら、お互い指を離す。不安はあるけど、大良とならなんとかやっていける気がした。




