2話:どこ、ここ
温かい――。
体中が、ほのかな温もりに包まれているような、安心感。ふわふわとした感覚が、体の芯を和ませていく。
叶うならば、ずっとこのままでいたいとも思ってしまうくらいの。
あれ、そういえば私はどうしてたんだっけ。墓参りに行って、それから――。
「んぅ……」
目を開くと、眩い光が舞い込んできた。思わず顔をしかめ、しかし次第に慣れてきたので、今度こそしっかり目を開く。
視界に映ったのは、知らない天井だった。白を基調とし、格子状に区切られた天井。区切りの四隅の部分には、金色の模様が入っている。なんというか、洒落た模様で壮麗さすら感じさせる見た目だった。
ほんとうに、知らない天井だった。
上体を起こし、周りを見る。青メインの、黄色の幾何学模様のラインが入った壁。木質の、重厚さを感じさせる棚や引き出し。私が寝ていた、肌触りの良すぎるベッド。
「どこ、ここ……」
思わずつぶやく。こんな綺麗で重々しい部屋は、私の記憶の中にはない。せいぜい、テレビで映った大富豪の寝室くらいしか思い当たらない。
一体これは、と考える前に、さきほどまでの記憶が蘇ってくる。
墓参りに行った記憶、帰りのバスに乗った記憶、そして――。
そのバスが事故にあって、倒れていた記憶。感覚まで思い出した私は、あの寒さを思い出してぞわっとした。
「病院、かな……?」
つまり、意識を手放して、そして目覚めたらここ。どうやら一命を取り留めたらしく、病院で治療を受けたのだと思った。
でもそのわりには、違和感がある。
病院と聞いたら、ベッドも、壁も、天井も。全部真っ白くて綺麗だけど、殺風景な場所のイメージだ。
しかしここは、病院というにはあまりに豪華すぎるし、綺麗すぎる。というか綺麗のベクトルが違う感じだ。
カーテンから日差しが覗いている。そのカーテンもここの雰囲気に合わせて、おしゃれな模様をしていた。幸い、私は注射管も通してないし、体調もちょっとだるいだけで比較的良好に感じる。
たぶんだけど、大きな怪我を負っていたはずだ。だからそれもまた違和感を覚えたが、外の様子でも見れば何か分かるだろうと思い、ベッドから降り立とうとした。
布団をめくって、自分の身に着けている服が普段の私服じゃあないことに気がつく。フリルが装飾としてふんだんについた、薄青のワンピースを着ていた。着心地はよいが、私はこんな服は持っていない。
患者に着せる服とは思えないデザインだ。私の好みでもないし。
とにかく、ベッドから出る。薄紫のやわらかい生地に見えるスリッパがそばにあったので、それを履いて地面に降り立つ。
窓まで近づいて、カーテンをゆっくりと開けた。
「眩し……って、え……?」
燦燦とした日差しが空から降り注ぐ。しかし、それよりも。
私は目に広がる光景に、言葉を失った。
ここより下に広がる景色に街があった。
真ん中に広がる大きな通りに、周りに密集する、二階か、三階建てほどの木組みの家。その家がずらあっと遠くまで広がっており、そしてその周りを石だろうか、やや高い壁が囲んでいるように見える。
明らかに、日本の雰囲気じゃあない。海外の街並みだろうか、いや、それよりも。
そう、これはあれだ。ファンタジーのアニメとか、ゲームで見たことがある。そういう雰囲気に、とてつもなく近かった。
違和感が、確固たるものになっていく。
なんなんだ、これは――。
頭に一瞬浮かんだのは、大良と見たアニメの内容。事故にあった人が、異世界で転生し、生活していく物語。
「いやいやいや、あるわけないでしょ……」
馬鹿げた考えをすぐ否定する。いくらなんでもそんなこと、あるわけがない。よしんばあったとしても、なぜ私がって今度は思ってしまう。
そう、夢を見ているんだ。たぶんまだ寝てて、起きたら病室で。でも、この感覚は夢とは思えない。
コン、コン、コン――。
「失礼いたします」
ノックの音。振り返ると、扉が開くところだった。
「あら、お目覚めでしたか、勇者様。改めて失礼いたします」
長袖のエプロンドレス。それを着た女性が、丁寧な所作でこちらへ頭を下げる。そしてこれまた丁寧な動きで扉を閉じた。
茶髪で、瞳が青い。コンタクトレンズをしているようには見えない。というか、今、彼女はなんといったのか。
「あの、ここって、病院、ですよね……?」
混乱していた私は、彼女に問いかける。少し間をおいて、しかし彼女は流暢に説明を始めた。
「混乱されているでしょうが、しっかりとご説明をさせてください。まずはじめに、ここは病院ではありません。王城の一室となっております」
思考が固まる。何を言っている?
「そして貴方様は、異世界から呼ばれた転移者。勇者として、この地に呼び出されたのです」
「……は?」
説明されたところで、落ち着けるわけがなかった。




