第七章 曹華伝三十三 戦いの幕間
砦をめぐる戦いは、蒼龍国軍の総力をもって終局を迎えた。
天鳳将軍が指揮する本隊は正面からの圧力を緩めることなく突き進み、麗月将軍の別働隊は背後から砦を急襲する。挟撃の形が完成したとき、金城国の兵はもはや持ち堪える術を失った。砦の門は破られ、城壁に翻る金城の旗は、次々と炎に呑まれていった。
曹華は槍を振るい、配下の兵たちを率いて最後の抵抗を排した。血の匂いと鉄の響きの中で、勝利の歓声が上がる。
「砦は我らがものだ!蒼龍国軍、勝鬨を上げよ!」
その叫びは全軍に伝播し、砦はついに制圧された。
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砦の中庭。戦の煤と血で荒れ果てた石畳の上に、天鳳将軍と麗月将軍が並び立った。
互いに甲冑に傷を負いながらも、その眼光は鋭く冴えている。
「見事な働きだな、麗月将軍。」
天鳳の声は淡々としていたが、その奥に確かな評価が滲んでいた。
「こちらこそ。背後を任された以上、失敗は許されなかった。」
麗月も涼やかに応じる。その言葉に誇張はなく、ただ冷徹な戦果の確認にすぎなかった。
互いに深追いはしない。ただ健闘を称え合い、将としての矜持を示すのみだった。だが周囲の兵士たちにとって、その一言一言は大きな励みとなった。
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砦を制圧した蒼龍国軍は、ただ勝利に酔うことはしなかった。
すぐに兵たちに休養を与えつつ、砦内の再整備が始まった。倒れた敵兵の遺体を処理し、食糧庫や兵器庫を確認する。井戸には毒が盛られていないか、厳重な検分も行われる。
天鳳は参謀を呼び寄せ、蒼龍国内に残る砦との兵站線を確保するよう命じた。兵糧と武具の補給なくして、長期戦は成り立たないからだ。
麗月もまた自らの親衛隊に指示を飛ばし、碧蘭と白玲は砦の周囲の見張りと防衛線の再編を担った。
曹華は部下たちを連れて砦の門周辺を巡回していた。戦いの余韻はまだ色濃く残り、血の匂いが風に混じっている。だが、部下たちの顔には確かな誇りと昂揚があった。
「曹華副隊長がいてくださったから、俺たちは踏ん張れた!」
「副隊長、次も一緒に戦わせてください!」
兵たちの声に、曹華はただ静かに頷いた。嬉しさと同時に、責務の重さが肩にのしかかる。
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砦は制圧された。しかしこれは、始まりにすぎない。
金城国の本軍はまだ健在であり、この砦は戦局全体から見れば一つの通過点にすぎなかった。
天鳳と麗月は砦の楼上に並び、遠くに霞む山並みを見据える。
「ここからが本当の戦いだ。」
天鳳の低い声に、麗月は薄く笑んだ。
「望むところだわ。」
夏の空は高く、戦の火蓋がさらに広がっていくことを告げていた。




