第二十四章拾弐 砕けぬ拳、現れる牙
玄鉄の拳が碧蘭の胸を打ち抜いた。
衝撃。
空気が爆ぜる。
碧蘭の身体が弾き飛び、地に叩きつけられた。
「……っ」
口から血が溢れる。
指から力が抜ける。
握っていた槍が、音を立てて地面へ滑り落ちた。
玄鉄はその姿を見下ろす。
しばし沈黙。
やがて右手を胸の前に掲げ、静かに拝む。
「……見事な一撃だった」
敵への礼であり、戦士への礼だった。
白玲はその光景を見ていた。
碧蘭が斃れる。
身体の奥から、感情が溢れる。
悲しみ。
悔しさ。
怒り。
だが。
碧蘭の言葉が蘇る。
――麗月将軍を頼む。
歯を食いしばる。
(……私が守る)
白玲は麗月の腕を支え、歩き出した。
麗月の胸にも、悔恨が渦巻いていた。
(……違う)
将とはこうではない。
部下を守り、敵を排する。
それが将だ。
なのに。いま。
部下が命を賭して、自分を守っている。
胸が焼ける。
だが。
(……碧蘭の覚悟は、無駄にはしない)
麗月は歯を食いしばり、立ち上がる。
本陣へ向けて、後退する二人。
その背後から、玄鉄が歩み寄る。
岩が進むような足取り。
距離は、すぐに詰まる。
玄鉄が手を上げた。
岩を砕く。
石礫を掴む。
次の瞬間。
礫が撃ち込まれた。
白玲が反射的に動く。
麗月を押し倒す。
背中で受けた。
礫が肉を裂く。
「……っ!!」
激痛。
呼吸が止まる。
視界が揺れる。
意識が遠のく。
(……まだ……)
その時。
遠く。
本陣から駆ける影が見えた。
一騎。
砂煙を裂いて、こちらへ向かってくる。
誰かは分からない。
だが。
(……援軍……)
(…麗月将軍を助けて…)
そう願った瞬間。
白玲の意識が、闇へ落ちた。
「……っ……白玲……」
麗月の声が震える。
だが。
もう、理解していた。
この身体では逃げ切れない。
ならば。
せめて。
敵に傷を刻む。
最後の力。
「……はあぁぁ!!」
気功が爆ぜる。
生命力が燃える。
霊力が引き上がる。
命そのものを削る覚悟。
玄鉄が立ち止まった。
「……これは……!」
目を細める。
「生命力を燃やしている……!」
覚悟。
ならば。
それを受ける。
玄鉄も右拳を構える。
岩が集まり拳を覆う。
岩の拳。
麗月が踏み込む。
渾身。
最後の突撃。
槍が走る。
玄鉄の拳が迎える。
衝突。
衝撃。
槍が砕ける。
岩が砕ける。
破片が舞う。
玄鉄の拳から血が滴る。
右拳が裂けていた。
だが、麗月の身体は、限界だった。
膝が落ちる。
その場に崩れる。
項垂れる。
「……無念だ……」
声がかすれる。
「碧蘭……白玲……すまない……」
一瞬。
息を吸う。
「……そして……曹華……」
玄鉄が、麗月の前に立つ。
静かに見下ろす。
拳を振り上げる。
終わらせるために。
その瞬間だった。
影が落ちた。
玄鉄の拳が振り下ろされる。
だが――
空気を裂く音。
横から飛び込んだ脚が、玄鉄の腕を叩き上げた。
衝撃。
玄鉄の拳の軌道が逸れる。
拳は上空へ弾かれた。
玄鉄の目が細くなる。
その横に立っていたのは、一人の男。
長身。
鋭い眼。
脚を振り抜いた姿勢のまま、ゆっくりと構えを戻す。
牙們だった。
麗月は目を見開く。
「……!」
信じられないという声。
「……牙們……!?」
牙們は玄鉄から目を逸らさない。
低く言った。
「……話は後だ。麗月」
視線は敵へ。
拳を構える。
「ここは、俺が止める」
玄鉄がわずかに口元を動かした。
拳を握り直す。
「……なるほど」
視線が鋭くなる。
戦場に、新たな将が立った。
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