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三華繚乱  作者: 南優華
第二十四章
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第二十四章伍 迫る将、踏みとどまる紫電

 戦場からやや離れた蒼龍国軍の駐屯地――

 かつて曹華が暮らしていた村の跡地に、二騎が砂塵を裂いて滑り込んだ。

 止まったのは、筆頭将軍・天鳳と、牙們将軍。

 守備隊長が目を見開く。

「……!? 天鳳筆頭将軍……それに牙們将軍……!? 何故ここに!!」

 戦場の中央は炎に包まれている。

 空は赤く染まり、遠雷のような爆音がここまで届いていた。

 天鳳は馬上から、炎柱を一瞥する。

 天を衝く焔。

 あれは、朱烈。

「……説明は後だ」

 低く、無駄のない声。

「私と牙們将軍は、これより戦場中央へ向かう。黒龍宗を止める」

 牙們が続ける。

「まもなく第九軍団一万と、親衛隊五百が到着する。ここで待機させよ。戦況次第では即時投入だ。」

 守備隊長は即座に姿勢を正した。

「……はっ!」

 余計な問いはない。

 この距離からでも、戦場が常軌を逸していると分かる。

 天鳳は馬を乗り換えながら、炎柱の一点を凝視した。

 あの焔の直下。

「……麗月か」

 牙們が呟く。

「いや……あの動きは……」

 天鳳の瞳が鋭く細められる。

「……曹華かもしれん」

 空気が、さらに重くなる。

「急ぐぞ。冥将が二人揃う前に」

 南方で崩れれば、東は孤立する。

 北は動き、瀚海は牙を剥く。

 綻びは、連鎖する。

 二人は同時に馬腹を蹴った。

 炎へ向かって、一直線に。



 その炎の只中。

 焰魄の体当たりが、紫叡の側面を打ち抜いた。

 視界が、傾く。

 紫叡の体温が離れていく。

 蹄の衝撃が足裏から消える。

 次の瞬間、世界がひっくり返った。

 ――落ちる。

 風が耳を裂く、炎が横切る、時間が伸びる。

 朱烈の炎槍が振り上げられるのがはっきり見えた。

 軌道が分かる。

 だが、間に合わない。

 空を掴んだ指先が何かに触れる。

 ――月穿。

 そこに在るべくして在ったかのように、柄が掌に収まった。

 主を見失わぬ武。

 選ばれた槍は、落ちる者を見捨てない。

 曹華は両手で柄を握り、横向きに構えた。

 守る。

 ただ、それだけ。


 次の瞬間。

 炎槍が振り下ろされる。

 轟音。

 衝撃が、骨を貫いた。

 背中から地に叩きつけられる。

 土が爆ぜる。

 肺の空気が一瞬で押し出された。

「……っ!」

 声にならない。

 遅れて、

「……がはっ!!」

 喉が痙攣する。

 視界が白く揺れる。

 だが、炎は焼かない。

 目の前。

 炎槍の穂先が、顔の寸前で止まっている。

 月穿が、それを受けている。

 腕が震える。

 衝撃だけが、重い。

「……ぐっ……うぅ……!」

 押される。

 炎が唸る。


 朱烈が、上から覗き込んでいた。

 獣ではない。

 狩人でもない。

 そのさらに上。

 獲物の反応を観察する者の目。

「……まだ燃えぬか?」

 炎槍が、さらに沈む。

 地面が軋む。

「妾の焔に膝をつくには、少々早いぞ」

 口角がゆっくりと吊り上がる。

「……それとも」

 一拍。

「……ここまでか、曹華?」

 炎が圧を増す。

「まだ、物足りぬのだがなぁ」

 怒りはない。

 焦りもない。

 ただ、愉悦。

 押し付けられたまま、曹華は歯を食いしばる。

 折れない。

 折れれば、終わる。


 その瞬間。

 地の底から、別の重さが戦場を震わせた。

 低く。

 鈍く。

 焔とは異なる、圧が。

読んでいただきありがとうございます。

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