第二十四章肆 上より迫る焰、狩人の跳躍
焰が収束した。それまで荒れ狂っていた炎が嘘のように静まる。
焰魄の足がわずかに止まった。紫叡が耳を伏せる。空気が張り詰める。
「……っ、紫叡!」
曹華の声は低い。
本能が告げていた。
――来る。
距離を取った焰魄がゆらりと首を振る。朱烈が槍を構えたままわずかに体を沈めた。
その一瞬、大地を踏み砕く爆音とともに焰が駆けた。
紫叡も同時に動く。地を蹴る蹄が土を裂き、紫電の影が一直線に走る。
騎馬と騎馬。
焰と紫。
空気が悲鳴を上げる。
すれ違いざま――
曹華の槍が閃く。
朱烈の炎槍が軌跡を描く。
火花が散り、風が爆ぜる。
紫叡と焰魄は、互いの眼を見た。
敵。
言葉はない。
だが、理解はある。
距離が開く。
反転。
再び突進。
曹華は月穿を引き絞る。
視界は朱烈だけを捉えている。
今度は仕留める。
振り抜く――
だが。
空を切った。
焰魄だけが、眼前を通り過ぎる。
「……?」
違和感が刹那に広がる。
…上だ。
気づいた瞬間、影が覆い被さった。
朱烈は、跳んでいた。
焰が逆流する。
大地から切り離された炎の身体が、空中に静止したかのように見える。
重力を、拒む。
その高さは、曹華が開戦直後に跳躍したときよりもさらに上。次元が違う。
「……!」
落ちてくる。
炎槍を振りかぶり、狩人の目で。
獲物を見下ろす眼。
速い。
避けきれない。受けるしかない。
「紫叡! ごめん! 耐えて!」
紫叡が、四肢を踏み締める。
蹄が地に沈む。
筋肉が隆起し、震える。
退かない、主が背にいる。倒れれば終わる。
炎槍が叩きつけられた。
轟音。
衝撃が腕を貫く。
「……ぐっ……!」
月穿が軋む。
骨が悲鳴を上げる。
だが、紫叡は耐えている。
地を掘り、踏み止まり、主を落とさぬ。
曹華と朱烈の目が、至近距離で合う。
朱烈は笑っていた。
獰猛な笑み。狩人の笑み。
「よい……!」
その瞬間だった。横から焰が迫る。
焰魄。
ただの炎ではない。
朱烈と視線を交わし合図もなく動いた。
まるで、狩人と猟犬。計算された連携。
焰魄が、紫叡の側面に体当たりする。
爆ぜる。
さすがの紫叡も、体勢を崩す。
踏みしめていた地が滑る。
曹華の視界が、傾く。
土煙。
空。
焰。
落ちる。
紫叡の体温が離れる。
月穿を握る手が空を掴む。
そして――
朱烈の槍が、再び振り上げられる。
真上から。
今度は、受ける足場もない。
「……曹華!」
遠く。
風の向こうから、白玲の声が聞こえた気がした。
だが、その声は、届く前に――
焰が、視界を覆った。
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