第二十四章参 焰、牙を剥く
その瞬間だった。
ふ、と。
朱烈の空気が変わった。笑みが消える。炎の色が、わずかに深くなる。橙から、紅へ。
次の一撃は、速かった。
炎の槍が、真っ直ぐ曹華の顔面を貫こうとする。
「……っ!」
不意を突かれた。
首を捻る。紙一重。
だが。
左頬に鋭い痛み。赤い線が走り血が散った。
燃えない躰。
だが、槍の“衝撃”は防げない。
曹華は理解した。
(……いままで、試されていた)
そして。
(いま、本気で仕留めにきている)
そう思えるだけの圧。
空気が重い。炎が牙を持つ。
だが――
心の奥に淀む言葉がある。
“龍脈の器”。
なぜか、あの言葉が引っかかる。
朱烈が踏み込む。
炎槍が、連なる。
鋭さが増している。
速度も、重さも違う。
月穿で受ける。
火花が散る。
紫叡が横へ跳ぶ。
主の重心を感じ取り、わずかに傾く。
曹華が不利な体勢にならぬよう、足場を選んでいる。
だが。
焰魄が、地を焦がす。
踏み込んだ地点が爆ぜ、紫叡の足元が揺らぐ。
焔の馬は、ただの乗り物ではない。
意思を持ち、戦っている。
紫叡が短く嘶く。
焰魄も低く喉を鳴らす。
馬同士の睨み合いが、火花を散らす。
遠く。
麗月が目を細めた。
「……」
さきほどまで感じていた違和感。
そして、いまの変貌。
「……考えすぎだったか?」
本当に、ただ愉しんでいただけか。
朱烈の槍は、いま明確に“殺し”へ向いている。
だが。
麗月の胸の奥に、まだ小さな棘が残る。
(……いや)
何かが、まだ噛み合っていない。
朱烈が笑う。
「フハハハ!」
その声は、先ほどより低い。
「どうした、曹華!」
炎槍が、叩きつけられる。
重い。
受け止めきれず、紫叡ごと後ずさる。
地面が抉れ、土煙が舞う。
「防戦一方ではないか!」
もう一撃。
衝撃で腕が痺れる。
「お前の実力は、その程度ではないだろう!」
距離が空く。
朱烈と焰魄が、構える。
炎が収束する。
突進の前兆。
曹華は息を整える。
(落ち着いて)
焦りは視野を窄める。
だが。
圧が、違う。
そのとき。
戦場の外。
高台で、岩が軋んだ。
ごり、と。
地鳴り。
大地が、低く唸る。
玄鉄は、静かに目を細めた。
「……そろそろ動くか」
足元の岩壁が割れる。
岩がせり上がり、階段を形作る。
まるで山そのものが、道を譲るかのように。
巨体が、一歩。
岩が、きしむ。
もう一歩。
影が、戦場へ落ちる。
朱烈が気づくより早く。
曹華が感じ取るより先に。
黒龍宗の“もう一つの牙”が、
ゆっくりと、戦場へ降りていく。
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