表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三華繚乱  作者: 南優華
第二十三章
393/412

第二十三章拾肆 誘われる紫電

 灼矢の余熱が、ようやく戦場から引いていった。爆ぜた炎が残した焦げ跡と土埃の中を、紫叡が駆け抜ける。蹄が大地を叩くたび、湿った土と焼けた匂いが混じり合った空気が跳ねた。


 曹華と紫叡は、再び朱烈と焰魄の前に辿り着く。距離は、もはや遠くない。突撃でも、間合い探りでもない。互いの息遣いが届く距離で、四つの存在は静止した。


 風が、止んだ。

 焰魄の蹄が地に触れるたび、赤熱した跡が残る。だが、その炎は荒れ狂っていない。獣の形をした焔は、じっと紫叡を観察するように首を巡らせていた。まるで、相手の力量を測る闘獣のように。

 それに応えるように、紫叡が低く息を吐く。鼻先から白い息が零れ、前脚がわずかに地面を探った。逃げるためではない。踏み込むための確認だ。


 朱烈は、その光景を眺めながら、実に満足げだった。口角が、ゆっくりと吊り上がる。愉悦と、期待と、そして余裕。

 ――まだ、本気ではないという余白を残したまま。

 「よいな、曹華」

 艶やかな声が、静まり返った戦場に落ちる。

 「そなた、実に良い。そして……その躰に流れる柏林の血…」

 曹華の背筋に、微かな震えが走った。

 「炎を寄せ付けぬ体質……炎を拒むのではない。炎が、入らぬ。冥妃様の言う“龍脈の器”というやつか」

 その言葉を聞いた瞬間、心臓が強く脈打つ。

 ――嫌悪感。

 理由は分からない。だが、確かに感じた。胸の奥、触れられたくない場所を、他人の指でなぞられたような不快感。


 曹華は無意識に、月穿を握る手に力を込めていた。

 朱烈は、その反応すら愉しむように、喉を鳴らす。

 「……まあ、よい。今は、そんなことはどうでもよい」

 一拍。

 焰が、朱烈の背で静かに揺れる。

 「妾を楽しませてくれ、曹華。次は――そなたからかかってくるがよい」

 それは命令ではなかった。挑発でも、強要でもない。試しが終わった、という宣言。

 朱烈の掌に焔が集まる。形を成し、伸び、やがて一本の槍となる。炎でありながら、確かな質量と威圧を宿した得物。焰魄もまた、低く鳴き、脚に力を込めた。


 曹華は、静かに息を吐く。

 朱烈は、まだ自分を試している。

 だが、それはもう「値踏み」ではない。

 対等に刃を交える資格があるかどうかの、最後の確認だ。


 紫叡が、短く嘶いた。

 焰魄が、その音を受けて蹄を踏み鳴らす。

 二頭の馬が、同じ角度で地に立つ。

 互いに視線を外さず、次に起こることを理解しているかのように。


 曹華は月穿を構えた、初めて握る槍。

 だが、不思議なほど、しっくりと馴染む。まるで――武に選ばれた槍だと、直感が告げていた。

 朱烈も炎の槍を肩に担ぐ。

 四つの存在が、同時に“構えた”。

 戦場は、完全に静止している。

 だが、それは嵐の前の沈黙に過ぎない。

 次に動くのは、焰か。

 それとも、紫電か。

 ――曹華は、誘われていた。焔冥将・朱烈によって、本当の戦いの場へ。

読んでいただきありがとうございます。

作品、続きに興味を持っていただけたら、★☆評価をお願いします。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ