第二十三章拾参 焰、試す
曹華と朱烈は、馬上で向かい合っていた。
紫叡は低く鼻を鳴らし、前脚で地面を踏みしめる。土の感触を確かめるようなその仕草は、逸る心を抑えきれぬ証だった。主の背を感じ取り、いつでも駆け出せると全身で告げている。
一方、朱烈の騎馬――焔魄は、炎で形作られた躯でありながら、確かな存在感を放っていた。蹄が地に触れるたび、熱が波紋のように広がる。だがその動きに無駄はない。焔魄は静かに首を巡らせ、紫叡を一瞥した。
その視線に意思があった。焔魄が戦う意志を見せたその瞬間、紫叡もまた短く嘶く。
火花と雷光が、見えぬところで交わった。
朱烈が、口元を歪める。
「……よい」
次の瞬間、焔が動いた。
焔魄は一直線に駆け出した。
だが、その進路は曹華ではない。まるで距離を測るように、あるいは反応を誘うように、焔魄は軽やかに反転した。
――追ってこい。
そう言われた気がした。
反射的に、曹華は紫叡の腹を蹴る。
紫叡は応えた。地を蹴り、雷のように加速する。
朱烈は、振り返りながら笑った。
「まずは小手調べだ」
朱烈の指先が、軽く弾かれる。
炎が凝縮し、一条の矢となった。
――灼矢。
空気を焼き裂き、一直線に曹華へ。
曹華は月穿を構える。
狙いは正確、躊躇はない。
一閃。
槍先が触れるより先に灼矢は爆ぜた。
衝撃と熱風が広がるが、曹華の躯は弾かれない。炎が入り込まない。
朱烈は即座に次を放つ。
「ならば――これだ」
十の炎が連なり、華麗に放たれる。
――十灼矢。
曹華は一瞬、息を整えた。気を沈め、月穿を構える。無言のまま連撃。
槍は舞う。
突き、払い、薙ぎ、断つ。
炎の矢が次々と空中で爆ぜる。
だが――一本。
残った灼矢が、紫叡の脚を狙った。
紫叡は迷わない。
地面を蹴り、跳ぶ。
だが、爆ぜるはずの灼矢は地に落ちない。
軌道を変え上空へ。
さらに反転し、曹華の背後へ――追尾。
その瞬間、曹華は動いた。
紫叡の背から跳躍。空中で体勢を整える。
落下の重力を、そのまま力に変える。
曹華へ迫りくる灼矢へ――
月穿が振り下ろされた。
一瞬、音が消えた。
次の刹那――
轟音。
爆炎。
本陣がざわめく。
「――曹華っ!」
白玲の声が掠れる。
だが、麗月だけは動じなかった。
視線は一点を射抜いたまま。
やがて、炎と煙が晴れる。
土煙の中を、紫叡が駆け抜ける。
その背に――曹華は、騎乗していた。
汚れはある。
だが、無傷。
朱烈は、その光景を見ていた。
愉しげに、頷く。
「……なるほど」
期待に応えた、と言わんばかりの表情。
「やはり――退屈はせぬな、曹華」
焰冥将は、まだ笑っている。
だがその瞳には、確かな評価が宿っていた。
焔は、試した。
そして――応えは、返ってきた。
ここからが、本番だ。
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