第二章 曹華伝六 片腕への決意
雷毅や趙将の言葉は、私の胸に静かに染み渡った。
訓練場で真っ向から認め合える戦友がいること――それは、この蒼龍の宮廷における唯一の救いだった。
「知略か……」
ふと故郷の村の光景が浮かぶ。白華は歴史や兵法書を貪るように読み、父と議論を交わしていた。興華でさえ、王家の系譜や古い史実を正確に記憶していた。対照的に、私はいつも剣を握り、汗だくで稽古に明け暮れていた。
「もっと、学んでおくべきだったのかもしれない」
今になって痛感する。知恵と知識は、剣と同じく、あるいはそれ以上に強力な武器になる。牙們の暴力の前で、私の剣がどれほど無力だったかを思い知った。だが天鳳将軍の力の根幹は、正に“知略”にあった。彼は大軍を動かし、人の心を掌握する術を知っている。
生き延び、いつか復讐を果たすためには、武の鍛錬だけでは足りない。今ここにいる――敵将の傍らに居合わせるという機会を、無為に過ごしてはならない。私は彼の知略、人心掌握の手練れを学び取り、自分のものにする必要があるのだ。
私は、怯えることをやめた。女官たちの嫉妬や噂を恐れて身を潜めるよりも、彼女らが最も恐れる存在――天鳳の“真の片腕”になる方が、はるかに強力な盾になる。片腕とは単に剣を振るう者ではない。将の意志を伝え、現場を動かし、そして必要なときに冷徹な判断で切り捨てられる人間である。
誰よりも先に仕留めるべき標的は、女官長をはじめとする宮廷の策源部だ。剣が通じぬ相手には、剣を持たぬ者の術で対応する。噂を覆し、信頼を可視化し、将軍の信任を証拠として積み上げる——それが私の新しい戦法となる。
私は、胸の内に燃える憎悪と復讐の炎を、冷徹な決意へと変えた。
ここで学び、ここで鍛え、そしていつか――この男の首を討つために。
白華と興華と再び会う日まで、私は片腕となる道を歩む。
それが、父の残した鎧と剣に報いる唯一の方法だと、私は信じていた。




