第八章 白華・興華伝四十六 決着の瞬間
剣戟の音が何度も広間に響き渡り、火花が散る。
最初は必死に食らいつくだけだった興華の剣が、徐々に鋭さを増していく。呼吸が乱れるごとに、胸の奥に眠る霊力が昂ぶり、気功と混じり合って全身に力が漲った。
「……っ!」
踏み込む足が軽くなり、振るう剣が風を裂く。
凍昊の刃を弾き返した瞬間、興華は自分の体が一段階変わったことを悟った。
(見える……! 凍昊中将の剣筋が、はっきりと!)
凍昊はその変化を見逃さなかった。
剣を受け止めた腕に、予想以上の力が伝わる。思わず口元に笑みが浮かんだ。
「……この小僧……本当に面白い!」
齢を重ね、戦場でもう驚くことはないと自負していた。
だが、今目の前にいる少年の剣は――若かりし頃に戻ったように胸を熱くさせる。
もはやただ純粋に、ひとりの剣士として剣を交えていた。
広間の端で白華は固唾を呑んで見守っていた。
(興華……負けないで。あなたの力を、証明してみせて……!)
弟の剣が軌跡を描くたびに、胸が締め付けられる。
だが同時に、弟がここまで強くなったことへの誇りも胸の内に溢れていた。
二人の剣が火花を散らし、何度目かの打ち合いで互いの間合いが崩れた。
凍昊は一瞬の隙を突こうと踏み込んだ――その時。
「はああああっ!」
興華の気功が一気に爆ぜ、霊力が剣へと乗る。
少年の全身から迸った気の奔流が、老将の刃を押し返した。
強烈な衝撃音が響き、凍昊の剣が弾かれ、床に火花を散らして落ちる。
広間に静寂が訪れた。
刃を失った凍昊は一歩下がり、息を吐いた。
そして、口元に笑みを浮かべ、深く頭を垂れた。
「……見事だ」
老将の声には、敗北の悔しさよりも、久しく味わっていなかった昂揚と納得が込められていた。
「興華……お前の剣、確かに受けた。もはや疑う余地はない」
沈黙を破ったのは、玉座から響く氷陵帝の声だった。
「……やはり、価値がある」
その言葉は冷たさを含みつつも、どこか愉悦に満ちていた。
玉座の間に控える廷臣たちは驚き、皇族の三姉弟は互いに視線を交わす。
清峰宰相と霜岳大司徒もまた息を呑み、雪嶺大将だけが誇らしげに頷いていた。




