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三華繚乱  作者: 南優華
第八章
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第八章 白華・興華伝三十九 氷陵帝の前に

白陵宮の一室に留め置かれて三日。

外の空気は常に張り詰め、宮廷の人々の噂は流れに乗って彼らの耳にも届いていた。

「雪嶺大将が直々に連れ帰った二人の子ら」――その存在は、好奇と疑念の的であった。



---



「いよいよだな」


その朝、雪嶺大将は白華と興華の前に立った。

白髭を揺らしながらも背筋は伸び、眼光は鋭い。

「儂が直々に氷陵帝の御前へと連れていく。……覚悟はあるか」


白華は短く頷き、興華も拳を握った。

「もちろんです」


「よし。その意気だ。――だが忘れるな、陛下の御前は戦場より冷えるぞ」


雪嶺を先頭に、白華と興華は広大な玉座の間へと進む。

氷河を削ったような柱、雪を思わせる大理石の床。

空気は氷刃のように澄み渡り、荘厳な気配が支配していた。



---



白亜の玉座に座すは、第二十六代氷陵帝。

その隣に立つのは皇太子・華稜、そして天華皇女、雪蓮皇女。


三人の視線が、同じく玉座の前に進み出た白華と興華に注がれた。


天華皇女は、白華を一目見て思わず息を呑む。

(私と同じ年くらい……?。それでいて、この気高さ……。ただの囚人であるはずがない。もし柏林の血を引いているのなら、私と同じ“王族”の立場になるのか)

そう思うと、胸の奥に針のような違和感が走った。


雪蓮皇女は二十歳。白華と興華を見やり、同世代という感覚に思わず親近感を覚える。

(私と歳はそこまで違わないはず……けれど、背に漂う気迫はどうだろう。生まれながらに人の上に立つ者の気だ。……やはり、ただの旅人ではない)

彼女の瞳には、不安と同時に「もし自分たちと同じ立場ならば」という意識が芽生えていた。


そして皇太子・華稜。十六歳の彼は興華と同い年。

だが、心をさらったのは興華ではなく姉の白華だった。

氷の宮殿に立つその姿が、あまりにも凛として美しく見えたのだ。

(……美しい人だ。どうして、俺はこんなに惹かれてしまうのだろう)

少年の胸は熱く高鳴り、視線を逸らせぬまま立ち尽くしていた。



---



氷陵帝は玉座の上から静かに二人を見下ろしていた。

冷徹な眼差しに、白華も興華も一瞬息を呑む。

だがその背後には、雪嶺大将の豪快な影がある。


「陛下。儂が直々に連れ帰った者どもにございます」

雪嶺の声が響き渡る。

その瞬間、広間にいた廷臣たちの視線がざわめいた。

「何者なのか」――疑念と好奇の視線が、白華と興華に突き刺さる。


白華は堂々と前を見据えた。興華も必死に唇を噛みしめ、兄妹として並び立つ。


その姿を見て、氷陵帝は僅かに瞼を細めた。

そして――、宮廷の氷の空気が、一層張り詰めていった。

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