表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三華繚乱  作者: 南優華
第八章
108/336

第八章 白華・興華伝三十七 白陵宮

白陵京――。


雪に閉ざされた帝峰大陸北方の中心に、荘厳なる城郭都市が姿を現していた。

高くそびえる白亜の城壁は雪解けの水で淡く輝き、氷を思わせる尖塔は、天を突くかのように鋭く伸びている。冬の冷気は石畳を這い、吐息は瞬時に白く凍りつく。だが、その厳寒すら都を構成する威容の一部であり、都の中心にそびえ立つ「白陵宮」は、氷雪の支配者の象徴としてその全てを呑み込んでいた。



---



白華と興華は、雪嶺大将の護送隊に連れられ、宮殿の奥まった一室に案内された。

「今日はもう遅い。氷陵帝も政務で忙しい。お前たちの謁見は…おそらく三日後になるだろう」

そう告げた雪嶺は、豪快に笑いながら付け加えた。

「忘れるなよ。お前たちはあくまで“不法入国者の護送”としてここに来たのだ。だが安心せい、この部屋は牢屋ではない。せめてゆっくり骨を休めよ」


白亜の壁に囲まれた部屋は簡素だが、質素の中に凛とした清潔さがあった。寝台二つと机、灯火と毛皮の敷物。だが、白華も興華も決して気を緩めることはできなかった。


「……三日、待たされるのか」

白華は小さく吐息を漏らした。その声音には焦りではなく、むしろ冷ややかな覚悟が滲んでいた。


興華は窓辺に立ち、遠くに見える尖塔を見上げる。

「僕たちの正体を……氷陵帝がどう扱うのか」

その声は震えていた。自分を奮い立たせるように、彼は拳を握る。

「俺は……姉さんを守れるだろうか」


白華は弟の横顔を見て、かすかに微笑んだ。

「興華。守るんじゃない。共に進むの。私たち二人で、ここを乗り越えるのよ」



---



同じ頃、宮殿の大広間。

白く磨かれた大理石の床が光を反射し、氷河を削り出したような柱が整然と並んでいる。廷臣たちが列を成し、沈黙の中で玉座を仰いでいた。


第二十六代白帝・氷陵帝――。

白絹に銀糸の龍紋を纏い、冷徹な眼差しを宿したその姿は、まさに氷雪の精を思わせた。隣には聡明な気配を漂わせる皇太子・華稜、その姉である天華王女と雪蓮王女も並ぶ。三姉弟の姿は氷柱のごとく凛として、宮廷の権威を象徴していた。


雪嶺大将が玉座の前に進み出る。鎧の音を響かせて片膝をつき、朗々と声を放った。

「陛下。柏林国の血を引く二人の末裔を、儂が捕らえました。白華と興華と申します」


大広間がざわめいた。廷臣たちは互いに顔を見合わせ、その名を口にした。

「柏林の……末裔……!」

「未だ生き残りが……」


氷陵帝はしばし沈黙した。やがて、その冷ややかな声が大広間を満たした。

「……よく連れてきたな、雪嶺。余は知っている。だが、その血をただ温存しておくつもりでもない」


雪嶺は頭を垂れた。

「陛下。末裔の力が器たり得るかどうか、陛下自ら御覧になるべきかと」


氷陵帝は目を細め、皇太子へ視線を送った。華稜は静かに頷き、天華王女と雪蓮王女も興味深そうに視線を交わす。

帝はしばらく思案した後、重々しく言葉を紡いだ。

「三日後、余の御前に召せ。それまでは宮殿にて待たせよ」


その声は大理石の床を伝い、凍てつく風のように廷臣たちの背を走らせた。



---



「処刑ではなく……謁見を?」

「氷陵帝は、あの二人をどうなさるおつもりか」

廷臣たちの囁きが広間に広がった。白華と興華の存在は、一夜にして宮廷の噂の中心に押し上げられた。


雪嶺はそのざわめきを背に、静かに退いた。

(氷陵帝よ……あなたは、この二人に何を見ようとしているのか)



---



雪嶺が部屋に戻ると、白華と興華が立ち上がった。

「陛下は三日後にお前たちを召すと仰せだ」

雪嶺の声音は淡々としていたが、その目には僅かに興味の色が混じっていた。


白華は頷き、心中で呟く。

(逃げ場はない。だが、ここで試される――)


興華は強く拳を握り、姉の横顔を見据えた。

(俺は……この場で、すべてを懸ける!)


窓の外では、白陵京の夜空に雪が舞い始めていた。

三日後に迫る謁見を前に、二人の胸には言いようのない緊張と昂ぶりが渦巻いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ