第八章 白華・興華伝三十六 到着
白陵国の首都――白陵京。
雪に閉ざされた帝峰大陸の北方、その中心に位置する都は、白亜の城壁と氷を思わせる尖塔で構成された壮麗な城郭都市であった。冬の冷気が石畳を這い、吐息は瞬時に白く凍る。だが、都の中心にそびえる白陵宮は、その寒気すら威容の一部に変えていた。
白華と興華を護送する一行は、二百騎余り。雪嶺大将を先頭に堂々と進むその姿は、民衆の視線を集めずにはいられなかった。白陵京の人々にとって、雪嶺は英雄の象徴。だが、その隊列の中に異邦の少年少女が混じっていることに気づいた者は、怪訝な目を向ける。
白華と興華は、その熱い視線を浴びながらも、街の壮麗さに目を奪われていた。
石造りの家々は雪に覆われ、青白い氷晶が屋根にきらめく。市場の通りには色とりどりの毛皮や香草が並び、人々の生活の息遣いが凍てつく空気に溶け込んでいる。
「すごい……これが、白陵京……」
興華は思わず声を漏らした。
白華もまた、興味深げに城壁や尖塔を見渡す。だが、その瞳には警戒の光が宿っていた。
(私たちは“客人”ではなく“護送された身”……忘れてはならない)
やがて一行は、都の中心――白陵宮に到着した。
氷河を削ったかのような白い柱、雪を敷き詰めたような大理石の床。広大な大広間を抜けるとき、白華も興華も、その威容に言葉を失った。
そこで、雪嶺大将が振り返り、二人に声を掛ける。
「今日はもう遅い。氷陵帝は政務で多忙であられる。謁見は三日後だ。それまでは宮殿の一室で待機してもらう。」
白華と興華は顔を見合わせた。
三日という猶予が与えられるとは思ってもいなかったからだ。
雪嶺はそんな二人を見て、豪快に笑う。
「がははは! 勘違いするなよ。お前たちはあくまで“護送”された者だ。だが安心せい、取り調べの小部屋や牢に閉じ込めるわけではない。そこまで無粋な真似はせん。……せっかく白陵京まで来たのだ、せめて雪と氷の都を味わうがいい。」
興華は、その言葉にわずかに肩の力を抜いた。
(……敵か味方か、まだわからない。でも、あの人はただの将ではない。豪胆さの裏に、何かを試す眼差しを感じる……)
白華は、雪嶺の背をじっと見据える。
(――三日。与えられた時間で、私たちは必ず道を切り開く。ここで立ち止まるわけにはいかない)
こうして、白華と興華は宮殿の一室へと案内され、運命の謁見を待つこととなった。




