青い弾丸
「さあ、どう料理されたい?」
サリクトは得物の長剣を握り玉の魔獣に殺意を向ける。魔獣もそれに反応したのか、直ぐ様攻撃がサリクトへ向かう。
破裂音と斬撃とも言える一直線を抉る攻撃。その尽くをサリクトは難なく躱す。
「ふん、わかったぞ」
サリクトは一瞬身を屈めると一気に間合いを詰め魔獣の直ぐ前まで接近した。するとどうだろう、斬撃はピタリと止んだ。
「やっぱな、コイツ透明な細くてしなる棒みたいなのを振り回してただけなんだよ。近付いちゃえばなんてことな、ななあ!」
御高説を垂れるサリクトに向かいゆっくり転がる玉。しかしサリクトは一飛で回避する。
「あっぶな」
「そりゃ、玉だもんな」
グリフでガイランの手当てをしているネムレスは何処か他人事だ。
「無駄口を叩くな。ああ、そうだ。切っとかないとな」
サリクトは再度玉に近づき長剣をささっと振る。するとボトボトと落ちる音がしてからゆっくりと茶色い棒状の触手のような物が姿を現す。
「うえ、気持ち悪っ」
と言いつつ玉の本体にも斬り掛かってみせる。しかし刃は通らず、傷も付かない。
「かぁ。これじゃ駄目かぁ。じゃあ」
と、サリクトは短銃を取り出す。
「サリクト! 銃も弾かれるぞ!」
少し元気になったガイランは自分の経験を伝える。しかしサリクトは聞く耳を持たず打ち続ける。やはりカンカンと音を鳴らし全て弾かれる。
「言わんこっちゃねぇ」
「へへーん。今日は奮発してこんなの持ってきちゃいましたー」
サリクトは腰の雑嚢から青白く光る弾丸を取り出す。
「あ、青弾じゃねえか。なんてもん持ってきてんだ」
青弾とはアクリス鉱石で造られた弾丸のことで、使用者の魔力を纏うことで、高い貫通力と、内部で変形し爆破する破壊力を兼ね備えた強力な弾丸のことである。強力な分、非常に高価である。
「マガジンいっぱいに入れちゃってんだから、ね!」
サリクトは数発残った弾倉を落とし、青弾の入った物に入れ替える。
「喰らえ!」
バスバス、とくぐもった音で玉の魔獣に撃ち込まれる弾丸。
「通った……!」
ガイランは青弾の威力に感嘆する。
銃弾が撃ち込まれた部分からは黒い液体が脈打つ様に流れ出る。その瞬間、ガイラン達は異変に気付く。
「なんだ、エーテル濃度が濃くなっていきやがる。……あの液体か! まずいぞこれは」
「エーテル濃度が濃くなるとどうなるんです?」
ネムレスは記憶が無いため何が何なのか分からない。元々知らないかもしれないが。
「エーテルは人間誰しもが発生させる生命エネルギーなんだが、それが濃すぎると目眩、吐き気から始まって幻覚、最悪死ぬ事もある、俗に言うエーテル中毒の状態になるんだ」
確かに何か、気分が悪くなってきたような、ダルさがあるような……。
「早く決着を付けねえと」
ガイランの顔に焦りが見える。玉の魔獣は転がりサリクトを押し潰そうとしている。サリクトはそれを避けるがその度転がり液体をそこら中に撒き散らしている。
「あんたら簡単に言ってるけどねえ!」
サリクトは尚も撃ち続ける。空いた穴は暫くすると塞がれてしまうのだ。しかし、さすがに玉の魔獣の動きも弱くなってきた。そこで銃から剣に持ち替え玉の魔獣に斬りかかる。
「死ねえ!」
「ちょっと待った!」
その一声でサリクトの動きが止まる。玉の魔獣への最後の一撃に割って入ったのはギルバスだった。