空白にあるもの
「ネイジのいぬ間になんとやらってな」
ブランクの中を一人で駆ける男。危険極まりない魔獣が跋扈する地ではあるがそれは複数人で組んだ場合の話。男のように一人逃げに徹すれば命の危機は無いだろう。ただ、獲物も得られないその行為に何の意味があるのか。安くは無い北門の通行料、目と鼻の先程にある死、それを踏まえても得たいものが男にはあった。
「へへ、ラッキーボーイなんてあり得ねえモンがあったんだ、他にもヤベェモンがあるに違いねぇ」
狩猟団は狩りの際に拠点を置くが、そこからある程度の範囲には他の狩猟団は入らないと言う暗黙のルールがある。狩猟団同士が同じ狩場でかち合うと無駄な殺し合いが始まる事がままある為、いつの間にかそうなっていた。
「絶対になんか隠してんだろ彼奴等。現場直撃してやるぜ!」
また、古参狩猟団ともなれば決まった狩場があり、新参者達はそこを避けるようになる。ネイジ達も古参の部類に入り、彼らの狩場は、例え彼らが居なくとも皆立ち入らないようにしていた。しかし、彼らが国から狩猟禁止を命ぜられたとなれば話は別。そこはただの地面なのである。
「くそ、なんて魔獣共だよ! 他の場所とは比べもんになんねぇヤツばっかだ」
男は素早さには自信がある。それは他も認める所で疾風と渾名される程。と暫く魔獣達を掻い潜り探索をしていると空を飛ぶ影が見える。
「ん? 鳥の魔獣……ではないな」
良く見れば箒で飛んでいる人間だ。
「なんだ、先乗りした奴等でもいるのか?」
ネイジ達程の狩猟団の狩場ともなれば誰もが手に入れたいと思うもの。しかし先程も経験したように、ここは他とは魔獣のレベルが桁違いに高い。下手な狩猟団では即刻全滅することは明白。
「んん? 下も何かいるな」
男は先にある少し開けた場所を目を凝らして見る。そこにも数人の人影が見えた。そっと、可能な限り気配を殺して近寄ると、それは見慣れぬ装備を身に纏った者達だった。狩りをしている様には見えず、何か探している様な雰囲気。濃い灰色の軽鎧、覆面の様な軽兜、手には剣、腰には短銃。それら統一された装備をみるに軍かそれに準ずる組織に見える。しかし男の知る限り帝国軍のものでは無さそうだ。その後ろには大きな魔獣、猪だろうか、かなり巨大化しているものが血塗れで寝そべっている。
「な、なんなんだ……。彼奴等は」
男は魔獣とは違う恐怖を感じ思わず身後退りすると足元の枝を思わずパキっと折ってしまった。
「誰だ」
向こうの一人が此方を向く
「やべっ!」
男は可能な限り静かに素早くその場を去る。
「追いますか?」
「いや、良い」
灰色の鎧達のリーダー格は男を捨て置くと、向き直る。
「どこへ行ったのか、早く探し出さねば」
「なんだっつんだよ、このエリアは。異常だな」
男は冷や汗をかきながら帰路を急ぐ。そこに巨大な影が前路を遮る。
「うああ!」