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空白の狩猟団  作者: 蓮谷 渓介
空白を狩る者達
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廃墟のそば

 「はあ、いいなぁ。狩りに出たいなぁ」

 アジトとしている砦の見晴らしの良い見張台から廃墟を眺めるサリクト。その廃墟の中にある整備された大きな一本道を進む人の群れ。彼らは大荷物で、または馬に荷台を引かせて進んでいる。ムステラ居住区の境である中門からブランクの入り口である北門までの間は《《ニアブランク》》と呼ばれる廃墟群がある。サリクトが羨ましそうに眺めているのは中門から北門へ向かう今から狩りに出る狩猟団達だ。

 国から狩猟を禁じられたサリクト達。ある者は他の仕事に、ある者は昼間っから飲んだくれ、ある者は暇を持て余し、各々突然与えられた余暇を過ごしていた。

 「ミーナちゃん、スゴい怒ってたな……」

 ネムレスの口からボソリと言葉が漏れる。それに対し眠そうなネイジが答える。

 「そうだな。……なぁネムレス、この広大なニアブランクってなんだと思う?」

 「はあ、……戦争の跡、ですかね」

 「ふうん、惜しいな。ムステラは古代の超帝国時代から残る町でな、超帝国由来の強力な魔力塔が何基もあったんだが諸共ぶっ壊されてんだ。戦争ならそこら辺は残すように戦うもんさ」

 「魔獣避けの魔力塔を人が壊すわけ無いか。まあ、確かに……」

 「お前の記憶にあるかは分からないが、十年前、この町に魔獣の大群が押し寄せたんだ。三日三晩破壊の限りを尽くしたそれはムステラの悲劇とも呼ばれ、多くの死者が出た」

 「そんなことが……」

 「その死者の中にはミーナの両親もいた。あの子が魔獣を憎む原因はそれだ」

 「そう、なんですね……」

 「その時に魔力塔の影響下に無くなった町の三分の一は放棄することとして、ここら一帯の領主、ノーザード伯はブランクの入り口に北門を作り、次に破壊から免れた居住区の周囲に城壁を作り中門を作ったのさ。復興予定地として中門と北門の間(ニアブランク)を残してるって訳だが実際は北門が決壊した際の緩衝地帯だな。んで、俺達は災害のすぐ後に来たんだが、ニアブランクはタダで住んでいいってんであの砦を貰い受けた訳さ」

 「タダなんですか? こんなデカい砦」

 「そうなんだよ。魔力塔が無いだけに偶に北門を越えてくる魔獣とかいるけどな、それ以外は快適なもんだよ」

 「魔獣が出る時点で終わってる気がしますけど……」

 「それに鬱陶しい自警団もニアブランクは管轄外だから中々に賑やかで楽しいぞ?」

 「物騒なだけでは……?」

 ネムレスはここで生きると言うことの大変さを改めて思わされる。少し前のこと。

 皆の酒場、蒼鋼亭に到着するなり麦酒を頼むネイジとネムレス。

 「あれ、サリクトは酒じゃないのか?」

 サリクトは果汁ソーダを注文していた。

 「まだ飲めないの!」

 「サリクトはな、まだクチクラが無いんだよ」

 「クチクラ?」

 「あ、それは記憶にないのか。クチクラってのはな、年頃になると朝目覚めた時に枕元にできてる半透明の塊のことだよ。それが出来ると成人と見做されて酒を飲めるようになるってわけだ」

 「へー。僕無いですけど大丈夫ですかね」

 「んー知らねえけど、発見した時は確かに《《オトナ》》だったぜ?」

 「オトナ……?」

 「あんなモノぶら下げてたらもう、オトナだよ! はっはっは!」

 「ぶっ!」

 「アレみて子供だと思うヤツはいねえよ。な、サリ」

 「ヤメてっ! ヤメてください!」

 ネムレスは来た酒を早々に飲み干しおかわりを頼む。

 そこへ屈強な男達が近付いてくる。

 「おうおう、女連れてんは誰かと思えばネイジじゃねえか」

 「あん? なんか臭えと思ったらガイランか」

 髭面の大男が麦酒片手にネイジに絡んでくる。

 「なあなあ、今日は狩りに出ねぇのか? ああ、出られねえのか、がははは!」

 「煩えな。お前らは何なんだよ」

 「ブランクから一ヶ月ぶりに帰って来たんだがなぁ、そしたらお前らが国に目ぇ付けられたって聞いてなあ。ふふふははは!!」

 「黙って飲んでろよまったく」

 「お、このあんちゃんが例のラッキーボーイか?」

 ネムレスの肩を勢いよく叩く。

 「痛い……。よ、よろしく」

 「ネイジの所で良かったなあ。長生き出来るぜ」

 「そうですね。団の皆さんが強いですからね」

 「そんだけじゃねえ。狩猟団のブランクからの帰還率知ってっか? 一割未満だ。欠員無しなんてまあ有り得ねえんだが、コイツらは毎回無傷で帰って来やがる。バケモノだぜホントによ」

 「良く言うぜ。お前も毎回帰って来てんだろうが」

 ネイジは麦酒をおかわりする。

 「……シミヤが逝っちまったよ。また……代わりを探さねえとな……」

 「そうか……。コイツは奢りだ。シミヤに」

 ネイジはそう言うと金貨を数枚テーブルに置く。

 「こりゃ、上金貨じゃねえか。《《強欲》》らしくねぇな」

 「だから強欲ってなんだよ。アイツには借りがあんだよ」

 「そうかい。まあ遠慮無く頂くぜ! おめえら! シミヤの分まで飲みまくれい!」

 ガイランの一声で地鳴りの如く歓声が上がる。その日は朝まで蒼鋼亭から明かりが消えることはなかった。

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