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空白の狩猟団  作者: 些阨社
赤き焰、青き刃
37/38

邂逅

 「まだ来ないのー! シルードー!」

 サリクトは箒を巧みに操り疽魔を屠っていく。空から暖かな日差しが降り注ぐその下では地獄の尖兵との戦いが続いていた。

 「キリがない! グリモアも追い付かない!」

 ライゼンダルは魔法を使わず剣で敵を倒して行く。魔法使いの魔法は本の形をしたグリモアから頁を取り出し行使する。グリモアは頁を周囲のエーテルを取り込み自動的に生成し補充するのだが、今回は敵が多すぎて回転が追い付いていない。

 「それ次回までの課題ですよ。ライゼ」

 ブリムガルデは大鉈を振り回し敵を蹂躙していく。

 「くあー!」

 ライゼンダルはヤケクソになる。

 それでもなお湧き出る疽魔達。当たりは敵で埋め尽くされようとしている。

 その時、サリクト達、更には疽魔達さえも怯む一際強力な威圧感が辺りを覆う。それは上空から押し寄せて来る。

 「あらあら、私の力を突き抜けてくるなんて……」

 アリストラムも少し困惑気味だ。

 よく見れば何かが近づいてくる。

 「遅くなってすまない」

 箒でやって来たシルードだった。黒い棺のような物を携えている。

 「遅い! シルード!」

 サリクトは戦いながらシルードの降りる場所を確保する。

 「まあまあ、話しは後だ!」

 とシルードは棺桶を自身の魔力で浮かし振り被ると、サリクト達がいる地面へ向け投げ付ける。鋭く飛翔するそれはまるで砲弾。着弾すると大爆風が巻き起こる。

 「うわっ! 危な!」

 戦場のど真ん中に突き刺さった棺。皆が戦いを忘れた一瞬の静寂。 棺が開く。それは漆黒の表面に浮かぶモザイク柄の筋に沿って上から順に下がるように開いていく。

 全てが開くとそこには女性が一人立っていた。

 棺と同じかそれよりも深い漆黒の衣、青灰色の肌、それは人形の様に美しく、繊細な線の体躯、立つその姿はまるで女神。

 「グラム……」

 アリストラムが呟く。それは黒夜神グラム。神代の世、その前からある神。今の歴史家、宗教家すらも知らない、忘れ去られた太古の神だ。

 グラム目が細く開く。疽魔から感じる邪悪な雰囲気よりもさらに濃い邪悪。見た目の神々しさ、神聖さからは想像も出来ない圧倒的な悪の波動が辺りを支配する。

 「…」

 何かを呟く。

 目から涙が一粒流れる。

 「来るぞ……」

 シルードは剣を抜き構える。アリストラム、ブリムガルデも同時に構える。

 「え? え?」

 サリクトも構える。

 「キャーアアアアァ!」

 グラムは叫ぶ。手を広げ絶望と悲しみと憎しみが混ざり合った、耳と心に突き刺さる声。叫びの後、力なく項垂れたグラムは徐に姿勢を正すと水を掬うように手を合わせる。すると手の平から黒い液体が湧き出し零れ落ち、そこから玉の魔獣が次々と生まれ出てくる。

 「ま、じか……」

 サリクトは目を疑った。

 「て! 敵を増やして、どうすんのさー!」

 

 少し離れた所でグラムを感じた者がいた。

 ……ムルティリア……。

 「ん……、呼ばれた?」

 狩りの最中だったネムレスは何者かに呼ばれた気がした。

 「主よ、粗方終わったぞ」

 狩りでは白夜の団がよく働きネイジやサリクトの分を補っていた。

 「あ、ああ」

 ……ムルティリア……!

 「……これは……」

 ネムレスは使命感にも似た感情を覚えた。その後何も言わずに予備の箒を手に取る。カートリッジは満タンだ。

 「お、おい! ネムレス! お前」

 ネムレスの行動に気付いたスペンス。

 「行かなくては……」

 箒に跨り一気に飛び上がるネムレス。空で暴れる箒を力で捻じ伏せている彼を下から見上げるも、声が届かないことを理解する。

 「行かれるますか。我らが神よ……」

 腕組みするスペンスの表情は晴れやかであった。

 箒を支配下においたネムレスは疾風の如く飛び去っていった。

 一方、グラムと対峙するサリクト達。

 「魔獣が、多い!」

 玉の魔獣が文字通り溢れ出し中々グラムへ辿り着くことが出来ない。辿り着いたとして、どう対処するのか見当も付かない。溢れる玉の魔獣自体は大したこと無く処理出来ているが、その後に残るエーテル液が厄介だ。

 「く、瘴気が面倒だな」

 今のところ皆避けられてはいるが、その内に地面がエーテル液塗れになるであろうことは明白。そうなればエーテル液から発せられる瘴気のダメージを覚悟で戦わねばならない。しかも、終わりが見えない戦いだ。一旦退却も頭をよぎる。

 「皆! 飛べ!」

 シルードが叫ぶと地面にグリモアの頁を叩き付ける。その瞬間目に見える範囲の地面が凍りつき分厚い氷が覆い被さる。

 「取り敢えず瘴気を封じた。今のグラムは疽子の影響で半鬼化して我を忘れている。何とかしてグラムから疽子を取り除くんだ」

 「そんなこと言われても」

 サリクトは成す術なしと天を仰ぐ。そこに何やら高速で動く飛翔体がみえた。

 「ん……? んん!?」

 「……あああああ!」

 「ネムレス!?」

 「と、止まらんんんんん!」

 そのままネムレスはサリクトに直撃する。巻き上がる爆煙。

 「き、今日イチで効いたわ……」

 「ご、ごめん。ってサリクト!? ここは?」

 「宗教集団のアジトだよ。ネムレスこそ何しに来たの?」

 「何かに呼ばれて、気が付いたら箒に乗ってたんだ。そしたらここに……」

 「そう、まあ取り敢えず降りて」

 ネムレスはサリクトに跨る形で乗っていた。 

 「ああ、ごめん」

 などとやり取りをしている二人をグラムは睨みつけ、突進して来る。

 「……」

 それをサリクトに乗ったまま見つめるネムレス。

 「おい! ネムレス! ちょ、ヤバいって!」

 それでもなお急ぐことは無く徐ろにに立ち上がる。

 「グラム……!」

 ネムレスはグラムの正面に立ち両手を広げ待ち構える。

 「レギオン!」

 「サー! 主よ」

 ネムレスの掛け声と共に白夜の団が前に立ち魔法で防護壁を張る。

 「な、なに!? コイツら!?」

 グラムは白夜の団の張る防護壁にぶつかり足止めを食らうも停止はせずに押し進む。そこに団員達が剣を突き立てる。

 「キャーー!!」

 グラムが叫ぶも進みは止まらない。人の声とは言えない声。無数の人間が叫びを上げているよう。

 「おいおい……、とんでもないヤツが中にいるぞ!」

 ライゼンダルは疽魔の攻撃を受けながらゲートから覗く突き出た巨大な爪に気がついた。

 「早く閉じてくれ!」

 剣で突き刺されたグラムは徐々にその色を変化させていき、青灰色だった肌が段々と血の色を帯びていく。

 「あ、主……。限界を迎えたようだ。うっぷ。一旦浄化に専念させてくれ」

 「ああ、良くやった。アー。」

 一人そう言うと、他全員諸共少しずつ薄まり霧散していった。

 「消えちゃった……」

 「来い! グラム!」

 「ムル……、ムルティリア、ムルティリア!」

 最初、滑るように勢いのあった突進も、今は力なく、一歩一歩、徒歩で近づいてくる。色の戻ったグラムは弱々しくネムレス寄り掛かるように抱きつく。

 「グラム……、分かるね?」

 ネムレスは優しく語りかける。

 「はい」

 グラムは徐ろに右手をあげると五指の先に光が灯る。それに合わせてゲートも周囲五カ所に明るい光が浮かぶ。

 「閉じよ」

 その言葉に合わせ手を握ると、ゲート周囲の光も同じ動きでゲートの出口を収縮していく。途中まで出ていた巨大な爪は出ていた部分が切り落とされ、ピタリと閉じた。

 「さあ! 残りを掃除するぞ!」

 サリクト達はゲートが閉じ勢いを失った疽魔達を一掃して行く。

 「お、終わったぁ!」

 黒い疽魔達を倒し切り、綺麗になった地面に倒れ込むサリクト。

 「グラム、会いたかった」

 「私もよ、ムルティリア」

 抱き締め合う二人。

 「いやぁ、良かった良かった。何とかゲートを沈静化出来たな」

 シルードはにこやかに手を叩く。

 「皆良くやってくれた。これで帝国の平和は守られた!」

 かくして黒夜神会による連続殺人事件から始まり地獄の門を閉じるまでの、後にシルードの姓を取ってラシアス・スキャンダルと呼ばれる事件は幕を閉じた。

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