掃討後、ティータイム
「お茶にしましょうか? と、その前に……」
そう言うと少女の姿に戻ったアリストラムは、手に持つ肉切り包丁で辺りに残っている疽魔を一掃して行く。
「さ、綺麗になりました。お座りください」
と、何処から出したのかテーブルと椅子、ティーセットが用意されている。
「どこからこれを……」
サリクトはその光景に困惑する。
「ふふふ、私程になればこれくらい簡単なことです」
と微笑むアリストラムは何も無い空間からボロボロな布が巻かれた包丁の柄を握り覗かせる。
「へ、へえ。大したもんだね」
サリクトは異空間に干渉する力よりそこから取り出そうとしている刃物に少し恐怖する。
疽魔の一掃された空間でアリストラムの用意したテーブルとお茶。空は晴れ日差しが降り注ぐ中のお茶は中々に美味い。ゲートが無ければ尚良しだが。
「一ついいかな?」
ライゼンダルが口を開く。
「どうぞ」
アリストラムは目を閉じお茶の風味を確かめている。
「あの、ゲートって何なんだ? 閣下はあの世の入り口と言っていたが……」
「それは私が答えましょうか」
とブリムガルデ。
「シルードの言う通りあれはあの世、この世界で言う地獄の底に繋がっています」
「地獄!?」
お茶を吹き出すライゼンダル。
「そうです。まあ、こんな話するのも貴方達くらいなので……。教えても問題無いでしょう」
ブリムガルデは静かに語る。既にグリゴリ教の教えとして世界に流布されている内容とほぼ同じだがと前置きした上で、その内容はこうだ。命あるものが召される死後の世界、幽界には天国と地獄がある。それらは縦に繋がっていて、上の方が天国、下の方が地獄と呼ばれ、天国には神々が住まい、地獄には悪鬼が巣食っている。そして今ここにあるゲートはその地獄と繋がっていて、疽魔は地獄の鬼や悪魔だと言う。
「なんでそんな物がここに……」
ライゼンダルは苦々しい顔になる。
「本来なら黒夜神グラムの御せし神器。それが封印された後、いつの間にかグリゴリ教の御神体となっていた」
ブリムガルデはテーブルにあったお茶菓子を一つ摘み口へ運ぶ。
「何故でしょうね……」
「ブリムガルデでも知らないのか」
ライゼンダルは少し驚いた様子。
「私は店番で忙しいので、外のことはあまり知らないんですよ」
「ねえねえ、つかさ、ブリムガルデとアリストラムってどういう関係……?」
サリクトが割って入る。
「あんな、何ていうか、そう言うことしてて、ねえ?」
「あれは、違うんですよ。あれは」
何故かしどろもどろになるブリムガルデ。
「私が説明しましょう」
と次はアリストラム。
「私とブリムは旧知の仲。まあ、言うなれば従姉妹同然。なのであれはお巫山戯みたいなものです」
「アリス、それの言い方は良く無い……」
「サリクト、分かっていると思うが彼女達は普通の人間ではないんだ。我々の物差しで測れるものじゃないぞ」
そんなことは分かっている。二人とも滅茶苦茶強いし、アリストラムなんて大人になったりするし、何も無い所から包丁を出すし。しかし、そうではない、そうではないのだ。二人の間の、あれは甘美な関係……。それらもライゼンダルの言葉が全ての答だ。人では無いのだ。いや、それはそれで……。などと煮え切らない表情をしているサリクトは思い出した。
「……あ! そうだった! ブリムガルデってさ、白灰の魔女って呼ばれてたんでしょ?」
ブリムガルデの表情が少し曇る。
「何故それを?」
「あ、いや……。不思議な女の子から聞いたんだけどさ。なんか昔に会ったことある気がして。ライゼンダルも見たでしょ。あの子」
「ああ、あの少女な。あの子ってもしかして……」
ライゼンダルはブリムガルデを見る。
「そんなことをペラペラと喋るなんて、メティアの姫巫女ですね。まあ、神託って程では無さそうで良かった」
「ああ、あれがメティアの。じゃ閣下が飛び出していったのは神託を受け取ったからか」
自分の他で会話が飛び交いポカンとするサリクト。慌てて仲間に入ろうと試みる。
「な、なんなの? メティアって」
アリストラムが答える。
「メティアの姫巫女は神と交信の出来る存在。彼女の言葉は神でさえ無視できないと言われています。彼女が終わりと言えば、この世界そのものでさえ終わってしまう。神の御心と違ったとしても」
ライゼンダルは思い当たる節がように、
「閣下は彼女に、このままではブリムガルデが死ぬと言われて飛び出して行った。本当に死んでしまうところだったのか」
「へえ。シルードが、ねえ。私が死ぬからって? ……ふふふ」
とブリムガルデは何やら嬉しそう。
「え、え? シルードとどういう関係? ねえ」
「ふふふ、へへ」
「ねえってば、ねえ」
ブリムガルデはニヤケて語らない。サリクトの質問はそれとなく流されティータイムは続く。ゲートの封印は亀裂が入り徐々に破られつつある。




