赤と青と黒
宗教団アジトの通路を走るギルバスとサリクト。階段こそ無いが全体的に緩く下り坂になっているようでかなり深く下がって来ているようだ。ギルバスは爆弾を使い切りただ笑い声を上げながら走っている。サリクトはそんなギルバスを追いかける。敵が出たら始末するつもりだったが誰も出てこない。
二人が走り去るのを通路の影から見送る男がいた。
「あの制服は空箒騎兵団、か。後ろのはよく分からんが……。最初の犠牲者、か。祈ろう……」
男は手を組み祈りの言葉を呟く。その間も二人はどんどん進んでいく。
「はあ、はあ、はあ、行き止まりか?」
ギルバスは天井の高い部屋のような空間に突き当たる。奥には黒い塊。中心に目のような二つの光。その光から視線を感じたギルバスはその異様な気配に身体が強張る。
「な、なん……」
「ギルバス! どうした!?」
サリクトが遅れてやって来る。
「なに、あれ……」
サリクトも同じく気配を感じるも、辛うじて身体は動く。光のある黒い塊の中心がグニャリと歪むと黒く野太い牙のような物が伸び出てくる。狭い通路を抉じ開けるように窮屈そうな引っ掛かりを見せながら、ズリズリと巨大な五本の爪から腕、頭が出て来る。その色味や雰囲気は玉の魔獣のそれと同じであった。
「あああ!」
サリクトは無意識のうちに箒で弾を撃ち込んでいた。初めて感じる恐怖、得体の知れない存在との対峙。魔獣にも感じる不快感を更に凝縮し煮詰めたようなドロリとした気持ち悪さ。未知のそれら全てにサリクトの身体が死を意識していた。
未知の黒い存在は四肢を持ち形は人に近いがかなりの巨体だ。サリクトの撃ち込んだ魔法の弾は確かに命中し穴を穿ち何か汁を垂れ流させるがダメージの有無は分からない。黒いそれが徐ろに腕を振り上げ横殴りに振り抜く。見えているが避けられない。身体が竦む。成す術なく吹き飛ばされる二人。
「ギ、ギルバス……!」
サリクトは何とか声を出す。ギルバスから返事は無い。しかし胸は上下に動いている。
「生きてるか……」
少し安堵しサリクトが起き上がろうとすると、黒いそれは一瞬にしてサリクトの目の前まで移動し、太く鋭い爪を揃えサリクトを突き刺そうと構えていた。
「あ……」
絶望が頭を支配する。
その時、天井が爆ぜ赤い光と青い光が黒いそれを頭から押し潰す。
「目覚めちゃいましたね、結節点」
「久し振りのお仕事ですねえ」
土煙の中に人影が二つ、一つは赤く、一つは青い光を纏っている。
「あ、あんたらは……」
「こんなとこで会うとはね」
「お久し振りです、サリクトさん」
一人は気だるそうに、一人は幼女のように。
「ブリムガルデ?! アリストラム!?」
サリクトの知っている二人がそこにいた。
「あーあ。アリスなんかといたくないんだけどな。幼女趣味のおばちゃんだし」
「私だってガサツなマニアック干物女には近寄りたくないんですよ?」
「あ?」
「あ?」
何やら二人の間に熾烈な稲妻が走っている。
「レーヴァテインは大切にしてあるんでしょうね」
「そっちこそ私のグリムリーパーに傷を付けて無いでしょうね?」
「貴方次第です」
「同じくですよ」
などと言い合っている最中に足元の黒いそれは勢いよく復活する。その衝撃で吹き飛ぶ二人。しかし体勢は崩れていない。
「疽魔よ、久しいですね。楽しませてくださいよ」
黒いそれを疽魔と呼ぶブリムガルデは部屋の方方を蹴り跳ねデビルの頭を蹴り弾く。すると疽魔はいとも容易く体勢を崩す。
「まあでも、一番手で長引くのも良くありませんね」
とアリストラムはレーヴァテインを袈裟斬りに振り抜くと、疽魔はその軌跡のまま、二つに別れ落ちる。
「ああ! 楽しみが……。これだからアリスは!」
「今は二人を助けるのが先でしょう」
「……そうですね」
ブリムガルデは玩具を取り上げられた子供のような目で倒れている二人を見る。
「押し込めますよ」
アリストラムが箒の先に魔法で防御陣を張り黒い塊、ゲートに蓋をする。
「取り敢えず蓋をしました。今のうちに」
「ライゼ! 来てるんでしょう! 早く連れて帰ってください!」
ブリムガルデはライゼンダルを呼ぶ。すると上から当人が降りてくる。
「速いんだって、はあ、はあ、はあ、俺は人間だぜ? まったく」
などと愚痴を言いながらギルバスとサリクトを箒に乗せ飛び立つ。
「この前の箒改造が役に立つとはな」
ライゼンダルはサリクトと魔法屋に訪れた際にいちゃもんを付けられ施した高速化と安定性向上のお陰で此処に即座に到着した。そしてギルバスとサリクトの二人を乗せても安定して飛べるようにもなっていた。
「貴方達はゲートの主を、黒夜王グラムを探してください。それまでは私達がここで疽魔達を押さえておきます」
アリストラムがライゼンダルに伝えるとライゼンダルは手を振り了解の意を表す。
ライゼンダルが飛び立ったとき、アリストラムの魔法防御陣が破られる。するとゲートの中心からは多数の手が伸び出ていた。
「さあ、楽しませてくださいね」
とブリムガルデは赤い炎のような闘気を纏い鉈を構え、
「狩り尽くしてもいいですか?」
とアリストラムは青く鋭い冷気を纏い箒を向ける。
ゲートからは堰を切ったように疽魔達が溢れ出す。




