暗きに潜る
「待て! ギルバス!」
敵に気付かれない最大の声でギルバスを呼ぶ。サリクトは追跡の末、ギルバスを発見した。それはシルードの指示にあった場所、アジトの入り口の前。深い森の中、木々に埋もれるように入り口はあった。ギルバスは既に片脚を踏み入れている。
「待てるか馬鹿が! 私の手柄を横取りしようなど言語道断だ!」
「声がデカいよ! 要らないよそんなもの! 見つかるって!」
「コソコソと攻め入るなど貴族にそんな卑怯なことが出来るか! 場所を突き止めているのだ、情報戦ではこちらの方が優位だ! 行くぞ! はははは!」
「何の情報?! 意味解んない! もう馬鹿貴族!」
ギルバスは勇んで駆けて行く。すんなりと入れたし意外と敵が少ない。だがここは敵アジト、当たり前に敵と遭遇する。しかし何故か敵は混乱しているようだ。
「くそ、どうなってるんだ! 何処だ敵は。そっちはどうだ」
「ダメだ。分からない内にやられてる。ロマニ司教の儀式が終わるまで持たせなければ」
出会い頭になる直前、曲がり角の影に潜み会話の最中、ギルバスはくすねてきた特殊小型魔導失神弾を握りエーテルを溜める。
「ふふふ、性能を試してやろう」
ランプが光り、エーテル充填完了した失神弾を敵の足元に投げ入れる。
「ん? 何だコレは」
ピっ、とそれが音を鳴らした瞬間、
「え、」
爆風と爆煙、轟音と地響きが鳴り響きそこにいた敵は消し飛んでいた。ギルバスも余波で吹き飛ばされる。それは紛れも無く大爆発だった。暫く後、
「あー!! 何やってんの!? 信じらんない」
吹き飛ばされへたり込むギルバス、そこに警戒しながら進んで少し遅れたサリクト。
「いや、これは、衝撃波、しょ、あれえ?」
「どうすんの! 敵が集まっちゃうでしょ!」
「……ふふ」
乱れた髪も直さずギルバスは不敵に笑い出した。
「え、なに。怖いんだけど」
「そうか、そうだな! こうなればこのままアジトを殲滅してやる! そして敵討伐の栄光を我が手に掴むのだ! はーはっはっは!」
そう言うとギルバスはすっくと立ち上がり走り出す。
「……ダメだ。もう」
何か力が抜けてしまったサリクトは呆然と立ち尽くしてしまった。
「ああ、ミユンがしっかり働けば、こんなことにはならなかった、ものを……」
何故か手負いのロマニ司教。彼は今、自身の身体に器具を取り付けそこから伸びる太い線で大きな機械へと繋いでいる。その機械の前、綺麗に整列させた脳達の前に座り込む。そこは周囲を石で囲まれた部屋。塞がれたのでは無く、追っ手から逃れる為、入り口を塞いだのだ。
「帝都に来る魔法使い志望の奴を捕まえて使う予定だったが、ミユンめ。もう良い、私の長くない命を神に捧げよう……」
手には釦が握られている。釦に乗せられた指は細かく震えている。
「私も魔法使いの資格はあるんだ。成功する、だろう。しかし……」
一旦釦から指を離す。
「命が惜しいか……。神の、御本に……」
入り口を塞ぐ石の扉を破壊しようと誰かがゴツンゴツンと殴り続けている。
「はーっはっはっは! それそれえ! 壊れろ! 崩れろ!」
半ばヤケクソのギルバスは横に伸びる通路を横切る度に爆弾を投げ入れていく。ギルバスの通った後ろを爆風が吹き荒れる。
「あ、後少し、で、回復す、る……」
ボロ雑巾のような有様で横たわるサエルことミユン。彼女はロマニを護る為にこんな姿になった。相当な手練が相手だったようだ。
遠くから笑い声が聞こえる。
「ダメ、か。幻聴がする……」
笑い声とは別、すぐ近くに人の気配がする。
「おまえ、達、何にも、のだ?……」
気配の人物は呟く。
「異端は冒涜。異端、滅すべし」
その者はナイフを手に待ちミユンを突き刺そうと振り下ろした瞬間。
「はははは!」
笑い声が通り去った。そして、少し遠くでピっと音が鳴る。と同時に大爆発が起こりナイフ諸とも吹き飛ばす。ミユンは寝転がっていた為か、爆風の影響が他より少なくニ、三回転げるだけだった。ナイフの者は背中に爆発のダメージを受け、吹き飛ばされた勢いで偶然ナイフを自身の胸に突き刺して絶命した。
ロマニは釦に指を乗せ覚悟を決めた。
「我らの神よ、永遠に」
カチリと釦を押す。ロマニに繋がれた線が蒼く光り、ロマニから生気がまみるみるうちに消えていく。並べられた脳も光りだし、後ろに鎮座する黒い塊を照らし出す。数秒の後、脳は次々と弾け最後の一つが弾けたとき、ブーンと言う無機質な音が鳴る。その時、ずっと叩き続けていた石の扉が破かれ人が入ってくる。
「これは……。彼らの神は実在した。異端では無かった、か。全隊帰還するぞ」
男の声だ。男はインカムにそう告げると部屋を後にした。
男が石の扉を破ったと同時期、何かを感じた人物が二人。
「動いた……」
「肉屋は少しお休みですね……」
石の部屋にある黒い塊、ロマニが命と引き換えに蘇らせたその塊の中心からこちらを覗く二つの光があった。まるで地獄から覗き込む悪魔の目のように。




