狩り
「ほえー。やるもんだねえ」
ここはムステラの市壁の外。古い砦を利用したネイジ達狩猟団の拠点の庭、と言うか外。サリクトがネムレスに戦い方の手ほどきをしているところ。
「ふう。前に使った事があるんだと思います。身体が覚えている感じです」
サリクトはネムレスに長剣、短剣、短銃、長銃など、狩猟団で扱うであろう武器種を一通り教えてみると、どれも水準以上の動きで扱いすぐにでも実戦投入出来る腕前だった。
「じゃあ、紋章片は分かる?」
とサリクトは何やら図柄の入ったカードを手渡す。
「グリフ、ですか」
サリクトは先ず手本を見せる。
「こうやって紋章の部分に手のひらを当てて、意識を集中すると……」
そう言うとサリクトの手のひらの上にあるグリフから火が立ち昇る。
「って感じ。これは自分から出てるエーテルを紋章に反応させて現象を起こす魔法ってやつ。覚えてる?」
「魔法、は、わかります。けどグリフはちょっと分からないですね」
ネムレスは少し悩ましげな表情をするも、サリクトと同じようにやってみる。するとサリクトよりも強い火が上がり前髪が少し焦げる。
「わ、わ! 出ました」
「まあ、子供も使える生活の一部だからね。大丈夫そうだ。グリフは色々あるけど、使い方は全部同じだから。紋章に手を当てる、集中、発現、ね。ただ自分の魔力を使うから使い過ぎると疲れるからね。って知ってるか」
「そうなんですね……、確かに少し疲れた感じがします」
「じゃあ、次は箒だけど……」
とサリクトは何処かから長い棒に機械が取り付いた物を持ってきた。
「魔法で空飛ぶんだから箒、機械でも箒。はい」
サリクトは棒をネムレスに手渡す。
「なんとなく見た目が箒っぽいでしょ?」
「はあ」
ネムレスは持たされた棒を見ると、端の方に長方形の塊が棒の周りを囲むように斜めに取り付けられている。確かに箒のように見える。
「棒を握ってグリフ使うみたいに集中してみて」
「はあ……、ああっ!」
ネムレスが箒を握り先ほどと同じように集中すると、一気に天高く舞い上がった。
「あああ! ああああ!」
宙を暴れる箒から振り落とされまいと必死にしがみつく。
「飛んでる姿をイメージして! ゆっくり飛んでる自分を想像するの!」
「ああ、あ……」
暫しアクロバティックな飛行を続けた後、サリクトのアドバイスを受けゆっくりと降りてくるネムレス。
「なかなか、スリリングな乗り物、ですね」
「いや、あんなに暴れたのはアンタが初めてだよ」
そうこうしている内に時が経ち数週間。
「サリクトそっち行ったぞ!」
ブランクの山中、雑木林の中を俊敏に駆けるサリクト達。彼らの上空には空飛ぶ箒隊。一般に狩猟団は狩場に拠点を設置し、そこから箒隊が空から索敵し目標を捉え、通信魔具で地上部隊に指示を出し追い詰める。魔法部隊を編成する狩猟団もあるが魔獣相手に戦える上級魔法を使える者は市井には少ない為、通常は箒隊と地上部隊の二部隊編成が多い。
「はいっよっ!」
サリクトは長剣を目にも留まらぬ速さで振り抜き、一息で異常に大きなクマの身体を切り裂き四肢を分断する。
「いっちょ上がり、と」
「こんな大きな魔獣化体を一瞬で……」
ネムレスはここ最近ネイジ達の狩りに同行するようになった。ネイジ曰く「幸運を家に寝かせてちゃ勿体ない」とのこと。幸運と言えるのか分からないが、ネムレスがいると魔獣化した獣と遭遇しやすくなったらしい。
「さすがサリクト。そりゃ帝国も欲しがるわな」
ネイジは嬉しそう。
「あの、僕はこのままでいいんでしょうか?」
訓練はしたものの、ずっとネイジの横でボーっとしているネムレス。
「いいんだよ。何もしなくて。幸運だけくれりゃ。まあ自分の身を守ることくらいはしてもらおうか」
「それはいいんですが……」
そこへサリクトがやって来る。
「おう、サリクト! 中々の大物じゃないか? 生アクリスも良い色してるぜ」
「そうだね。このまま血抜きしたら帰ろう」
サリクトは何やらニヤニヤと頬が緩んでいる。
「何か良いことがあったのか?」
ネムレスは不思議そうに聞く。
「ふふふ、肉だよ。魔獣肉にありつけるんだよお」
サリクトのニヤニヤは止まらない。