任務
サリクトが帝都に来てから一週間。宗教団アジト偵察任務の日である。サリクトは帝都に来た時と同じ魔法省次官室にいた。ブリムガルデとの特訓を終えた後、何度かここを訪れ施設の概要を覚えたりした。入り口も前回とは違い、隣接する魔法軍砦から入り、箒も専用のラックに収めて来た。
「うう、なんか派手だなあ」
サリクトは着慣れない制服を着せられている。魔法軍の中でも数人しかいないシルード麾下の集団、クレイドルガードの物だ。それをシルードは細い目を更に細めて眺める。
「うん、サイズは大丈夫そうだ。似合ってる。じゃ着替えて良いよ」
「ふぅ。堅っ苦しいのは苦手だなあ」
サリクトは用意された別の服に着替える。今度は地味な配色の町人達が着るような服だった。町に入ればすぐ溶け込めるような、何処にでもある服だ。
「それでは任務の説明をしよう。今回は偵察だ。奴らのアジトの出入り口とか、周囲の地形とか、まあそこら辺を調査してきて欲しい」
シルードはアジトの位置や周辺状況を説明するがそれを聴いてサリクトは怪訝な表情をする。
「そこら辺、ですか。なんか適当じゃないですか?」
「そんなことは無い。初めての軍務だからね。堅っ苦しいのは嫌いだろ?」
「そうですけど……」
「その服だって戦闘用じゃないんだ。危なくなったら帰還してくれ」
「はあ」
「それに一人じゃ無い。ギルバスもいる、筈なんだがいないな。おかしいな」
シルードが時計を確認しようとした時、誰かが荒々しくドアをノックする。
「入れ」
「報告します! たった今、ギルバス様が一人で出撃されました! 我々の静止を振り切って試作兵器と共に飛び立ちました。我々の箒ではあの方の速度には追い付けません! このままでは単独でアジトに乗り込む勢いです!」
「おお! それは大変だ! サリクト、すぐに向かってくれ」
「……へえー」
サリクトの目はじっとり疑いの光を放つ。
「なんだその目は。ほら早く行った行った」
「ちょ、ちょっと! 行きます、行きますって」
シルードに追い出されるように部屋を出るサリクト。そこに首に掛けたインカムからシルードの声が聞こえる。
「あー、あー、聞こえるか? アジトの位置はさっき話したとおりだ。君の箒なら追い付けるだろう。彼奴を頼んだぞ。以上」
通信はブツリと途切れた。
「勝手だなあ」
サリクトは走り出す。向かう先は魔法軍本部の空箒騎兵団空中出撃待機所。帝都魔法省に隣接する魔法軍砦の上層階にある壁の無い巨大なベランダのようなものである。
「えーっと、加速グリフのラインを……」
サリクトは飛び立とうとエプロン上をウロウロしていると、インカムから声が聞こえる。
「ちょっと! 緊急の指令も無いのに予定に無い飛行は許可出来ません! 貴方、所属と氏名階級を名乗りなさい!」
女性の怒号だ。そんなことを言われてもこちらは何も聞かされていない。仕方ないので名前を名乗り、さっき聞いたことを言ってみる。
「さ、サリクトです。え、とシルードの麾下? のクレイ、ドー……」
「な、貴方ふざけないで! クレイドルガードに貴方みたいな小娘はいないわよ! シルード閣下を呼び捨てにするなんて! 弁えなさい!」
言われようにカチンと来たサリクト。
「小娘で悪かったね! おばさん! じゃシルードに聞きなよ!」
「まあ! また呼び捨てにして! 不敬罪で訴えるわよ!」
「あんたじゃないでしょうが!」
そこにシルードが割って入る。
「ああ、悪いパメロ君。連絡が遅れたようだ。彼女の飛行を許可してくれ。緊急の任務なんだ」
「シ、シルード閣下!? は、はい! わかりした! すぐに!」
パメロは先ほどとは打って変わって乙女を感じさせる猫撫で声になる。
「サリクト、飛行を許可します」
「……はーい」
サリクトは冷めた口調で返事をすると、エプロンに描かれたライン上を駆ける。そして壁の無いベランダ端から飛び降りるように落ちると同時に箒に跨りそのまま空へ飛んで行く。
「役人めんどくさー!」
サリクトは我慢出来なかった。




