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空白の狩猟団  作者: 些阨社
赤き焰、青き刃
25/38

空の器

 「ああ、何故だ。必要なエーテルの器は十分にあるはずなのに!」

 黒いローブを纏う男、黒夜神会司祭ロマニ。

 「何故だ。司教も、大司教も、その身を捧げていると言うのに」

 秘密の地下祭壇の前で靴を鳴らし行ったり来たりしている。

 「黒夜神復活に後ろ向きだった大司教の寝込みを襲ったのが駄目だったのか? やはり志しの無い輩の器では駄目なのか。だとしたら中々首を縦に振らなかった司教も眠り薬で静かになった時に取り出したし、その他はブランクで狩った物だし。振り出しに戻ったか……?」

 「んー。エーテル、じゃない?」

 動き回るロマニを眺めていたサエルは言う。

 「エーテル……、そうか! 器があっても中身が空だ! そうだそうだ。良くやったぞミユン!」

 サエルとは偽名で本当の名はミユン。幼くして路頭に迷っていた所をロマニに拾われた。その頃から殺しの技術は既にあり、ロマニの為に暗躍していた。

 「そうとなれば、次は……」

 

 「くっそー、だめかあ。クソお父さんめえ」

 ミーナは自宅の廊下で憤慨していた。

 サリクトが帝都へ行ってからと言うものずっと父と帝都行きの交渉をしていた。交渉と言っても如何に自分がサリクトにとって重要か、自分にとってサリクトが重要か、気持ちの大きさでは負けない、等を延々と父に聞かせているのだった。

 「自分の娘が心配なのかな、でも養子なんだしさ。それにもう十五なんだし、他の子は働いてるし」

 ミーナは孤児である。十年前の魔獣襲撃事件の時に親を亡くしている。その際に養子に引き取ったのはムステラの領主、ゲイツだった。ミーナの両親と親交があったようで他の子は孤児院に入る中、ミーナはゲイツに引き取られた。その後は何不自由無く暮らし、かと言って他の子らから妬まれることも無く、本人が生まれ持った人徳と言うのか、誰からも愛される美少女へと成長した。

 父の愚痴を吐きながら街へと降りてきた。この苛立ちを治めるのはパン屋に売っている砂糖のたっぷりかかった甘い焼きパンしか無い。

 「ああ、クチクラ出ないかな。そろそろなんだけどなあ。あわよくば魔法使いになれないかなあ」

 十五歳になる頃の少年少女は寝ている間にクチクラと言う物質が髪に付着する様な形で枕元に現れる。このクチクラが発生すると成人として扱われ、独り立ちの目安となっている。クチクラの大きさはエーテル量に比例すると言われ、一定サイズ以上であれば魔法使いと認定される。今の帝国では魔法使いとなれるサイズは意図的に小さくされており、魔法使いに劣るエーテル量の魔法士相当であっても魔法使いとされている現状がある。

 「そしたら帝都行けるのに……」

 ミーナはただの呟きに微かな期待を混ぜた程度の独り言を口にする。その時、通りを歩くミーナの少し前をネイジが横切ったのが見えた。

 「ネイジ!」

 追いかけるも見つからない。

 「あれ? 人違いかな」

 「うっす!」

 人を探してキョロキョロしていたミーナの前に少女が現れる。

 「うわ!」

 ミーナよりも幼い少女はこの街の人達とは違う独特な雰囲気の装いをしている。

 「お姉さんの願い、叶うよ。そしたらまた少し動き出すの」

 「な、何? この子……」

 「あ、ホントは私ってあんまり喋っちゃいけないんだ。神様が困っちゃうから。でも皆さんは私のこと覚えててね。じゃあねー」

 「行っちゃった……」

 

 翌朝。

 「ウソ……出来てる」

 ミーナの枕元には薄くクリーム色がかった透明な塊があった。

 

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