そこは仄暗く、不穏
目覚めるとそこはベッドの上だった。木の天井、壁に付く燭台に灯る蝋燭の光が仄暗く揺れる。
「どうしたんだろ……私」
「目覚めましたか」
ベッドの横でロッキングチェアに揺れるブリムガルデ。暇そうに癖っ毛を指に巻き付けては解いている。
「思いの外、底が浅かったですね。私の見立てでは底無しだと思ったんですけど」
「な、何のこと?」
サリクトは身体を起こす。まだ力が入りにくい。
「……まあ今でも十分ですけどね」
「だから何のこと?」
「起きたのか?」
そこにライゼンダルが現れた。
「エーテル欠乏症で倒れるなんてな。大丈夫か?」
ライゼンダルはサリクトに近寄る。そんな二人を目の端で見ながらブリムガルデ。
「ライゼでも倒れます。その子の箒は古い、それも伝説級に。今の世にある箒の様にエーテルを与えて使う物ではなく、強力にエーテルを吸い取ってしまうんです」
サリクトは自身の両手のひらを見つめて呟く。
「そうなのか、確かに今までに無い感覚だったな」
箒を使っている時の高揚感は確かに普通の箒には無いものだった。身体の底から何か湧き上がると感じたあの高揚感は、箒に吸い上げられていたからなのか。
「さあ、注意点もわかりましたね? 続きを始めましょうか」
「え、続き?」
引きつるサリクト、目が輝きだすブリムガルデ。
「一週間、ありますから」
所変わってブランクで狩りをするネムレス達狩猟団。
「はっ!」
灰の大隊改め白夜の団の団長格であるアーの掛け声で全体が連携し攻撃する。
白夜の団はアーを筆頭としべー、ツェー、デー、エー、エフまでの五人の小隊長格がおり、その下に各四人の兵が付く総勢二十六人で構成される。条件によってはもっと増えるらしい。
「出番無いな」
白夜の団に神と崇められているネムレスは彼らに護られている為、何もすることが無い。スペンスは楽で良いと笑っている。ただ、
「おおい! そこはダメだ!」
スペンスが叫ぶ。しかし、尽く切り裂く団員達。
「ああ……、生アクリスが……」
魔獣は細切れになり崩れていく。稼のメインである生アクリスと共に。その後も狩りを続けるが、
「ああ!」
「おい!」
「クソっ!」
「おい……」
「……」
数体狩った所でスペンスが頭から湯気を出し始めた。
「止めだ止めだ! 今日は帰るぞ!」
普段は温厚なスペンスが顔を真っ赤にしてネムレスを睨見つける。
「おいネムレス! 何とかしろ! 全然稼げねえだろうが!」
「お、俺に言われても……」
「お前の舎弟だろうが、お前が何とかしろ!」
ネムレス達は大目玉をくらいその日の狩猟を終えた。ネムレスは白夜の団と共に崩れた生アクリスと肉を持ってアリストラム精肉店へ向かった。
「いらっしゃいませー。あれ? いつになく浮かない顔をしてますねえ」
店主の少女、アリストラムがネムレスの表情を気に掛ける。
「やあ、アリーちゃん……。新しい仲間達が言うこと聞いてくれなくてね」
「すまん、主よ」
と幼児化したアーがペチペチとネムレスの肩を叩く。
「あらあら、可愛い兵隊さんですね」
アリストラムは愛くるしいアー達を見て目を煌めかせ、番台から降りてアーを抱きしめる。その姿は少女らしく微笑ましい。
「ふふ、女の子は人形好きだからなあ」
そんな姿を見てネムレスはほっこりするが、言い方が少し引っかかる。
「ん、今、兵隊って言った?」
「ええ、可愛い兵隊さん達ですね。そうだ、こっち来てください」
そう言うとアリストラムはアーを抱いたまま奥へと消えていく。
「ちょっと! 待って」
ネムレスはアリクトラムを追いかける。いつも大男達が出てきて魔獣肉を引きずり込んで行くこの暗闇。その奥には何があるのだろうか。
ガチャガチャと金属製の鍋やら工具やら包丁やらが乱雑に所狭しとぶら下がる通路の先に彼女はいた。
「さあ、入ってください」
と鉄格子の扉を開け中に入るとネムレスもそれに続く。
中は仄暗く、鎖や巨大な刃物が無数に取り付く壁、その柱毎に付く燭台は先が見えない程続いている。木の床は滑り黒いシミがそこら中に付いている。
「これは血、か……?」
そこは店の外観からは想像も付かない程の広さを持った肉処理場だった。
「さあ遊びましょ」
その一言で天井のシャンデリアの様な巨大な明かりが赤く燃え辺りを一気に昼のように明るく照らす。そしてアリストラムは無邪気な笑顔で背中にアーを縛り付け、片手に肉切り包丁、片手に赤く燃える箒持つ。
「死なないでくださいね」
箒の先をこちらへ向けた少女は無邪気さを失わない笑顔と真逆の台詞を吐く。
「ははは、なんで……?」
乾いた笑いしか出ないネムレスは状況を理解出来ないまま、無意識に剣を抜く。




