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空白の狩猟団  作者: 些阨社
赤き焰、青き刃
21/38

魔法屋

  「一応、ガイドするとだな、ここが帝都で一番大きな通り通称皇帝通りだ。この通りを中心にして左右に各二本、並行に大通りが通っている」

 サリクトの借宿を出て二人が降り立ったのは帝国府の中心であり、皇帝ゲールグライヒの住まうハイバーク宮殿の麓にある広場。宮殿を背にして目の前に伸びる道はいつ来ても広大で圧倒される。ここに家を建てれば何人住めるだろう、などと考えているところ徐ろに歩き出すライゼンダル。遅れまいとサリクトは小走りで付いていく。

 「帝都の建物は遥か昔に存在した超帝国時代の物だと言われている。城郭内の建物は今もほぼその頃のまま使っているんだ」

 超帝国家とは遥か昔に存在した国家、ヌーベリアのことを指す。今知られている世界の全てを統治していたと言われ、多数の王家とそれらを統べる帝王が絶対的権力を握っていた。その時代、エーテル技術、魔法科学は頂点に達し絶大な栄華を誇ったというがその勢いもやがて衰退し、突然帝王が不在となって以降、王家は分裂、消滅、勃興を繰り返し徐々にその力を衰えさせながら今日に至る。ネイジ曰く今の帝国はその残滓を掻き集めて在りし日のマネごとをしている、のだそう。超帝国の名残は今でもあり、どこの国でも言葉は大体通じ、通貨も共通通貨リジュを使用している。以上の内容は狩猟団で無理矢理スペンスに叩き込まれて頭に刷り込まれている。

 「あ、ここ?」

 サリクトは住所辺り出人集りのある店を見つけた。中々に繁盛しているようで、背中にある箒が少し邪魔に感じるくらいに人集りになっている。これは入るには時間がかかりそうだ。

 「そこじゃない」

 「え、でもカンプ魔法書院て……」

 「ここは、普通の魔法使い用だ。お前はこっちだ」

 ライゼンダルはそう言うと人集りから外れた小さい路地の手前で止まる

 「ここだ」

 「え、何も無い、けど」

 そこには何も無く、横に路地があるだけ。

 「壁をよく見てみろ」

 言われた通り見るとそこには何やら消えかかった文字と扉の絵がある。

 「カ、ン……消えかかってて読めないな」

 「それに触れてみろ」

 命令ばかりで何様だと思いながら消えかかった文字に触れるとそれは薄く発光し、はっきりと解るようになった。

 「カンプ魔法堂、だ」

 「魔法の神カンプの名を冠した魔法屋は腐る程あるからな。気を付けるんだな」

 サリクトはその文字の先に矢印が伸びていることに気が付いた。

 「進め、ってこと?」

 ライゼンダルを見ると静かに頷いている。

 その先、要所に光る案内の文字が隠されていて迷うことは無かったが中々骨の折れる道中だった。いくつかの十字路を曲がり、遠大な階段を下り、暗く広大な地下空間に流れる用水路を越え、地上に出たと思えばまた細い路地を歩いた先、唐突に光の降り注ぐ苔むした壁に囲まれた広場に出る。

 「帝都は外から見える形が全てでは無い。古の技術によって様々に拡張された空間がそこら中にあるんだ」

 とライゼンダル。広場の奥に聳える壁面にへばり付く上へ伸びる長い階段を登った先には薄暗い通路、それは路地と言うよりは部屋が沢山ある住居の廊下のようだ。そこも彷徨うように歩き回った後、階段を降りていく。

 「あ、明かりが点いてる」

 暫く進んでいるといつの間にか最初に足を踏み入れた路地の様な景色。そこに道案内の光とは違う、温かみのある光の下に扉があった。近づいて見るとカンプ魔法堂の文字。

 「やっ……と、着いたあ」

 サリクトは長かった道程を思い返し自分を労いながら扉を開ける。蝋燭の灯りが揺らめく薄暗いその中は草や木の枝、古い本、何かしらの液体が入った瓶等が煩雑に配され、お香から立ち昇る白糸の様な煙が妖しく揺れている。

 「いらっしゃいませ」

 若い女性の声がした。

 「おう、久しぶりだな。ブリムガルデ」

 「なんだ、ライゼか。役所の仕事はお断りです」

 二人は顔見知りのようだ。ブリムガルデと呼ばれた女性は気怠そうに勘定台に肘をつき髪の毛をくるくると指に巻き付けている。声色も扉を開けたときよりも低くやる気の無いものに変わった。何処かで聞き覚えのあるような。

 「なんだって、なんだよ。違うよ。ほら」

 ライゼンダルはサリクトの背中を押す。

 「お、と。見学に来ました」

 サリクトはぎこちなく笑う。

 「あら……ふーん、珍しいお友達を連れて来たんですね」

 「珍しい? 友達いないの? ライゼンダルって」

 「いや、いるよ! いないのはあっちの方だよ!」

 とブリムガルデを指差す。

 「何度連れ出そうとしても動かない万年こんなとこに籠もってる人見知りお化けだぞ? そもそも外のことなんか何も知らない世間知らず女なんだ」

 必死なライゼンダルを見てサリクトは思う。友達いないんだな。

 「そんな干からびた奴に友達いないなんて言われたく……あ」

 「ふふ……ふふふふ、そんなこと言ってないんですけどね、今ですね、丁度人の心臓の在庫を切らしてたんですよね……。けど調達の手間が省けそうで良かった……」

 低く響く声で呟くブリムガルデは勘定台の下から巨大な鉈状の刃物を取り出す。

 「ま、待て待て待て!」

 「……」  

 「話せば解る! 話せば解る!」

 数分後。

 「はああ、なけなしの給料が……」

 「まいど。箒の強化したかったんなら早く言ってくださいよ、ライゼ」

 「そんなつもり無かったよ!」  

 機嫌が良くなったブリムガルデはサリクトの方を向く。

 「さて、本題はこっちですかね? 何から始めましょうか」

 「え、何? なんかするの?」  

 突然の問い掛けに戸惑うサリクト。そこにライゼンダル。

 「コイツを一人前の魔法使いにしてくれ。ただ……」

 「グリモアを持っていない。ですね?」

 頷くライゼンダル。

 「え、え? 見に来ただけじゃないないの?」

 まだ戸惑っているサリクト。

 「シルード閣下は最初からここにやるつもりだったのさ。なんではっきり言わないのか、あの人の悪いクセだ」

 「さあ、先ずは貴方の箒を見せて貰えますか?」

 ブリムガルデはサリクトから箒を受け取り優しく一撫で。すると何か彼女の様子がおかしい。

 「……シルードめ、こんな物を持っていたとは……。しかし、これは、さすが神世より古き法器……、ふへ、へへ、軸は失われた樹木の芯から削り出された超高効率エーテル吸収軸、表面を覆う黒色硬化した高純度、高密度のエーテル重合積層組成皮膜は何を持ってしても傷を付けることは叶わない……、ほ、穂先のグリモリックインペラの羽一つ一つがグリモア数個分のエーテル容量を持っている……神の祝福から逃れた奇跡、か……ふふ、素晴晴らしい。たまらない、ふへへへ……」

 その表情は次第に恍惚としたものへと変化していく。

 「暫くは自分の世界から出てこないぞ」

 棚を物色しながらライゼンダルが言う。

 「……暇だな」

 サリクトも店内を物色しだす。沢山の束ねられ吊るされている草や枝、何の用途か分からない不思議な道具、謎の液体の入った瓶、乾燥した何かの肉らしきもの、などなど。魔法使いのお店のイメージ通りだ。サリクトの魔法使いのイメージは小さい頃、寝る前に聞いていた母の昔話とサリクトの幼少期に出会った魔法使いが元になっている。

 「カエルの乾物とか、食べるのかな」

 サリクトの横へ不気味に笑うブリムガルデの顔がぬっと現れる。 

 「ふふふ」

 「うあ!」

 ゾワッと鳥肌が爪先から脳天へ走り抜ける。

 「ふへへ、こ、これを返します……。ふう」

 ブリムガルデは箒を手放すと一息ついて気持ちを落ち着ける。

 「では、少し遊びましょうか?」

 「は、はい?」

 ブリムガルデは戸を開け外へ出ていく。

 「ほら、置いてかれるぞ」

 とライゼンダルも続きサリクトは遅れまいと小走りで外に出る。

 「な、なんだここ…」

 そこは磨き抜かれた石床が敷き詰められた広大な広間だった。

 

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