家
「はぁー、着いたー」
ネイジ達は人を拾ってから数日ブランクを探索し、入り口の町ムステラに帰って来た。
「サリー!!」
と、遠くから駆け寄る人影が一つ。
「げ、ミーナだ」
ミーナは駆ける勢いそのままサリクトに飛び付く。
「おかえりサリー。いつまでいるの? 今から暇? 一緒にご飯食べない?」
「ち、ちょっと。くっつき過ぎだって」
「ははは。サリクトはモテるよなあ。まあタッパもあるし、顔も良いとくりゃ、男も女もほっとかないよなあ!」
「ネイジ、悪いけど先に外れるね」
「おう、無理すんなよ」
サリクトとミーナはコネコネとしながら町に消えていった。
「では、私は町役場へ行って帰還報告して来ますね」
と言って一人が外れる。
「おう、頼むスペンス。さて、と。俺らは肉屋に行くぞ。獲物を金に換えねえとな」
ネイジの後ろ、団員が引く台車には獣など山積みになっている。肉屋の解体場がある町の問屋通りへ続く専用路地を行くと大きな搬入口とその上にはアリストラム精肉店の文字。
「おーい、肉持って来たぞー」
肉屋の搬入口も兼ねる裏口から入る。
「ご苦労さまですー」
番台には小さな女の子が座っていた。
「勘定するので、少し待っててください」
子供らしいイントネーションで元気にそう言うと、少女はトテトテと奥へ駆ける。すると仄暗い奥から数人の大男が現れ台車を中へ引き入れて行く。
「可愛い女の子ですね。お手伝いですかね」
「アイツが店主だよ」
「え?」
「下手なことすんなよ。……此処は《《肉屋》》、だからな」
「……はは、そんな馬鹿な……」
「お待たせしました。全部で五十万リジュになりますね。今回は小物ばかりでしたので少なめですね。魔獣の生アクリスも小さめでしたし」
「いや、それくらいだと思ってたよ。また頼むな」
「毎度ありです。またお待ちしてまーす」
ネイジは小切手を受け取ると、町の中心とは逆、郊外の方へ向かい進む。
「で、だ。ラッキーボーイ。お前家無いだろ? 俺らの家に来ると良い」
「ホントですか? ありがとうございます」
「んで、名前はどうする? 忘れちまったものは仕方ないがラッキーボーイが名前じゃなあ」
「そう、ですね」
「ポチとかどうだ」
「……なんかスゴい犬っぽいですね。何でか分からないですけど、そんな気がします」
「じゃタマってのは?」
「それ猫っぽいです。何でかそう思います」
「文句多いな。じゃあ……」
時は流れ夕刻。
「はぁ疲れた……」
サリクトはミーナに連れ回され疲労困憊の様子。ここはネイジ達の狩猟団が根城としている郊外の古い砦の広間。ネイジの招集により皆集められている。
「はいはい、皆聞いてくれ」
ネイジがラッキーボーイと共に現れた。
「えー、ラッキーボーイの名前を決めました」
「おおー」
一同から何故か拍手が起こる。
「ネムレスだ」
「……」
静まる広間。
「なんだなんだ? 不服かお前ら。しかしな、ラッキーボーイも納得ずくだ。ほら、お前もなんか言え!」
ドンと背中を押され前のめりに一歩出る。顔を上げれば皆の注目が痛い程に集まっていた。
「ええ、あの、ネムレスとなりました。宜しくお願いします」
「質問ー!」
団員の一人が手を上げる。
「はい、どうぞ」
「ネムレスはずっと此処にいるんすか? 記憶が無いんなら医者とか自治会に任せれば良くないすか?」
ネイジはやれやれといった表情で頭を振る。
「分かってねーなあ。あのブランクの山中に素っ裸で寝っ転がってて無傷だったんだぞ? そんな幸運な奴を手放すことあるかよ。一緒に居れば俺等にも幸運が舞い込んで来るってもんだ。それに町なんかに居るよか、一緒にブランクに行ったほうが記憶も戻りやすいだろ」
「……そんなもんすかねえ」
「そんなもんなんだよ。で、ネムレスの教育係としてサリクトを任命する」
「へぇ……、え!?」
「予備の装備一式を使え。箒も教えろ。なるだけ早く使えるようにしろ」
「えー。仕事増えんのかぁ……」
「出来ない言い訳より出来る方法を考えて欲しいもんだ。以上、解散!」
「ふう、任されたからにはやるしかない、か。私はサリクト、宜しくねネムレス」
サリクトはスラリとした長身、長い黒髪が美しい整った顔立ちをした少女だ。薄くそばかすが見えるがそれが彼女に愛らしさを付与している。
「……」
「何? 私じゃ不服なの?」
「あ、いや、宜しく」
ネムレスの狩猟団生活が始まった。