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空白の狩猟団  作者: 些阨社
バタリオン・オブ・アッシュ
18/38

住処の塔

 見知らぬ土地に立ち尽くすサリクト。その耳元に囁く声。

 「ムステラとは違いますかな?」

 見知らぬ男の顔が真横に。

 「うあ!……あんた誰!?」

 サリクトの言葉に少し苛立ちが現れる。突然知らない男に馴れ馴れしく声を掛けられると何故かイラッとする。

 「これは失礼。私はライゼンダルと申します。シルード中将閣下よりあなたの帝都でのお世話を任ぜられました」

 ライゼンダルから漂う気品と余裕。

 「庶民の私にそんなことしたくないんでしょ。やめなよ」

 怪訝な表情をするサリクトにライゼンダルは清々しい笑顔を向けてくる。

 「まさか、貴方は特別な魔法使い。それは敬うに値しましょう」

 「その喋り方、気持ち悪い。普通に喋れないの? それに私魔法使いじゃないし貴族じゃないよ」

 「……ふふ、はははっ!」 

 「え? なに? こわ」

 「そうか、シルード閣下から《《丁重に》》と言われたんだがな。いや、実は俺も庶民の出なんだ。魔法使いさ。」

 「ふうん、その割に貴族らしく振る舞うじゃん」

 「こんなとこに長いこと居ればそうなる。さて、そんな大荷物だと大変だろう。とりあえず君の家へ案内しよう」

 二人は箒で空を飛び市街の方へ向かう。ライゼンダルの箒もサリクトと同じく箒に似ていてギルバスの様なゴチャゴチャとした機械は付いていない。

 「ほんとの魔法使いなんだね」

 思わず口に出てしまった。

 「そうだとも。貴族が金にモノを言わせて買ったニセモノではない。帝国ロウチャード工廠謹製のメカニカグリモアとメカニカブルーム、あんなバカ高い物をよく買うよ。軍の払い下げとか民生用は少し安いようだが」

 「ふうん、ん? ロウチャード……?」

 「そうだ。ロウチャード伯が管理する軍需工場さ。ベイルズ子爵……あ、ギルバスのことだが、アイツは軍の技術部試験室室長とか言う肩書もあるんだ」

 「ああ、だからアイツあんな高そうな箒もどき持ってるんだ」

 二人は会話しながら帝都の空を飛ぶ。帝都市街は立体的な構造をしており複雑に入り組んでいる。巨大なキノコの様な独特な構造をしたタワーと呼ばれる建造物を中心に、キノコの笠の下に取り巻きのように乱立する建物達を纏めてブロックと呼ばれる一単位となる。タワーの高さは様々だが、大体は下層、中層、上層からなり、上層以外それぞれ十階程度ある構成が多い。下層は魔法を使えない一般人達が生活する庶民達、中層は箒乗り、魔法使い達が、上層は貴族達が居住する。上層は下階と比べ敷地面積が倍以上広く、その下は日当たりが悪くなるが、上層階の下面には発光体が埋め込まれ自然光と同じ程の明るさを下層に提供している。また隣接するブロックの各タワー上層が近くなったり重なったりしていることで市街全体の屋根の役割を果たし下階はあまり天候に影響されずに生活出来るようになっている。

 「来るたび思うけど、落ちてこないのかな、あれ」

 巨大で不安定に見える構造の建造物郡にサリクトは少し不安を感じる。

 「さあ、ここだ」

 ライゼンダルは中層の一室にあるベランダに降り立つ。室内はキッチン、リビング、寝室、浴室、ウォークインクローゼット、客室などなど、かなり部屋数がある作りになっている。しかし貴族と言うには質素な部類である。

 「ここと、この上に二階がある。好きに使って構わない」

 「二階も!? そんな部屋あっても困るんだけど……」

 「なに、使わなければそれでいい。中層は中々住人が増えないんだ、遠慮せず使え」

 「そ、そう。家賃とか高そうだけど、どうなの?」

 「家賃は必要ない。魔法使い一人入居することでこのタワーの光や熱を生成するエーテルが賄える。いわば君はこのタワーのエーテル源になるんだ。ただ居るだけで家賃分の働きをしていることになる」

 「普通の人でもお湯を沸かせるし明かりも点けられるでしょうに」

 「タワーと言うのは多くの住人が住む前提で造られているんだ。通路の照明、住居以外の空調、トイレなどなどの共用設備のエネルギーはこのタワーは居住者が使い切らず溢れた余剰エーテルを吸収して動力源としているんだ。でも普通の人間のエーテルなんてたかが知れてるし、全く溢れ無い人もいる。そもそも人が居なけりゃそんなことも出来ない。そう言うタワーは他のタワーからエーテルを買ってるんだ。しかしお前は馬鹿みたいに無尽蔵とも言えるエーテルをバカスカ生み出している。タワーはエーテルを、お前は家賃を、まあ相互利益ってやつだな」

 褒められているのか、貶されているのか。

 「馬鹿みたいにバカスカ出してんのはアンタも同じでしょ」

 「まあ、そうだな。ほら、荷物置いて次行くぞ」

 ライゼンダルは軽く流す。

 「次ってどこ?」

 雑嚢を降ろし、着膨れする外套とその他余分な衣類を脱げば肌着一枚、スッキリとスレンダーなサリクトの輪郭が露わになる。同年代の女子と比べ背は高い方だと言われ、町のオジサン達と同じくらいはある。サリクトは知らないが町には隠れサリクトファンの婦女子がそれなりの数いるらしい。

 「ん? 何見てんの」

 「あ……あ、いや、じゃ次は魔法屋だな」

 ライゼンダルは泳がせた目を部屋の壁に留める。

 「魔法屋って生活用品買うの? グリフとか日用魔具は大体持たされてるし、行かなくても良いんじゃない?」

 着替え終えたサリクト。

 「いいから付いてこい」

 ライゼンダルとサリクトは箒に跨り町へ飛び立つ。

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