感じる流れ
「隊長、これは……」
灰鎧の群れが何かを囲う。それはサリクトが屠った玉の魔獣が落ちていた所だ。魔獣の死骸はシルード達が持ち帰り残っていないが、謎のエーテル液の跡が残っていた。
「コレを仕留められる奴が我々の他にもいるとは。まあ良い。《《残り》》を探すぞ」
「……で、シルードに帰された、と」
「申し訳ありません。私の力及ばずに、ネイジ一党がまたブランクに入ることとなってしまいました」
「ふん。気にするな、お前には期待していない。それにそれはもういいのだ、目的は達したからな」
「は? 目的、とは」
「お前は知らなくて良いことだ」
「は。……では、失礼します」
ギルバスは重い扉を閉める。
「父上……」
自室へ帰る彼の心には重い影が落ちていた。
「いやあ、狩りって良いなあ! 生きてるって感じする」
久しぶりにブランクへ入り狩りをしているサリクト達。
「サリクトって、女の子ですよね? ミーナと同じとは思えないな……」
「決め付けは良くないぞネムレス。ヒリヒリするような命のやり取りが心地良い女の子がいても良いじゃないか」
「……」
良くない、とも言えず言葉を無くすネムレス。
「狩猟団にいると性格もそれらしくなるんですね」
「おいおい、職業差別か? 良くないねえ」
「いや、ミーナはあんなに愛らしいのに、サリクトの無骨さと言うか、ガサツと言うか……。災害の孤児なのは可愛そうだと思いますけど」
「ん? ああ、サリクトは孤児には違いないが、ここの子じゃないぞ」
「え? そうなんですか? じゃあ……」
ネイジをじっとりと見つめるネムレス。
「俺の子でもねえよ。昔に拾ったんだよ」
「拾った? 何処で?」
「内緒だよ。人には言えないこともあるってことだ。お」
サリクトがこちらに来るのが見えネイジはネムレスを置いてそちらへ向かう。
「サリクト、か」
ネムレスはこの前のサリクトの姿を思い出していた。光のベールに覆われた様な姿。とても一般的な現象とは思えない姿だが、何故かネムレスはそのサリクトの雰囲気に懐かしさを覚えたのだった。
「あ……」
唐突にネムレスの頭に記憶の断片が浮かび上がった。
何処か洞窟のような、暗く冷たい空気の感触。背後から差す光。その方を見ると、閉まりつつある扉とその向こうに立つ鎧を着た多数の人影。逆光で顔は見えないが、皆此方を向いている。それらはネムレスをじっと見つめているように感じる。
「……それは気になるな」
ネイジの声ではっと我に返る。
「どうしました」
いつの間にか戻っていたネイジは干し肉を齧りながら地図をみていた。
「サリクトが腐ち掛けの魔獣の死体が何箇所かで見かけたらしい」
久しぶりの狩りのため、サリクトは拠点から大きく離れ広範囲に伸び伸びと狩りを満喫していた。狩猟団は基本的に狩猟部隊が狩った魔獣に魔法印付けて後で回収部隊が回収する。サリクトもそうしているが、サリクトの行く道中、多数の切り傷を負ったマーカー無しの魔獣の死体が点在していたと言う。
「ブランクに来といてせっかく倒した魔獣を置いていくなんて、蒼鋼亭の魔獣ステーキを頼んでおいて食わずに眺めて帰るくらい訳わかんねえぜ」
「そんなの普通の人間じゃないね。それかムラクの高僧だよ」
サリクトは信じられないと言った表情で手をワキワキさせる。
「ムラク?」
「ムラクはこの町も含むノーザード領のお隣にある友好的な宗教国だよ。そこもブランクと接しててな。まあ同じ悩みを持つ同志みたいなもんだ」
「で、どうすんの? 死体とは言え生アクリスはあるかもよ? マーカーも無いなら誰も文句言わないんじゃない?」
サリクトは携帯飲料ボトルを咥えながら、上半身の防具を外して汗を拭いている。
「駄目だろうな。腐ちかけならもう黒色化しきってるだろうし、持って帰れねえ。そもそもそんな臭えもん触りたくもねえ」
ネイジは残りの干し肉を口に放り込む。
「ふむ、この前の新種の魔獣の出現といい……。何か、始まっちゃったのかもなあ」
ボンヤリと発せられたその言葉に誰も軽口を返せなかったのは、皆薄っすら同じことを肌で感じていたからだった。




