ギルバスと言う男
「やめろ、って?」
後一撃の所で水を差されたサリクトは頭の血管が破裂しそうな程の怒りを押さえ静かに言う。
ギルバスは箒でふわふわと魔獣とサリクトの間に割って入る。
「そうだ。この新種の魔獣、アカデミーに持ち帰り研究サンプルとするのだ」
フフンと鼻を鳴らす。それはそこにいる全員の気持ちを逆なでした。
「……どけ」
静かなサリクト。
「言葉が分からないのか? やはり狩猟団にいるやつは学がないな。お前らは用済みだと言っているのだ!」
「ギルバス殿! まだ魔獣は死んでないんですよ! 危険です! 離れて!」
ネムレスはギルバスをあの場所から引き剥がしたい思いでいっぱいだが、ガイランの手当てに苦戦し手が離せない。
「どけよ」
サリクトは尚も静かな怒りを言葉に滲ませる。
「ふん。なんども言わせるなよソバカス女! これは……あ」
サリクトの我慢が限界を超えた瞬間だった。サリクトを中心に爆風の様な風が突然吹き、周囲の物を吹き飛ばしギルバスは玉の魔獣へぶち当たる。
「さ、サリクトー!」
ネムレスは爆風からガイランを守りつつ、サリクトの方を見る。すると、そこには頭から光をまとうサリクトがいた。
「ソバカスって……、言うな!」
そう言うサリクトの顔には確かにソバカスがあるが、そこまで激昂するとは思っていなかったネムレスはこれから言わないよう肝に命じた。が、よく見ると今のそのサリクトにはそのソバカスが無い。代わりに美しく澄んだ肌、その顔の周りにキラキラとした小さな結晶の様な物が浮遊している。そしてそれは両手首、両足首にも現れ、それらが光を放ちサリクトを包んでいるのだった。
「な、なんだ! お前 ぐ!」
「黙れよ」
サリクトは玉の魔獣にへばり付くギルバスの胸ぐらを掴み強引に引き剥がす。
「や、やめろ……」
サリクトが銃を持ち上げようとした時、玉の魔獣が突然ブクブクと内部が沸騰したように暴れ膨らみ出す。同時にサリクトは玉の魔獣に向け引き金を引く。
「黙れっ!!」
発砲の瞬間、大きな風のうねりと共に銃口に青白い光が帯を引くように周囲から集まり大きな光の玉が形作られる。
「サリクトー!」
風に飲まれないようガイランを固く抱きしめ踏ん張るネムレス。サリクトの光の玉はどんどん大きくなりあっという間に魔獣の四分の三を飲み込むと、飲み込んでいた魔獣の身体と共に一気に収縮しプツンと消えた。残りはべチャリと地面に崩れ落ち、謎のエーテル液も殆ど消えてしまった。
「ほ、ほう。少し残したのか。まぁ、良しとしよう。さ、降ろしたまえ」
ギルバスはサリクトの手を解こうと手の甲に触れる。
「触んな!」
「ひっ!」
サリクトは魔獣に向けていた銃口をギルバスの額に押し付ける。
「コレを見ても魔獣をただの動物だと思うのか?」
「ふ、ふん! この魔獣も好きで襲った訳ではあるまいよ。お前らが刺激したか……」
「死ね」
サリクトは銃の引き金を引いた。
「ひいっ!」
カチン
銃口は先の光の玉のせいで潰れていた。またその負荷により銃自体も使い物にならなくなっていた。
サリクトは手を離すとギルバスは地面はドサリと落ちるもすかざす起立しいつもの尊大な姿勢をとる。
「お、お前! 顔を覚えたぞ! 貴族に手向かうことがどう言うことか! 分からせてやる! はははは!」
とそこにパチパチと拍手の音が鳴る。
「いやいや、面白いものを見せて頂きました」
手の鳴る方を見れば若い優男。ギルバスと同じ制服を着用しているが、こちらの方が高貴な装飾を施されている。その男の後ろには箒を持ち整列する大群。
「シルード閣下! なぜここに?」
「君が空箒騎兵団を呼んだんでしょうに。私の居ない間に好き勝手しようとでも?」
「閣下ぁ?」
サリクトは馴染みのない敬称で呼ばれる男を怪訝な表情で見つめる。その優男はと言うと微笑みながらこちらに近付いてくる。
「いやいや、肩書が大層なだけで、僕はちっぽけな人間さ。ウチのギルバスがご迷惑をお掛けしたようで申し訳ない」
「閣下、これは正式な指令のもとですね……」
「元老院の御老体も困ったものだ。血族とは言えこうも勝手に使われると、良い気はしないな」
「そ、それは……」
シルードはサリクトの方へ向き微笑む。
「さて、君には嫌な思いをさせてしまったね。お詫びは何が良いだろうか……ふむ」
サリクトの頭から爪先までまじまじと見るシルード。サリクトはと言えば先程の光の粒は消え、元の顔に戻っている。
「へぇ。面白いねぇ君」
「な、なに」
「そうだ。今度帝都に招待させてくれないか? お友達も連れてくると良い。そこの彼と、《《可愛い彼女もね》》」
サリクトは背筋に冷たい物が伝う感覚を覚えた。なんだコイツは、ミーナのことを知っている。いや、確かに可愛いが、彼女って程では無いんだ、うん、でも、しかし……。いやいやそんなことはどうでも良い。サリクトは頭を振り雑念を払う。何故知っているんだ。初対面のこの男。サリクトは何か太刀打ち出来ない強大さを男に感じてしまう。そして、
「は、はい」
などと返事をしてまうのだった。
かくしてガイランの仇討ちは幕を閉じた。その後ガイランは町医者の世話になり暫く狩猟団は休業、ネイジ達の狩猟禁止命令はシルードの計らいで撤回されることとなった。ギルバスはシルードに連れられ帰って行った。




