幸運の名の下に
「ネイジー! 人が倒れてるー! 素っ裸だ!」
鬱蒼とした山の中、日も落ちかけた時分に行き倒れを見つけた少女の声。
「なんでこんな所に人が居るんだよ。しかも手も足も全部残ってるって……」
男は空と辺りを見渡す。
「……今日はここらで野営だな。あー、あー、ネイジだ。狼煙を上げる。皆集まれ」
次いで行き倒れの男を見やる。
「運が良いのか悪いのか……」
日が落ち暗い山に一つの明かりと人の影。焚き火を囲む男と少女、それとその他大勢。干し肉をしゃぶる者、得物の手入れをする者、外敵避けの魔法具に集中する者、などなど。
「魔獣、見失ったね」
少女が言う。
「横穴でもあるのかもな。空から見てた箒隊も見失ったんだから」
「狩りはしたけど、獣と小型の魔獣じゃあね。稼ぎが淋しいんじゃない?」
「子供がんな事気にすんじゃねーの。この前の稼ぎがあるから大丈夫だよ」
「強欲のネイジが良く言うよね」
「それさ、誰だよ言ったやつ。勝手に渾名されてこっちゃ迷惑だよ」
「ん、んん……」
行き倒れの男が目を覚ます。
「ん、何処だここ……」
辺りを見渡せば此方を見つめる多数の眼。
「うあっ!」
男は布を掛けられ全裸では無くなっていた。
「目え覚めたかい? ラッキーボーイ」
「ラッキーボーイ……?」
「そうだよ。危険過ぎてどの国も治められないこの空白地帯のど真ん中で呑気に寝てたんさ。しかも無傷で。どんだけ幸運なの」
とネイジの代わりに少女が言う。
「ブラ、ンク……」
「この奥に霊穴があるんだ。強力な魔獣がうじゃうじゃ居るし、エーテルが濃い場所もそこかしこにある。何の装備も無しに昼寝出来るほど穏やかじゃねーんだな。ほれ、食いな。」
ネイジは干し肉を齧りながらラッキーボーイに同じ干し肉を差し出す。
「はぁ……。で、皆さんはどうしてそんな危険な場所に?」
「そりゃ魔獣狩りさ」
少女が言う。
「その質問を聞くにラッキーボーイは狩猟団稼業をよく知らない都会育ちと見た。私達狩猟団は魔獣や獣をかることが生業なのさ。魔獣の持つ生アクリスは結構良い稼ぎになるし。でもまあ育ちの良い坊っちゃんは知らなくても仕方ないか」
「サリクトの言う通り、魔獣は金になる。まぁ、魔獣が人里に降りて悪さするのを防ぐ目的もあるし、駆除したら報酬も貰える。俺等みたいな筋肉馬鹿にはうってつけの稼ぎ場なのさ」
「金、ですか」
「で、アンタは何してたの?つか名前は?」
とサリクト。
「私? 私は……」
「私は……?」
鸚鵡返しの後に固唾を飲んで見守る一同。
「私は……、誰だ……?」